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第百十四話 ヒュドラの生態
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「お前に恨みはないが、借金返済の為に死んでくれ」
酷く身勝手な事を呟いて、クリスはヒュドラへと斬りかかる。
剣の代金は既に支払いを終えているが、それはトーナメントでの実況と、観客を流れ弾から守る事を条件にジュリアンから金を貸りただけなので、借金は全く減っていない。
まだ誰にも言っていないが、新たな剣を発注してしまった(最早病気である)事もあって、アーネストの頼みは渡りに船だった。
「この世界の探索を手伝えば、【次元倉庫】と【コキュートス】が付与された包丁も手に入る。やっと俺にも運が回ってきたぜ!」
ハイテンションのクリスが繰り出した斬撃は、『真・アーネスト号』を味わっているヒュドラの九本の首を、ひと呼吸の間に無数の肉片へと変えた。だが・・・・・・。
「おい。首が増えたぞ」
カズキが指摘した通り、ヒュドラは驚異的な再生能力によって、首の数を増やしていた。しかもその数は、倍の十八本といった生易しい数ではない。下手をすれば四桁を超えている。
その余りのおぞましさに耐えられない女性陣は、顔を背けて口々にクリスを批判し始めた。
「再生するのを知ってて首を斬るとか馬鹿なの? なんなの? 死ぬの?」
「なんで中途半端に攻撃を止めたわけ? どうせなら死ぬまで攻撃し続けなさいよ」
「お兄様が調子に乗った時って、ろくでもない事しかしませんよね」
「剣しか取り柄がないのに、それで失敗するとか・・・・・・」
「ひどくね!?」
女性陣に滅多打ちにされたクリスが抗議するも黙殺され、涙目でのの字を書き始める。
「動きが止まったな。首の数が多すぎるせいで、意思の統一が上手くいかないのか?」
器用にも海面で蹲っているクリスを無視して、ジュリアンがヒュドラの状態を評する。
「強い生命力が仇になったな。まさか、あれだけの斬撃を喰らっても再生するとは思わなかったが」
「普通なら死んでるからな。・・・・・・ん?」
やはりクリスを無視したカズキとアルフレッドが、ジュリアンの言葉に相槌を打っていると、ヒュドラに変化が起こった。
蠢いていた無数の首の動きが止まったかと思うと、四桁にも及ぶ数の首が次々と海に落下し、盛大な水しぶきが起こる。それが収まると、遭遇した時の姿に戻ったヒュドラがいた。
異変はそれだけではない。本体から切り離された四桁に及ぶ首も、それぞれが独立して好き勝手に動き始めたのだ。
その姿はそう、カズキとアルフレッドが探していた姿に酷似していた。
「・・・・・・シーサーペント。まさか、ヒュドラが切り離した首が、シーサペントになるとはな」
嬉しそうに呟くアルフレッド。生まれたてのシーサーペントなら、肉に臭みがない可能性が高いと踏んだのだ。
「これで、リーザ近くでシーサーペントが大量発生した理由がわかったな。あの時の大群は、ヒュドラが首を切り離した際に生まれたんだろう」
「だろうな。古代人たちが封印したと伝わってはいるが、実際には別の世界に放逐するので精一杯だったんだろう。『時空の歪み』に類するこの手の『門』は、一定以上の力を持つ存在が通り抜ける事が出来ないようになっているようだからな」
例外は、膨大な魔力を使って『門』に干渉する事である。
次元屋の地下に現れた悪魔や、マイネの実家の領地(巨大ワイバーン発生ポイント)で、カズキが『門』を力業で抉じ開けた事からわかった事実だ。
これはジュリアンも知らない事実だが、ヒュドラや悪魔もその方法で古代人に呼び出された。いつの時代にもいる一部の調子こいたバカのせいで、古代魔法文明は二度も滅びかけたのである。
「だな。魔の海域の『門』は、アーネストとクリスが通れた事から察するに、その制限は緩そうだが」
ジュリアンとカズキがシーサーペントの大量発生の原因について考察している傍らで、窮地に立たされている人物がいた。
「ねえアルフレッド。まさかアナタ、シーサーペントを食べようだなんて考えていないでしょうねぇ?」
そう言ってアルフレッドに圧力をかけているのは、義理の姉であるソフィアである。
カズキがシーサーペントの捕獲を担当していたのは、アルフレッドの意向によるもの。そのシーサーペントが目の前に現れた事で、ヒュドラを倒した後に調理すると言い出すのは目に見えているからだ。
「そ、そ、そ、そんな事しねぇよ! あんな気色わりぃ物を見た後で、食べてみようなんて気は起きねって!」
今まさにカズキに指示を出そうとしていたアルフレッドは、迫りくるシーサーペントを無表情で淡々と処理しているソフィアと、【インフェルノ】を乱れ打ちしまくっているマイネ、マジックアイテムを持ち出して同様の事をしているエルザにフローネ、極めつけは、『真・アーネスト号』の仇とばかりに、【コキュートス】でシーサーペントを蹂躙している様子を見て、シーサーペントの捕獲を泣く泣く諦めた。
逆らえば命の保証はしないと、彼等全員の目がそう言っていたからだ。
「そう・・・・・・。なら良いの」
そう言ったソフィアの興味が自分から逸れたのを感じて、アルフレッドは胸を撫でおろす。
「じゃあカズキ。あのキモい物体をこの世から消し去ってくれる?」
「わかりました」
ソフィアの言葉を受けたカズキが魔法を発動。次の瞬間には、ソフィアの要望通りヒュドラの巨体は消滅していた。
酷く身勝手な事を呟いて、クリスはヒュドラへと斬りかかる。
剣の代金は既に支払いを終えているが、それはトーナメントでの実況と、観客を流れ弾から守る事を条件にジュリアンから金を貸りただけなので、借金は全く減っていない。
まだ誰にも言っていないが、新たな剣を発注してしまった(最早病気である)事もあって、アーネストの頼みは渡りに船だった。
「この世界の探索を手伝えば、【次元倉庫】と【コキュートス】が付与された包丁も手に入る。やっと俺にも運が回ってきたぜ!」
ハイテンションのクリスが繰り出した斬撃は、『真・アーネスト号』を味わっているヒュドラの九本の首を、ひと呼吸の間に無数の肉片へと変えた。だが・・・・・・。
「おい。首が増えたぞ」
カズキが指摘した通り、ヒュドラは驚異的な再生能力によって、首の数を増やしていた。しかもその数は、倍の十八本といった生易しい数ではない。下手をすれば四桁を超えている。
その余りのおぞましさに耐えられない女性陣は、顔を背けて口々にクリスを批判し始めた。
「再生するのを知ってて首を斬るとか馬鹿なの? なんなの? 死ぬの?」
「なんで中途半端に攻撃を止めたわけ? どうせなら死ぬまで攻撃し続けなさいよ」
「お兄様が調子に乗った時って、ろくでもない事しかしませんよね」
「剣しか取り柄がないのに、それで失敗するとか・・・・・・」
「ひどくね!?」
女性陣に滅多打ちにされたクリスが抗議するも黙殺され、涙目でのの字を書き始める。
「動きが止まったな。首の数が多すぎるせいで、意思の統一が上手くいかないのか?」
器用にも海面で蹲っているクリスを無視して、ジュリアンがヒュドラの状態を評する。
「強い生命力が仇になったな。まさか、あれだけの斬撃を喰らっても再生するとは思わなかったが」
「普通なら死んでるからな。・・・・・・ん?」
やはりクリスを無視したカズキとアルフレッドが、ジュリアンの言葉に相槌を打っていると、ヒュドラに変化が起こった。
蠢いていた無数の首の動きが止まったかと思うと、四桁にも及ぶ数の首が次々と海に落下し、盛大な水しぶきが起こる。それが収まると、遭遇した時の姿に戻ったヒュドラがいた。
異変はそれだけではない。本体から切り離された四桁に及ぶ首も、それぞれが独立して好き勝手に動き始めたのだ。
その姿はそう、カズキとアルフレッドが探していた姿に酷似していた。
「・・・・・・シーサーペント。まさか、ヒュドラが切り離した首が、シーサペントになるとはな」
嬉しそうに呟くアルフレッド。生まれたてのシーサーペントなら、肉に臭みがない可能性が高いと踏んだのだ。
「これで、リーザ近くでシーサーペントが大量発生した理由がわかったな。あの時の大群は、ヒュドラが首を切り離した際に生まれたんだろう」
「だろうな。古代人たちが封印したと伝わってはいるが、実際には別の世界に放逐するので精一杯だったんだろう。『時空の歪み』に類するこの手の『門』は、一定以上の力を持つ存在が通り抜ける事が出来ないようになっているようだからな」
例外は、膨大な魔力を使って『門』に干渉する事である。
次元屋の地下に現れた悪魔や、マイネの実家の領地(巨大ワイバーン発生ポイント)で、カズキが『門』を力業で抉じ開けた事からわかった事実だ。
これはジュリアンも知らない事実だが、ヒュドラや悪魔もその方法で古代人に呼び出された。いつの時代にもいる一部の調子こいたバカのせいで、古代魔法文明は二度も滅びかけたのである。
「だな。魔の海域の『門』は、アーネストとクリスが通れた事から察するに、その制限は緩そうだが」
ジュリアンとカズキがシーサーペントの大量発生の原因について考察している傍らで、窮地に立たされている人物がいた。
「ねえアルフレッド。まさかアナタ、シーサーペントを食べようだなんて考えていないでしょうねぇ?」
そう言ってアルフレッドに圧力をかけているのは、義理の姉であるソフィアである。
カズキがシーサーペントの捕獲を担当していたのは、アルフレッドの意向によるもの。そのシーサーペントが目の前に現れた事で、ヒュドラを倒した後に調理すると言い出すのは目に見えているからだ。
「そ、そ、そ、そんな事しねぇよ! あんな気色わりぃ物を見た後で、食べてみようなんて気は起きねって!」
今まさにカズキに指示を出そうとしていたアルフレッドは、迫りくるシーサーペントを無表情で淡々と処理しているソフィアと、【インフェルノ】を乱れ打ちしまくっているマイネ、マジックアイテムを持ち出して同様の事をしているエルザにフローネ、極めつけは、『真・アーネスト号』の仇とばかりに、【コキュートス】でシーサーペントを蹂躙している様子を見て、シーサーペントの捕獲を泣く泣く諦めた。
逆らえば命の保証はしないと、彼等全員の目がそう言っていたからだ。
「そう・・・・・・。なら良いの」
そう言ったソフィアの興味が自分から逸れたのを感じて、アルフレッドは胸を撫でおろす。
「じゃあカズキ。あのキモい物体をこの世から消し去ってくれる?」
「わかりました」
ソフィアの言葉を受けたカズキが魔法を発動。次の瞬間には、ソフィアの要望通りヒュドラの巨体は消滅していた。
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