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第百一話 【キュアポイズン】の可能性

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「おう、そういえばお前、シーサーペントを退治したんだよな。どんな味だったんだ?」

 雌鶏コカトリスが卵を産むのを待つ間、カズキと王弟(継承権放棄済み)のアルフレッドは、これまでにカズキが倒して、食材にした魔物の話をしていた。
 その中に、Aランクの魔物であるシーサーペントの話が出てこなかったのを不思議に思ったアルフレッドが、カズキに疑問をぶつける。
 
「私は食べていません。猫達も反応しませんでしたし。・・・・・・ただ、食べたアーネストが、澱んだ池の水と、油の塊を足したような味、と表現していましたが」
「それは生で食った場合の味か? 他に、どんな調理法を試した?」
「焼いて、煮て、蒸して、燻すまでしましたが、味は変わらなかったようです」
「・・・・・・そうか」

 カズキの言葉に、アルフレッドが考え込む。
 鶏がらスープの灰汁を丁寧に取り除きながら、アルフレッドが結論を出すのをカズキは待った。
 世界中を旅して、あらゆる魔物を調理した経験を持つアルフレッドなら、シーサーペントを美味しく食べる方法を考えつく可能性があるからだ。
 猫達の御飯のバリエーションが増える可能性があるのならば、カズキはいくらでも協力するつもりだった。

「アーネストが澱んだ池の水の味がした、というならば、まずは泥抜きが必須だな。生きたまま捕らえるのと、生け簀の準備はカズキがいれば可能だ。次に・・・・・・ん?」

 ぶつぶつと呟いていたアーネストが、ふと我に返る。
 視界の端に、雌鶏コカトリスが動いたのを捉えたからだ。

「ようやくか。おいカズキ、卵は冷凍すればひと月は保つ。今回は二つ残して、他は全部冷凍しろ。それと、卵の表面を綺麗にすることは可能か? ひびが入った時に、雑菌が入るのを防ぎてえ」
「可能です。成程、それなら食中毒の危険は減りますね」
「そういう事だ。それでも、生食するのは冷凍してから一日に限定しておけ。ま、【キュアポイズン】を掛ければ食えるだろうがな」

 流石はフローネに影響を与えた男である。発想が完全に姪と一緒だった。

「【キュアポイズン】は万能ですね。・・・・・・【ヒーリング】が微妙だったから他の回復魔法の開発は断念したけど、【キュアポイズン】は研究の価値ありだな。初代勇者が、『美味しいけど食べたら死ぬよ?』と書物に残していた魔物が食べられるようになれば、猫達の食生活が豊かになるし」

 【キュアポイズン】は術者の力量によって解毒出来る毒の種類が違う。味見をしたい時にフローネやエルザがいればいいが、そうでない場合を考えると、魔法の開発は急務だった。

「・・・・・・なぁカズキ。それってマジックアイテムにもできるんだよな?」

 後半のカズキの独り言を、アルフレッドの耳は聞き逃さなかった。料理に人生の全てを捧げているアルフレッドにとって、未知の食材を自分で調理出来ないのは、我慢ならない事なのだ。
 
「勿論、完成したらアルさんにも提供しますよ。これから忙しくなりますし、人手はいくらあっても足りないという事はありませんから」
「そうか。ならいい」

 言外に、食材集めのメンバーに加わってもらう、とカズキは言ったのだが、アルフレッドは気にしなかった。
 そもそも、アルフレッドが城の厨房にいたのは、自分では綺麗に(食材に適した状態の事)倒せない魔物を、カズキが猫の為に調達してくるからという理由だったので、カズキ達に同行できるのは、むしろ望むところだったのだ。

「さて、話が纏まったところで卵の回収といくか。予定通り、二個は残して冷凍だ。洗浄するのも忘れんなよ?」
「はい」

 そこからはただの作業だった。何しろ、雌鶏コカトリスは産んだ卵を盗られようが、氷漬けにされようが、全く興味を払わなかったからだ。

「さて、城に戻るか。上質なスープも引けたし、上等なコカトリス肉と玉子も手に入れた。今日はコカトリスパーティだ」
「あの・・・・・・」
「・・・・・・心配すんな。このスープで鳥粥も作ってやるからよ」
「やったー!」

 もの言いたげなカズキに向かって、ニヤリと笑みを浮かべるアルフレッド。
 その言葉に満面の笑みを浮かべたカズキは、鳥粥の効果なのか、その日のうちに【キュアポイズン】の魔法を完成させたという。
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