リタイア賢者の猫ファーストな余生

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第百三話 巨大バジリスクの最期

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「最初に必要なのは目を潰す事だな。悲鳴を上げていた冒険者たちが、俺らが駆け付けるまでには石像になってたんだから、石化の視線に晒されたら終わりだと思って行動した方がいいだろう」
「そうですね。後は血液の毒も浴びない方が良さそうです。カズキが用意してくれた【キュアポイズン】のマジックアイテムで解毒が出来ると言っても、浴びた瞬間には皮膚が爛れるようですから」
「だな。直ぐに解毒出来るとはいえ、受けたダメージは回復しない。何処に毒を浴びても動きに支障が出るのは避けられないだろうし、目にでも浴びたら失明だろう。そうなったら、戦うどころの話ではなくなる」

  アルフレッド、ラクト、エストの三人は、どうすれば傷が少ない状態で仕留める事が出来るのかを相談しながら、巨大バジリスクの少し後方を歩いていた。

「・・・・・・もしかしたら、だが、毒の血液の方は何とかなるかも知れねぇ。とはいえぶっつけ本番だから、保険は掛けておく必要がある。ラクト、毒を浴びないように、魔法でどうにか出来ねえか?」

 手にした包丁を見つめながら、アルフレッドがラクトに尋ねる。端から見れば、ただの危ないおっさんだった。

「・・・・・・方法は色々とありますが、何をするつもりなんです?」
「カズキに創って貰ったコイツを使う。この包丁でぶっ刺して、このボタンをポチッと押せばあら不思議。食材の血抜きを一瞬で終わらせることが出来る優れものだぁ!」

 テンションが上がったのか、包丁を掲げて大声を出すアルフレッド。近くにバジリスクがいるのにお構いなしである。

「もしかして【ダーインスレイヴ】の魔法を込めた魔剣ですか?」
「名前は知らねえが、その【ダーインスレイヴ】っていうので血抜きできるんならそうなんじゃねえの?」
「・・・・・・成程。それなら何とかなるかもしれませんね」

 アルフレッドの話を聞いたラクトが、目を閉じて頭の中で作戦を考え始める。
 アルフレッドが【ダーインスレイヴ】のマジックアテムを所持しているお陰で、問題が一つ片付いているからだ。
 料理する時のカズキが、わざわざ【ダーインスレイヴ】を使っているのを何度も目撃しているラクトは、城にいる猫達の食事を用意しているアルフレッドに、中途半端なマジックアイテムを渡すわけがないという事を知っている。
 必然的に、アルフレッドの持っている包丁は、血抜きに特化した性能を与えられているという事になる訳だ。

「で、どうするんだ?」

 目を開けたラクトを見て、考えが纏まったと知ったエストが声を掛ける。

「うん。まずは・・・・・・」

 促されたラクトは、アルフレッドとエストに作戦の説明を始めた。



「【アース・ランス】!」

 固く閉じられた巨大バジリスクの目に向けて、ラクトの魔法が放たれる。
 カズキと知り合った当初は三本の槍を発生させるので精一杯だった魔法だが、魔力が劇的に増えた今では、同時に十本以上の槍を発生させる事が可能になっていた。

「おりゃあぁぁぁぁ!」

 それと同時、いや、ラクトの魔法が直撃するよりも一瞬早くアルフレッドが動き、バジリスクの八本ある内の一本の足に、カズキ謹製の【ダーインスレイブ】の魔法を込められた包丁が突き立てられる。
 あわや返り血を浴びようかという所で、魔剣が効果を発揮した。結果、アルフレッドは返り血を浴びる事無く目的を達成。
 包丁を突き立てる瞬間にボタンを押していたのが、功を奏したのだろう。保険の為にラクトの【エア・アーマー】も掛かっていたが、それは無駄に終わった。

「!?」

 そして、直後にラクトの【アース・ランス】が狙い違わず巨大バジリスクの閉ざされた瞳に直撃。声にならない悲鳴を上げたバジリスクは、また一つ厄介な特殊能力を失った。

「ここまでは順調だな。ラクトが潰した目から出た血液も、【ダーインスレイヴ】の魔剣に吸い込まれて飛び散らなかった。後は、バジリスクが血を吸いつくされて死ぬまで待てばいいんだが・・・・・・」

 そう言ったエストがその場を飛び退く。何故なら、狂乱したバジリスクが、エストを叩き潰そうと、尻尾を振り回したからだ。
 普段から目を閉じているバジリスクは、視覚以外で周囲の様子を把握している。なので、目を潰さても行動に支障がないのだ。

「やはりそう簡単にはいかないか。ならばラクトの作戦通り、時間を稼ぐまでだ」

 ラクトの立てた作戦は、至極単純なものだった。
 猛毒の血液と石化の視線を封じた後は、【ダーインスレイヴ】によって血液を吸いつくされるまで、バジリスクをこの場に釘付けにする事である。
 遠巻きに眺めて力尽きるのを待つことも考えたが、バジリスクが力尽きるまで、どれくらいの時間が掛かるかもわかっていない。その間に移動されて、他の冒険者や近くの村人に犠牲が出る可能性もある事から、リスクをとる方法を選んだのだ。

「【クラック】!」

 エストに注意が向いたのを好機とみて、ラクトが大地に亀裂を生じさせる魔法を使った。
 学院の試験の終盤で、キマイラの身動きを封じた魔法である。

「ハッ!」
「でりゃあ!」

 生じた亀裂に片側四本の足を取られたバジリスクに向かって、エストとアルフレッドの二人が斬り込んだ。狙いは、亀裂に取られた足を引き抜こうと、必死に踏ん張っている反対側の四本の足である。その四本を切断してしまえば、バジリスクに移動する手段がなくなるからだ。
 
「チッ、切断出来なかったか」

 一撃で斬り飛ばすつもりだったエストが舌打ちする。とはいえ、切断出来なかったというだけで、目的は達せられていた。ほぼ皮一枚で繋がっただけの足では、踏ん張る事も出来ないからだ。
 なのに悔しがっているのは、一緒に斬り込んだアルフレッドが、刃渡りの短い包丁で、あっさりと足の一本を切断したからである。

「・・・・・・何であの包丁で切断出来るんだ? 魔力か!? 体内の魔力を操ったのか!?」

 エストが慟哭している間に、アルフレッドは更に二本の足を切断。巨大バジリスクが行動不能に陥ってから三十分後、体内の血液を全て奪われたバジリスクは力尽き、アルフレッドによって解体された。
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