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第百二十八話 アレン、頑張る

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 突然起きた爆発に、へたり込んでいたエルフたちが一斉に立ち上がった。

「まさかっ!? 世界樹の魔力を利用した、一番強固結界が破られたとでもいうのか!?」

 妙に説明的な台詞を口走りながら、リーダーっぽい男が爆発が起こった方向へと走り去る。それに一拍遅れて、他のエルフたちも走り去った。

「ミ゛ャー」

 アレンもカズキ達に一鳴きすると、やはり爆発の起こった村はずれへと走り出す。一瞬でトップスピードに乗ったアレンは、先行したエルフをあっという間に抜き去り、姿が見えなくなってしまった。

「『これは自分達の問題だから、迷惑を掛けられた俺たちは帰ってもいい』か。アレンは男前だな」
「ミャー」

 エルフの代わりに謝罪したアレンは、爆発と同時に集落になだれ込んできた百匹近い豚面の魔物オーク。その先頭にいた一匹の喉笛を嚙みちぎり、後続のオークの中心にを叩き込みと、たった一人で獅子奮迅の活躍を始めた。

「アレンに続け!」

 そこに漸く追いついたエルフたちも加わり、バタバタとオークは倒れていく。百匹近いオークはあっという間に倒されたが、アレンは気を抜かず、森の奥を睨みつけていた。

「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・。まさか、これ程の数のオークがいるとはな。勇者相手に精霊魔法を使ってしまったツケを、こんな所で払う事になるとは思わなかった」

 アレン同様、森の奥を見ているエルフのリーダー(仮)が、今更のように反省を口にする。

「敵を侮っていたな。まさか、森の外周に現れた魔物が陽動だったとは・・・・・・。勇者が来てくれたとは言え、流石にこの数が相手では撃退するのは難しいだろう。外周に釘付けにされている戦士団とどうにか連絡を取らなければ・・・・・」
「だが、誰が行く? 戦士見習いの我々では、エンペラーに率いられたオークの群れを突破するのは難しいぞ?」

 ゴブリン同様に、オークにもエンペラー種が存在する。能力はゴブリンエンペラーと全く一緒で、剣と魔法を使い、自身が率いるオークを強化する事が出来る。違いは、ゴブリンよりも好戦的なところだろうか。

「ニ゛ャー・・・・・・」

 森の外周にいる戦士団と連絡を取る方法を考える余り、眼前の敵への警戒を疎かにしているエルフたちを見て、アレンが呆れたように溜息(?)を吐く。
 
「アレンも大変だな」
「ニ゛ャッ!?」

 最大限の警戒をしているにも関わらず、なんの気配も感じさせず、突然、隣に現れたカズキに、アレンが驚きのあまり飛び上がった。

「驚かせて御免な? お詫びに、アイツらは俺が相手をするから」
「ミ゛ャー」
「ん? 大丈夫大丈夫。心配いらないって。な? ナンシー」
「ミャッ」
「・・・・・・」

 自信満々なカズキとナンシーの様子に、アレンが渋々引き下がる。カズキが強いのはわかっているが、自分達の問題に巻き込むのは気が引けるらしい。
 問答無用で攻撃してきた挙句、謝罪もしてないのにカズキが手伝うのが当然だと思っている、頭の沸いたエルフたちとは比較にならない人格者である。猫だが。

「さて、時間が勿体ないからちゃっちゃと片付けるか」

 そう言ったカズキの目の前に、一センチにも満たない大きさの、無数の小さな炎の球体が現れた。

「なにっ!? 詠唱も無しに、炎の精霊を呼び出しただとっ!?」
「しかもあの数! 戦士団の長が一度に召喚できる数を、遥かに超えているぞ!」
「はっ!? まさか彼は・・・・・・、いや、あの御方は! 遥か昔に姿を消した、我らを導くハイエルフ様なのでは!?」
「きっとそうだ! この聖域に張られた結界を素通りできた時点で気付くべきだったのだ!」
「「・・・・・・ニャー」」

 見当違いな事を喚いているエルフを見て、やれやれとばかりに首を振るアレンとナンシー。
 どうやらアレンは、古代魔法の存在を知っているらしい。色々と謎の多い猫であった。

「ブモォォォ!」

 敵を前にして勘違いを暴走させているエルフたちとは違い、カズキが発生させた火の玉を見た襲撃者側の並オークたち、総勢一万は、本能的に危険を感じ取り、じわじわと後退し始めた。
 その状況に苛立ちを感じたエンペラーが咆哮(何故か牛っぽかった)を上げると、オークたちの脚が一斉に止まり、その目が血の色に染まる。
 エンペラーの持つ、群れを強化する力を受けたオークたちは、本能が感じた危険を無視して突撃の体勢を取り――、直後に着弾した火球をその身に受けて灰になった。
 
「ブヒッ!?」

 並オークたちをけしかけたエンペラーが、突然焼失した部下たちを見て驚愕する。
 後方で偉そうにふんぞり返っていたエンペラーには、何が起こったのか理解できなかったのだろう。
 
「あれ? 結構残ったな。まあいいか」

 その言葉と共に、人族の少年が浮かべた無数の小さな火球を見て、エンペラーは何が起きたのかを悟った。そして、自分が辿るであろう最後も。

「ブモォォォォ!」

 それに抗う為、エンペラーは自分同様に絶望の表情を浮かべている、ロードやキングを能力を使ってカズキに嗾ける。そして、自分は一目散に逃げようとその場で踵を返し――、次の瞬間に爆散した。

「ん?」

 アレンが暮らす森への影響を考え、オークだけを燃やすように魔法を使っていたカズキが、爆散したエンペラーを見て不思議そうな顔をした。

「チッ、所詮はオーク。エンペラーと言ってもこの程度か・・・・・・。ん? てめえは――」

 その疑問に答えるかのように、一人の男が姿を現し、カズキを見て目を瞠った。そして――。

「死ね!」

 そんな言葉と共に、魔法を放ってきた。
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