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第百六話 巨大ワイバーン再び

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「まさか、また同じ場所に、巨大ワイバーンが現れるなんて・・・・・・」

 そう呟いたのはマイネだった。

「そうね。私も、またここに来るとは思わなかったわ」

 マイネの呟きに答えを返したのはエルザだった。
 二人がこんな話をしているのには訳がある。
 彼女たちが今いるこの場所には、マイネの実家であるセンスティア公爵家が領有する村があったのだが、巨大なワイバーン(全長三十メートル。邪神並の強さ)により、壊滅したという過去があった。
 そのワイバーンを倒したのが、カズキ、クリス、エルザの三人である。

「カズキは、この地にワイバーンが巨大化した原因があるって考えていたみたいだけど」

 エルザの言葉に、ソフィアが頷いた。

「この状況を考えれば間違いないでしょうね。調査隊の報告では、何もおかしなところはなかったって事だけど・・・・・・」

 この国の王であるセバスチャンと、その息子で王太子のジュリアン、この地の領主であるマイネの父親アイン。その三人の話し合いにより調査隊が結成されたのだが、結果はソフィアの言う通り、特に異常なし、という報告だった。
 カズキが、ワイバーン巨大化の原因になった何かは、根こそぎ成長に使われてしまったのではないか? という事と、時間が経てば元に戻るかもしれない、という推測を語っていた事もあり、次の調査は一年後に、という話になっていたのだが――。

「まさか、半年も経たない内に同じ事が起きるなんてね。まあ、ワイバーンの在庫が少なくなってきたから、丁度いいとは言えるんだけど」

 ソフィアの言う通り、事の発端は、ワイバーンとロック鳥の在庫が少なくなってきた事だった。
 他のメンバーはフローネ発案の未知の食材の確保に動いているが、ワイバーンやロック鳥の在庫が少ない事を良しとしている訳ではない。美味しいものは、幾らあってもいいのだ。
 その日の気分によって食べたい物が変わるのは、人でも猫でも変わらないのだから。

「デカいワイバーンって、にーちゃんが話してくれた、邪神並に強いってやつだろ!? そんな奴と戦えるのか・・・・・・。楽しみだなぁ」

 最近、常軌を逸した成長を見せている、エルザとカズキの弟であるカリムが、どこかの戦闘民族みたいな事を宣った。

「邪神並の力を持つワイバーンを相手にするというのに、随分と嬉しそうだな・・・・・・」

 ガチガチに緊張しているコエンが、羨ましそうな顔でカリムを見た。
 最初からソフィアやエルザが出ては修行にならないからと、コエン、マイネ、カリムの三人で戦う事になっているからだ。

「だって、巨大化したワイバーンの生肉食べれば魔力が上がるんだろ!?」
「答えにはなっていないが、恐らくはそうなるだろうな。そう考えれば、楽しみだという言葉にも頷ける・・・・・・。のか?」
「だろ!?」
「だな!」
「見事に騙されてるわね。まあ、お陰で緊張が解れたみたいだから、良しとしましょうか」

 余分な力が抜けたコエンを見て、ソフィアが呟く。そして、ワイバーンのブレスがギリギリ届かない場所まで来たところで、三人に声を掛けた。
 
「さて、三人とも、準備は良い?」
「「「はい!」」」
「良い返事ね。じゃあ、思う存分やりなさい。フォローはしてあげる」
「「「おう!」」」

 勇ましい返事をしてワイバーンと向き合う三人。
 それと同時に、ソフィアが今まで掛け続けていた魔法を解除する。三人が接敵できるように、魔法によって姿や気配を隠してここまで近づいてきたからだ。
 
「【コキュートス】!」

 最初に仕掛けたのは、直後に詠唱を始めたコエンだった。ワイバーンがこちらに気付いていない内に、先制攻撃を加える為だ。
 ミスリル製の杖の先から、猛烈な吹雪が放たれる。
 水属性で最強の威力を誇るこの魔法は、古代魔法を現代魔法で再現したものだった。開発者であるジュリアンやソフィア、カズキを除けば、世界でも片手の指で数えられる程しか使い手がいない、最高難度の魔法だ。
 だが、相手は邪神並にまで成長したワイバーンである。不意打ち気味に放たれた【コキュートス】を、炎のブレスで咄嗟に迎撃。僅かなせめぎ合いの末、両方とも消滅した。

「チッ、駄目か。少し位はダメージを与えられると思ったんだが」

 不意打ちにも関わらず、あっさりと魔法を防がれたコエンが舌打ちする。
 これで倒せるとは思っていなかったが、溜めも何もない、咄嗟に放たれただけのブレスにあっさりかき消された事に、彼はプライドを傷つられた。

「とはいえ、無策で私の魔法を喰らうわけにもいかないのだろう?」

 ワイバーンの注意が自分に向けられた事に、コエンは溜飲を下げる。プライドを傷つけられ、注意も引けなかったとあっては、しばらく立ち直れなくなるところだった。

「GOAAAAAAAAAAA!」

 コエンに狙いを定めたワイバーンが、再度ブレスを吐く。不意を打たれた先程とは違い、息を溜める時間があったため、威力は段違いだった。

「【トルネード】!」

 コエンはブレスを、魔法によって発生させた竜巻で迎撃した。学院のトーナメントで、ラクトがコエンに対して取った方法である。尤も、竜巻の中心にコエンはいない。
 竜巻が発生したのは、コエンとワイバーンの、丁度中間付近である。上昇気流を発生させて、炎を空に逃がす目論見だった。
 
「・・・・・・なんとか上手くいったか」

 離れていても伝わってくる熱気に、コエンは顔を顰める。仮に竜巻の中心にいたら、今頃は焼死していてもおかしくはなかったからだ。
 
「とはいえ、私の魔力は限界寸前だ。後は、マイネとカリムに任せるしかない」

 そう言ったコエンは、ワイバーンを挟み込むような形で剣を構える二人に視線を向けて、その場にへたり込んだ。
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