上 下
120 / 346

第百二十話 プランC

しおりを挟む
「【フレア・ストーム】」

 仕切り直しとなった模擬戦で、開始の合図と同時に魔法を放ったのはカズキだった。
 古代魔法ではなく現代魔法を使ったのは、模擬戦を始める前にそういうルールに決まったからである。
 『大賢者カズキ』に古代魔法を使わせたら、何も出来ない内に勝負が決まってしまうのもあるが、それ以上に――。

「・・・・・・助かりました、母上」
「気にしないで。二重に展開した水の障壁が蒸発するなんて、普通は思わないわ」

 現代魔法でジュリアンとソフィアの全力を上回ってしまうからだった。

「【ブリザード】」

 【フレア・ストーム】を防がれた事に何の反応も示さず、カズキが次の魔法を放つ。しかも、開始と同時に駆け出し、ジュリアンたちから離れた事で、カズキの魔法の対象にならなかった騎士団長三人とセバスチャン、アルフレッドを同時に相手取りながら、だ。

「「くっ」」

 先程の事で彼我の実力差を思い知らされたジュリアンとソフィアは、二人同時に四重の土の盾を展開し、辛うじてカズキの魔法を防いだ。

「・・・・・・不味い。こちらの狙いを読まれている。これでは五人のフォローが出来ない」

 古代魔法を使えるというアドバンテージを持っている筈のジュリアンとソフィアだったが、実際には現代魔法しか使っていないカズキの魔法を防ぐのが精一杯という状況に追い込まれていた。
 作戦会議では、動きの速い戦士組の速度に追いつくために、【フィジカルエンチャント】で身体能力の強化を予定していたのだが、二人がいざ魔法を使おうとすると――。

「【トルネード】」
「「っ」」

 カズキから邪魔をするように魔法が放たれるのだ。

「絶妙なタイミングで嫌がらせをしてきますね」
「難易度の高い魔法は、どうしても一瞬の集中が必要になる。その隙を突くのは当然よ。要は、私たちはまだまだ実力不足って事ね」
「やはり、模擬戦を頼んだのは正解でしたね。今の自分達に足りないものがはっきりとわかる」

 そう言ったジュリアンが、不意に沈んだ表情になった。

「・・・・・・出来れば、この作戦は使いたくなかったのですが」
「仕方ないわ。が一番有効そうなんだもの」

 咄嗟に魔法を切り替えて、慌てて【トルネード】から身を守った二人の顔に、決意が浮かぶ。

「みんな! プランCだ!」

 ジュリアンの言葉を合図に、カズキを攻め立てていた五人の動きが変わった。連携してカズキの隙を伺う堅実な戦い方から、それぞれが得意なスタイルで、後先考えずに好き勝手に攻撃する、リスクの高い戦い方へと。
 それまでとは打って変わって、見違えるような動きで苛烈な攻撃を加えてくるようになった戦士五人に対して、先程までは優勢に戦いを進めていたカズキが、一転劣勢になる。そして、気付いた時には五人に取り囲まれていた。

「なるほど。そう来たか」

 カズキが納得したように呟いた瞬間、頭上から雷が落ちて来た。
 ジュリアンが行使した【トール】の魔法である。

「【アイス・ウォール】」
 
 咄嗟に頭上に氷の盾を展開し、【トール】を防ぐカズキ。

「凄い! カズキを追い詰めてる! ・・・・・・でもおかしいな、この戦い方になんとなく既視感があるんだけど」
「ラクトさんもそう思いますか?」
「フローネさんも? 実は私も見覚えがあるような気がするんです」

 学院入学初期からカズキとパーティを組んでいる、ラクト、フローネ、マイネの疑問に答えたのは、いつの間にか現れていたエルザだった。

「そりゃあそうでしょうよ。あんた達が学院の試験でキマイラ相手にとった戦法なんだもの」
「「「・・・・・・あ」」」

 エルザの指摘に、三人の顔に理解の色が広がる。

「じゃあ、プランCのCは・・・・・・」
「そっ、クリストファーのC。つまり彼らが今やっているのは――」
「『困ったときは力押し!』 ですね!」

 それは昔、クリスがフローネに伝えた言葉で、考える事を放棄し、本能のままに戦えば、大抵の事は何とかなるという、クリスの実体験に基づいた教えだった。
 実際、試験の最後にキマイラと戦ったラクト達は、この考え方に従って、見事にキマイラを倒している(実際に倒したのはクリスだが)ので、格上相手には有効な戦法だと証明されている。

「学院長が気が進まないと言った理由がわかった気がするな。あの戦い方は、余りにも泥臭い」

 いつもスマートで知的なイメージがあるジュリアンが、ソフィアと共に後先考えずに古代魔法を連発している姿を見て、コエンが気の毒そうに呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...