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第百二十話 プランC
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「【フレア・ストーム】」
仕切り直しとなった模擬戦で、開始の合図と同時に魔法を放ったのはカズキだった。
古代魔法ではなく現代魔法を使ったのは、模擬戦を始める前にそういうルールに決まったからである。
『大賢者』に古代魔法を使わせたら、何も出来ない内に勝負が決まってしまうのもあるが、それ以上に――。
「・・・・・・助かりました、母上」
「気にしないで。二重に展開した水の障壁が蒸発するなんて、普通は思わないわ」
現代魔法でジュリアンとソフィアの全力を上回ってしまうからだった。
「【ブリザード】」
【フレア・ストーム】を防がれた事に何の反応も示さず、カズキが次の魔法を放つ。しかも、開始と同時に駆け出し、ジュリアンたちから離れた事で、カズキの魔法の対象にならなかった騎士団長三人とセバスチャン、アルフレッドを同時に相手取りながら、だ。
「「くっ」」
先程の事で彼我の実力差を思い知らされたジュリアンとソフィアは、二人同時に四重の土の盾を展開し、辛うじてカズキの魔法を防いだ。
「・・・・・・不味い。こちらの狙いを読まれている。これでは五人のフォローが出来ない」
古代魔法を使えるというアドバンテージを持っている筈のジュリアンとソフィアだったが、実際には現代魔法しか使っていないカズキの魔法を防ぐのが精一杯という状況に追い込まれていた。
作戦会議では、動きの速い戦士組の速度に追いつくために、【フィジカルエンチャント】で身体能力の強化を予定していたのだが、二人がいざ魔法を使おうとすると――。
「【トルネード】」
「「っ」」
カズキから邪魔をするように魔法が放たれるのだ。
「絶妙なタイミングで嫌がらせをしてきますね」
「難易度の高い魔法は、どうしても一瞬の集中が必要になる。その隙を突くのは当然よ。要は、私たちはまだまだ実力不足って事ね」
「やはり、模擬戦を頼んだのは正解でしたね。今の自分達に足りないものがはっきりとわかる」
そう言ったジュリアンが、不意に沈んだ表情になった。
「・・・・・・出来れば、この作戦は使いたくなかったのですが」
「仕方ないわ。それが一番有効そうなんだもの」
咄嗟に魔法を切り替えて、慌てて【トルネード】から身を守った二人の顔に、決意が浮かぶ。
「みんな! プランCだ!」
ジュリアンの言葉を合図に、カズキを攻め立てていた五人の動きが変わった。連携してカズキの隙を伺う堅実な戦い方から、それぞれが得意なスタイルで、後先考えずに好き勝手に攻撃する、リスクの高い戦い方へと。
それまでとは打って変わって、見違えるような動きで苛烈な攻撃を加えてくるようになった戦士五人に対して、先程までは優勢に戦いを進めていたカズキが、一転劣勢になる。そして、気付いた時には五人に取り囲まれていた。
「なるほど。そう来たか」
カズキが納得したように呟いた瞬間、頭上から雷が落ちて来た。
ジュリアンが行使した【トール】の魔法である。
「【アイス・ウォール】」
咄嗟に頭上に氷の盾を展開し、【トール】を防ぐカズキ。
「凄い! カズキを追い詰めてる! ・・・・・・でもおかしいな、この戦い方になんとなく既視感があるんだけど」
「ラクトさんもそう思いますか?」
「フローネさんも? 実は私も見覚えがあるような気がするんです」
学院入学初期からカズキとパーティを組んでいる、ラクト、フローネ、マイネの疑問に答えたのは、いつの間にか現れていたエルザだった。
「そりゃあそうでしょうよ。あんた達が学院の試験でキマイラ相手にとった戦法なんだもの」
「「「・・・・・・あ」」」
エルザの指摘に、三人の顔に理解の色が広がる。
「じゃあ、プランCのCは・・・・・・」
「そっ、クリストファーのC。つまり彼らが今やっているのは――」
「『困ったときは力押し!』 ですね!」
それは昔、クリスがフローネに伝えた言葉で、考える事を放棄し、本能のままに戦えば、大抵の事は何とかなるという、クリスの実体験に基づいた教えだった。
実際、試験の最後にキマイラと戦ったラクト達は、この考え方に従って、見事にキマイラを倒している(実際に倒したのはクリスだが)ので、格上相手には有効な戦法だと証明されている。
「学院長が気が進まないと言った理由がわかった気がするな。あの戦い方は、余りにも泥臭い」
いつもスマートで知的なイメージがあるジュリアンが、ソフィアと共に後先考えずに古代魔法を連発している姿を見て、コエンが気の毒そうに呟いた。
仕切り直しとなった模擬戦で、開始の合図と同時に魔法を放ったのはカズキだった。
古代魔法ではなく現代魔法を使ったのは、模擬戦を始める前にそういうルールに決まったからである。
『大賢者』に古代魔法を使わせたら、何も出来ない内に勝負が決まってしまうのもあるが、それ以上に――。
「・・・・・・助かりました、母上」
「気にしないで。二重に展開した水の障壁が蒸発するなんて、普通は思わないわ」
現代魔法でジュリアンとソフィアの全力を上回ってしまうからだった。
「【ブリザード】」
【フレア・ストーム】を防がれた事に何の反応も示さず、カズキが次の魔法を放つ。しかも、開始と同時に駆け出し、ジュリアンたちから離れた事で、カズキの魔法の対象にならなかった騎士団長三人とセバスチャン、アルフレッドを同時に相手取りながら、だ。
「「くっ」」
先程の事で彼我の実力差を思い知らされたジュリアンとソフィアは、二人同時に四重の土の盾を展開し、辛うじてカズキの魔法を防いだ。
「・・・・・・不味い。こちらの狙いを読まれている。これでは五人のフォローが出来ない」
古代魔法を使えるというアドバンテージを持っている筈のジュリアンとソフィアだったが、実際には現代魔法しか使っていないカズキの魔法を防ぐのが精一杯という状況に追い込まれていた。
作戦会議では、動きの速い戦士組の速度に追いつくために、【フィジカルエンチャント】で身体能力の強化を予定していたのだが、二人がいざ魔法を使おうとすると――。
「【トルネード】」
「「っ」」
カズキから邪魔をするように魔法が放たれるのだ。
「絶妙なタイミングで嫌がらせをしてきますね」
「難易度の高い魔法は、どうしても一瞬の集中が必要になる。その隙を突くのは当然よ。要は、私たちはまだまだ実力不足って事ね」
「やはり、模擬戦を頼んだのは正解でしたね。今の自分達に足りないものがはっきりとわかる」
そう言ったジュリアンが、不意に沈んだ表情になった。
「・・・・・・出来れば、この作戦は使いたくなかったのですが」
「仕方ないわ。それが一番有効そうなんだもの」
咄嗟に魔法を切り替えて、慌てて【トルネード】から身を守った二人の顔に、決意が浮かぶ。
「みんな! プランCだ!」
ジュリアンの言葉を合図に、カズキを攻め立てていた五人の動きが変わった。連携してカズキの隙を伺う堅実な戦い方から、それぞれが得意なスタイルで、後先考えずに好き勝手に攻撃する、リスクの高い戦い方へと。
それまでとは打って変わって、見違えるような動きで苛烈な攻撃を加えてくるようになった戦士五人に対して、先程までは優勢に戦いを進めていたカズキが、一転劣勢になる。そして、気付いた時には五人に取り囲まれていた。
「なるほど。そう来たか」
カズキが納得したように呟いた瞬間、頭上から雷が落ちて来た。
ジュリアンが行使した【トール】の魔法である。
「【アイス・ウォール】」
咄嗟に頭上に氷の盾を展開し、【トール】を防ぐカズキ。
「凄い! カズキを追い詰めてる! ・・・・・・でもおかしいな、この戦い方になんとなく既視感があるんだけど」
「ラクトさんもそう思いますか?」
「フローネさんも? 実は私も見覚えがあるような気がするんです」
学院入学初期からカズキとパーティを組んでいる、ラクト、フローネ、マイネの疑問に答えたのは、いつの間にか現れていたエルザだった。
「そりゃあそうでしょうよ。あんた達が学院の試験でキマイラ相手にとった戦法なんだもの」
「「「・・・・・・あ」」」
エルザの指摘に、三人の顔に理解の色が広がる。
「じゃあ、プランCのCは・・・・・・」
「そっ、クリストファーのC。つまり彼らが今やっているのは――」
「『困ったときは力押し!』 ですね!」
それは昔、クリスがフローネに伝えた言葉で、考える事を放棄し、本能のままに戦えば、大抵の事は何とかなるという、クリスの実体験に基づいた教えだった。
実際、試験の最後にキマイラと戦ったラクト達は、この考え方に従って、見事にキマイラを倒している(実際に倒したのはクリスだが)ので、格上相手には有効な戦法だと証明されている。
「学院長が気が進まないと言った理由がわかった気がするな。あの戦い方は、余りにも泥臭い」
いつもスマートで知的なイメージがあるジュリアンが、ソフィアと共に後先考えずに古代魔法を連発している姿を見て、コエンが気の毒そうに呟いた。
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