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第百十九話 『剣王』セバスチャン

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 異世界から帰還したカズキ達は、拠点であるランスリードの王都へと戻り、いつもの生活に戻っていた。
 気になる事は多々あるが、魔の海域とマイネの実家の領地にある『門』は、カズキによって封印されている。
 他にも『門』はあるのかもしれないが、強力な魔物が出現すれば、冒険者ギルドのギルドマスターからカズキに知らせが来る手筈になっているので、動くのはそれからにしようと言う事で話はまとまっていた。
 


「思えば、カズキと戦うのはこれが初めてだな」
「言われてみればそうだな」
「ごめんなさいね、カズキ。いきなりこんな事を頼んでしまって」
「いえ。お気になさらず」

 その日、カズキが創り出した【次元ハウス+ニャン】内の何もないだだっ広い空間で、ジュリアンとソフィア、ランスリードの騎士団長三人、更には国王であるセバスチャンと、その弟アルフレッドといった錚々たるメンバーと、カズキは一人で対峙していた。
 異世界での戦いで力不足を痛感したジュリアンとソフィアが、自らを鍛え直すべく、カズキに模擬戦を申し込んだためだ。
 同じく異世界でワームの群れと戦った際、全く役に立たなかったアルフレッドも名乗りを上げ、立場上国を離れる事が出来ないセバスチャンも、今回は仲間外れにするなと駄々をこね、騒ぎを聞きつけた騎士団長三人もそれに便乗し、ここに一対七という図式が出来上がった。
 
「・・・・・・これは」
「話には聞いていたが、まさかこれほどとは・・・・・・」
「立ち姿に全く隙が無い。まるでクリストファー殿下と立ち合った時のような圧力だ」

 普段、城で見かける時とは全く違う雰囲気のカズキに、騎士団長三人は始まる前から気圧されている。
 
「情けないぞ、三人共。栄えあるランスリードの騎士団長が、戦う前から怖気づいてどうする」
「「「ハッ! 申し訳ありません!」」」

 それを叱咤するのは、この国の王であるセバスチャン。クリスが生まれる前は『剣王』と呼ばれ、世界中にその名を轟かせていた男であった。

「・・・・・・流石陛下。カズキ殿の圧を受けても、全く揺らがないとは」
「なに。昔、カズキの殺気をぶつけられた事があるからな。危うく漏らすところだったあの時と比べれば、今のカズキの圧など何ほどの事でもない」
「・・・・・・真顔で情けない事を言わないでくれる?」

 そう言って胸を張ったセバスチャンに、ソフィアの絶対零度の視線が突き刺さる。

「すいませんでした!」
「「「・・・・・・ハァ」」」

 ソフィアに睨まれたセバスチャンが即座に土下座するのを見て、三人から余分な力が抜ける。

「始めるか」

 狙ってやったわけではないが、戦うには最適な状態になったところで、アルフレッドが開始を告げる。
  途端に張り詰める空気。その中で最初に動いたのは、土下座していたはずのセバスチャンだった。

「「「「「「速い!」」」」」」

 見学していたカズキのパーティメンバーと、カリムの口から驚きの声が上がる。
 土下座状態から速やかに立ち上がったセバスチャンが、その勢いのままカズキへと突きを見舞ったのだが、そのスピードが尋常じゃなかった。
 その速度たるや、カズキがカウンターで放った蹴りを受けて動きが止まったのを見て、漸く突きを放とうとしていた事がわかったレベルである。

「がはっ!」

 カウンターを受けながらも咄嗟に後方へと跳び、ダメージを最小限に抑えたセバスチャンは、追撃を警戒して即座に剣を正眼に構える。だがその時にはもう、カズキの剣は振るわれた後だった。

「っ!」

 皆が決まったと思ったその時、セバスチャンのスピードが急激に跳ね上がる。そして、唸りを上げて迫りくるカズキの剣を辛うじて逸らした。

「やるなぁ」

 嬉しそうに言って、体勢を崩したセバスチャンへ容赦なく追撃を掛けるカズキ。その悉くをいなし、躱しているセバスチャンを援護しようと、ソフィアから炎の矢が放たれた。

「助かる!」 

 絶妙なタイミングで放たれた炎の矢に対処するため、カズキの注意が一瞬逸れた隙に離脱するセバスチャン。
 時間にして僅か数秒の攻防だったが、極限の集中力を必要としたためか、肩で息をしていた。
 
「ごめんなさい、カズキ。この人の息が整うまで、少し待っててくれる?」
「構いませんよ」
「ありがとう」

 セバスチャンとは対照的に、息も乱れていないカズキが鷹揚に頷く。

「で、どうでした?」
「見ての通りだ。私一人ではどうにもならん」
「さっきも全然本気出してなかったみたいだしね」
「となるとやはり・・・・・・」
「ならば我々は・・・・・・」

 カズキが頷いたのをいいことに、堂々と作戦会議を始める挑戦者たち。
 やっと方針が纏まって、模擬戦が再開されたのは一時間後の事だった。
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