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第百二十三話 魔法使い組への課題

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 ジュリアンの大雑把な説明を聞いて、脳筋五人組はギクシャクした動きのまま姿を消した。
 『ワイバーン』『ロック鳥』『コカトリス』と口々に言いながら姿を消した事から、恐らく城の厨房へ移動したのだろう。
 
「あの五人がやるべきことはわかったから、次は私達ね。一番の問題は魔法制御力がまだまだ未熟なところだけど、これは地道にやっていくしかない。だから、今持っている手札で出来る事を考えましょう」
「そうですね」
 
 ソフィアの言葉にジュリアンが頷く。カズキの反応がないのは、膝に飛び乗ってきたナンシーを構うのに忙しいからだ。
 その状態でも話を聞いている事はわかっているので、ソフィアは話を進めた。

「考えると言っておいて何だけど、二人掛かりで四重の防御魔法を使って、やっとカズキの魔法を防げたのよね・・・・・・。簡易版【レーヴァテイン】に至っては、防御魔法が全くと言っていい程役に立たなかったし」
「はい。正直な所、全くと言っていい程、対策が思いつきません」

 始まって早々に行き詰まる二人。
 勿論、カズキにマジックアイテムを創って貰い、それで防げばいいという事はわかっているし、ヒュドラのようなSランクの魔物と遭遇してしまった場合の事も考え、後で頼むつもりだが、自分で対処できるのが一番なのは間違いない。
 そこで二人は、実際に二人を一蹴したカズキにアドバイスを貰う事にした。

「ねえカズキ。あなたが逆の立場だったらどうしてた?」
「避けるか剣で斬るか魔法で防ぐ」

 ソフィアの質問にカズキが即答する。いつも敬意を以てソフィアに接しているカズキが珍しく敬語を使っていないのは、ナンシーに集中するあまり、他の事が疎かになっているせいだった。

「・・・・・・言葉が足りなかったわね。私達二人の能力しかなかったら、という前提で答えてくれる?」

 カズキの素っ気ない態度を気にする事もなく、ソフィアは(自虐的に)条件を追加した。いつものことだからだ。

「避けるか魔法で防ぎます」
「ミァ・・・・・・」

 膝の上で丸まり、ウトウトしだしたナンシーを優しく撫でながら、ようやく顔を上げたカズキが、やはり即答する。
 その言葉に、ソフィアとジュリアンは顔を見合わせた。カズキの答えは、今の二人でも十分に対応可能だという事を示唆していたからだ。

「・・・・・・具体的には?」

 相変わらず言葉が足りないカズキの真意を汲み取ろうと、ジュリアンが質問を重ねる。だがそれだけではカズキが返答に詰まる事が予想されたので、ジュリアンは更に言葉を追加した。

「まずは『魔法で防ぐ』の、具体的な方法から聞かせてくれ」
「わかった。なら、【レーヴァテイン】を防ぐ方法のほうがいいか?」
「「そんな方法があるの(か)!?」」
 
 カズキの言葉に興奮して、身を乗り出す二人。

「ある。コエンが巨大ワイバーンに対してやった、上昇気流を利用する方法だ」
「それは私も考えたが、私たちの【トルネード】(古代魔法にも同名の魔法がある)では、カズキの(簡易版)【レーヴァテイン】に対抗できるとはとても思えん」

 納得できなかったのか、ジュリアンがカズキに反論する。

「【トルネード】は使わない。俺だったら【ゲイボルグ】を使う」

 それに対するカズキの答えは、二人が思いも寄らないものだった。

「【ゲイボルグ】? だがあの魔法は・・・・・・? 成程っ! そういう事かっ!」
「私もわかったわ! 地面に対して垂直になるように発動して、その場に留めておくのね!?」

 神話級古代魔法の【ゲイボルグ】は、超高速回転する竜巻を、槍の形状にして敵に放つ、【トルネード】の上位魔法に当たる。
 カズキは古代魔法の特性――発動する場所と、敵に放つのは術者の任意――を利用すると言っていたのだ。

「目から鱗が落ちた気分だ・・・・・・」
「本当ね。攻撃魔法を防御に使うという発想は知っていたのに・・・・・・。古代魔法の特性を利用するところまで考えが及ばなかったわ。他の魔法も使い方次第で色々な応用が効きそうね!」
「ええ! では早速検証を――」
「ただ、問題が一つ」

 早速とばかりに立ち上がり、魔法の使い方を検証しようと移動する気配を見せた矢先、カズキが静かな声で二人を制した。

「「問題?」」

 水を差された二人だったが、カズキの言葉に反応して素直に腰を下ろす。こと魔法に関して、カズキが間違っていた事は一度もないからだ。

「はい。率直に言えば、今の二人の反応速度では、咄嗟に【ゲイボルグ】を垂直に発動できるとは思えません。違いますか?」
「「・・・・・・」」

 カズキの指摘に、二人は沈黙した。冷静になって考えてみれば、カズキの言う通りだと気付いたからだ。
 
「確かにカズキの言う通りね。でも、私たちの能力でも出来る事を考えたんじゃないの?」
「その通りです。今の二人でも出来る事ですよ? 、の話ですが」
「「うっ」」

 その言葉に二人が嫌そうな顔をした。前衛五人組の様子を見て、『避ける』の話を意図的に無視している事に気付かれたのだから。

「ちっ、誤魔化せなかったか」
「当たり前だ。魔力操作で身体能力を引き上げる前提でこの話をしたんだから」
「・・・・・・わかった。気は進まないが、魔力操作のほうもやる」

 ジュリアンは本当に嫌そうだった。口には出さないが、ソフィアも同様である。
 そこでカズキは、二人を発奮させる燃料を投下する事にした。

「そういえばこの間、異世界でクリスが空中を歩いてたじゃん?」
「? ああ、そんな事もあったな。毎度の事ながら、訳がわからんことをする奴だと思ったが」
「どうしてそんな事が出来ると思う?」
「「変態だから?」」
「違う」

 揃ってクリスをディスる母と兄に、カズキは真実を突きつけた。

「クリスの魔法制御力が、二人よりも遥かに上だからだ」
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