129 / 355
第百二十九話 復活の勇者(邪神付き)
しおりを挟む
話はひと月前にまで遡る。
「あの野郎! ぶっ殺してやる!」
カズキを見て魔法をぶっ放してきた男。彼が永い眠りから醒めて最初に行ったのは、口汚く誰かを罵る事だった。
「荒れてるじゃねえか。まさか、復活に四か月も掛かるなんてなぁ。随分とこっぴどくやられたようじゃねえか、えぇ? 元国王さんよぉ?」
そんな彼に声を掛けたのは、豪華を通り越して、いっそ下品と言った方が良さそうな玉座に座り、長い鎖をジャラジャラ鳴らしているモヒカンの男。
『勇者国家サイトウ』の、第六百六十七代目国王、『ヨサク・サイトウ』その人であった。
『勇者国家サイトウ』が渋々ながらも(勇者にしか邪神を倒せない仕様になっていた為だ)国家として認められてから百五十年程。それ程歴史がある訳でもないのに現国王が六百六十七代目なのは、玉座に座る人物が頻繁に変わる所為である。
この国に住む者は皆、自分は選ばれた人間だと思っているので、最強(笑)を意味する勇者国の玉座を、誰もが狙っているのだ。
どんな手段(主に不意打ちや暗殺)を使っても、王を殺した者が次の王になるので、一日の間に複数の人間が即位する事もざらにある。
殺されてもその内復活するという能力がある為、人の命が軽いという事も背景にあるのだろう。
「うるせぇ! 雑魚は引っ込んでろ!」
その言葉と同時に、男はヨサクを薙ぎ払う様な仕草をする。と、男が望んだとおりに不可視の衝撃波が発生し、現国王であるヨサクを、玉座諸共に粉砕してしまった。
魔法を使えない筈の男は、自分が魔法を使ってヨサクを殺した事実に確信を深める。
「フハハハハッ! やはり夢じゃなかった! 俺は、邪神の力を取り込み、最強の存在へと進化したのだ!」
ヨサクが死んだ結果現れた黒い棺桶。それにゲシゲシと蹴りを入れながら、高笑いを上げる男。
そこへ、騒がしい玉座の間の様子を見に来た(隙あらばヨサクを殺す気だった)勇者(モブ。やはりモヒカン)たちが現れる。
そこで彼らが見たのは、粉々に破壊されているミスリル製の玉座と、勇者国史上、最長の在位期間(二年)を誇った男だった。
「「「・・・・・・」」」
傷つける事すら難しいミスリルが破壊されているという状況に、駆け付けた勇者たちが恐怖で後ずさる。
それを見た男が、彼らを見てニヤリと嗤った。
「丁度いい所に来た。お前たちには、新しく得た力の実験台になって貰う。・・・・・・出てこい魔物ども! 世界の支配者である、この俺の命令に従え!」
その言葉と同時に『門』が開き、そこから多種多様な魔物が現れる。
「・・・・・・殺れ!」
そして、男の命令に従って、目の前にいる男たちに襲い掛かった。
「バ、バカな!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ゲヒャヒャ!」
「ブヒブヒッ!」
男が呼び出した魔物に袋叩きにされ、次々と倒れていく勇者(モブ)たち。
その様子を男がニヤニヤ見て、騒ぎを聞きつけた勇者が現れては魔物に殺され、とそんな事を繰り返していると、いつの間にか男の周りは棺桶だらけになっていた。
「ヒャハハハハ! 邪神を取り込んだ以上、俺に傷をつけられるのは同じ勇者だけだ! そして、俺は勇者の中で最強の力を持つ男! つまり! 俺様に勝てる奴は、この世に存在しない! 忌々しい『剣帝』だろうと、『大賢者』であろうとだ!」
勇者を使って邪神を討伐するという目的の為、『勇者国家サイトウ』に乗り込んできた、巷で英雄と持て囃されている二人の男。
その圧倒的な実力の前に、男を始めとした勇者たちは全く歯が立たず、あっけなく無力化されて、邪神への攻撃手段として利用された屈辱を、男は忘れていなかった。
「まずは、てめえらの暮らすランスリードが標的だ! 行け、ゴブリン共! ランスリードの住民を虐殺し、調子こいた奴らに自分の無力さを味わわせてやれ!」
そう言って門を開き、ランスリードのどこかへゴブリンエンペラーを送り込む男。後に、カズキによって壊滅させられたゴブリンの群れは、こうして野に解き放たれた。
「てめえらは俺様と一緒にエルフのところだ! 言い伝えによると、そこに魔法金属がある! ミスリルなんてちんけな玉座は、新世界の支配者である、俺様が座るには相応しくないからな!」
当初は恩返しの為に伝えられた、初代タゴサクがエルフと交わした盟約。それは勇者国を建国した男によって歪められ、今では勇者に救われた恩を忘れ、本来なら勇者の所有物である魔法金属を、エルフが深い森の奥に結界まで張って隠匿している、という内容に変貌していた。
彼は、自分で壊してしまったミスリルの玉座の代わりを、新たな魔法金属で用意する事を考えていたのだ。
そして現在――。
「・・・・・・誰だ? お前」
放たれた魔法をあっさりと防いだカズキは、見覚えのない相手と対峙していた。
「バカな・・・・・・。邪神の力をモノにした俺様の魔法を、あっさり防いだだと・・・・・・?」
カズキの誰何の声に応えず、呆然とする男。
邪神の力を得て調子に乗っていた彼は、今の今まで、自分の身に起きた事を忘れていた。
そう、現在の力を身に宿すきっかけとなった、死ぬ直前の出来事を。勇者以外の攻撃を受け付けない邪神を、誰もが思いつかない方法で葬り去った、規格外の魔法を使う少年の事を。
「邪神? 何のことだ?」
「ミャー」
「ああ、そう言えば、そんな事もあったなぁ。確か、【テレポート】で同じ場所に飛ばしたら、融合してたんだっけ?」
「ミャッ」
「流石ナンシー。よく覚えてるなぁ。俺なんかすっかり忘れてたのに」
一方のカズキは、ナンシーに言われて漸く男の事を思い出した。とは言っても、『そんな奴がいたなぁ』程度だったが。
「ニ゛ャー?」
「うん、確かに倒したんだけど、融合したアイツが邪神の力を奪ったみたいだ。・・・・・・御免な? アレン。今回の騒動は、俺にも原因があるみたいだ」
「ミ゛ャー」
「邪神を倒したのは間違いないんだから、気にするなって? ありがとう。アレンは優しいなぁ。でも――」
相変わらずの人(猫)格者ぶりを発揮するアレンを撫で、カズキが男に向き直り、言った。
「後始末はしないといけないよな?」
「あの野郎! ぶっ殺してやる!」
カズキを見て魔法をぶっ放してきた男。彼が永い眠りから醒めて最初に行ったのは、口汚く誰かを罵る事だった。
「荒れてるじゃねえか。まさか、復活に四か月も掛かるなんてなぁ。随分とこっぴどくやられたようじゃねえか、えぇ? 元国王さんよぉ?」
そんな彼に声を掛けたのは、豪華を通り越して、いっそ下品と言った方が良さそうな玉座に座り、長い鎖をジャラジャラ鳴らしているモヒカンの男。
『勇者国家サイトウ』の、第六百六十七代目国王、『ヨサク・サイトウ』その人であった。
『勇者国家サイトウ』が渋々ながらも(勇者にしか邪神を倒せない仕様になっていた為だ)国家として認められてから百五十年程。それ程歴史がある訳でもないのに現国王が六百六十七代目なのは、玉座に座る人物が頻繁に変わる所為である。
この国に住む者は皆、自分は選ばれた人間だと思っているので、最強(笑)を意味する勇者国の玉座を、誰もが狙っているのだ。
どんな手段(主に不意打ちや暗殺)を使っても、王を殺した者が次の王になるので、一日の間に複数の人間が即位する事もざらにある。
殺されてもその内復活するという能力がある為、人の命が軽いという事も背景にあるのだろう。
「うるせぇ! 雑魚は引っ込んでろ!」
その言葉と同時に、男はヨサクを薙ぎ払う様な仕草をする。と、男が望んだとおりに不可視の衝撃波が発生し、現国王であるヨサクを、玉座諸共に粉砕してしまった。
魔法を使えない筈の男は、自分が魔法を使ってヨサクを殺した事実に確信を深める。
「フハハハハッ! やはり夢じゃなかった! 俺は、邪神の力を取り込み、最強の存在へと進化したのだ!」
ヨサクが死んだ結果現れた黒い棺桶。それにゲシゲシと蹴りを入れながら、高笑いを上げる男。
そこへ、騒がしい玉座の間の様子を見に来た(隙あらばヨサクを殺す気だった)勇者(モブ。やはりモヒカン)たちが現れる。
そこで彼らが見たのは、粉々に破壊されているミスリル製の玉座と、勇者国史上、最長の在位期間(二年)を誇った男だった。
「「「・・・・・・」」」
傷つける事すら難しいミスリルが破壊されているという状況に、駆け付けた勇者たちが恐怖で後ずさる。
それを見た男が、彼らを見てニヤリと嗤った。
「丁度いい所に来た。お前たちには、新しく得た力の実験台になって貰う。・・・・・・出てこい魔物ども! 世界の支配者である、この俺の命令に従え!」
その言葉と同時に『門』が開き、そこから多種多様な魔物が現れる。
「・・・・・・殺れ!」
そして、男の命令に従って、目の前にいる男たちに襲い掛かった。
「バ、バカな!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ゲヒャヒャ!」
「ブヒブヒッ!」
男が呼び出した魔物に袋叩きにされ、次々と倒れていく勇者(モブ)たち。
その様子を男がニヤニヤ見て、騒ぎを聞きつけた勇者が現れては魔物に殺され、とそんな事を繰り返していると、いつの間にか男の周りは棺桶だらけになっていた。
「ヒャハハハハ! 邪神を取り込んだ以上、俺に傷をつけられるのは同じ勇者だけだ! そして、俺は勇者の中で最強の力を持つ男! つまり! 俺様に勝てる奴は、この世に存在しない! 忌々しい『剣帝』だろうと、『大賢者』であろうとだ!」
勇者を使って邪神を討伐するという目的の為、『勇者国家サイトウ』に乗り込んできた、巷で英雄と持て囃されている二人の男。
その圧倒的な実力の前に、男を始めとした勇者たちは全く歯が立たず、あっけなく無力化されて、邪神への攻撃手段として利用された屈辱を、男は忘れていなかった。
「まずは、てめえらの暮らすランスリードが標的だ! 行け、ゴブリン共! ランスリードの住民を虐殺し、調子こいた奴らに自分の無力さを味わわせてやれ!」
そう言って門を開き、ランスリードのどこかへゴブリンエンペラーを送り込む男。後に、カズキによって壊滅させられたゴブリンの群れは、こうして野に解き放たれた。
「てめえらは俺様と一緒にエルフのところだ! 言い伝えによると、そこに魔法金属がある! ミスリルなんてちんけな玉座は、新世界の支配者である、俺様が座るには相応しくないからな!」
当初は恩返しの為に伝えられた、初代タゴサクがエルフと交わした盟約。それは勇者国を建国した男によって歪められ、今では勇者に救われた恩を忘れ、本来なら勇者の所有物である魔法金属を、エルフが深い森の奥に結界まで張って隠匿している、という内容に変貌していた。
彼は、自分で壊してしまったミスリルの玉座の代わりを、新たな魔法金属で用意する事を考えていたのだ。
そして現在――。
「・・・・・・誰だ? お前」
放たれた魔法をあっさりと防いだカズキは、見覚えのない相手と対峙していた。
「バカな・・・・・・。邪神の力をモノにした俺様の魔法を、あっさり防いだだと・・・・・・?」
カズキの誰何の声に応えず、呆然とする男。
邪神の力を得て調子に乗っていた彼は、今の今まで、自分の身に起きた事を忘れていた。
そう、現在の力を身に宿すきっかけとなった、死ぬ直前の出来事を。勇者以外の攻撃を受け付けない邪神を、誰もが思いつかない方法で葬り去った、規格外の魔法を使う少年の事を。
「邪神? 何のことだ?」
「ミャー」
「ああ、そう言えば、そんな事もあったなぁ。確か、【テレポート】で同じ場所に飛ばしたら、融合してたんだっけ?」
「ミャッ」
「流石ナンシー。よく覚えてるなぁ。俺なんかすっかり忘れてたのに」
一方のカズキは、ナンシーに言われて漸く男の事を思い出した。とは言っても、『そんな奴がいたなぁ』程度だったが。
「ニ゛ャー?」
「うん、確かに倒したんだけど、融合したアイツが邪神の力を奪ったみたいだ。・・・・・・御免な? アレン。今回の騒動は、俺にも原因があるみたいだ」
「ミ゛ャー」
「邪神を倒したのは間違いないんだから、気にするなって? ありがとう。アレンは優しいなぁ。でも――」
相変わらずの人(猫)格者ぶりを発揮するアレンを撫で、カズキが男に向き直り、言った。
「後始末はしないといけないよな?」
10
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる