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第九十九話 王弟アルフレッド
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【テレポート】。 概念だけはあった空間魔法の一つ。古代魔法文明時代から現代に至るまで、多くの魔法使いが開発しようと夢見た魔法である。
古代には【次元ポスト】という魔法が開発され、キーワードを打ち込めば物のやり取りが出来るようになったが、生物の移動は実現しなかった。
悪魔の登場により、壊滅寸前にまで陥った古代文明はそのまま衰退し、莫大な魔力を有する人間も現れなくなったことで、古代魔法の使い手も消滅。
発動には多大な魔力を必要とする事が、研究によって明らかになるにつれて、『開発しても使えないなら意味なくね?』という空気が広まり、最近では研究者の数も少なくなっている。
「驚いたわ。本当に一瞬で戻って来れるなんて・・・・・・」
そんな事を考えていたら、いつの間にか王宮の厨房に立っていた。何故厨房なのかは、ソフィアにも分からない。冷静になって考えてみればわかるのかもしれないが、生憎と彼女は興奮していた。
一緒に移動してきた他のメンバーは、まだ現実を受け入れられないのか、呆けた表情をしている。
それは王宮の料理人達も同様だった。何の前触れもなく、目の前に八人の男女の姿が現れたのだから、当然と言えば当然の話だが。
「あ、これお裾分けです。残りはこっちに新しく『次元倉庫』を設置しておくので、そこから自由に使って下さい」
来て早々、何も説明しないで丸鶏を調理台に置くカズキ。周りを気遣うつもりは欠片もなさそうだった。
「おう、助かるぜ。カズキの持ってくる食材は、いつも美味いものばっかだしな。それで? 今回は何を持って来たんだ? ぱっと見鶏肉だが、カズキがそんな普通の食材を持ってくる訳ねぇよな?」
そんな中、全く動じずにカズキと話を始める漢が一人いた。ランスリード城の厨房を預かる料理長で、その名をアルフレッドという。
セバスチャンの実の弟なのだが、学院の卒業と同時に王位継承権を放棄し、あちこち放浪しながら料理の腕を磨いたという、実にフリーダムな人間である。
「ええ、勿論」
「やっぱそうか。ならコカトリスで決まりだな。放浪している時に何度か捕獲して調理したが、ここまで柔らかくて上質な肉を扱った事はねぇ。ひょっとして、産まれたてか?」
アルフレッドがぷにぷにと肉を触りながらカズキに問いかける。
「正解です。流石はアルさん。実は、コカトリスの棲息する森を探索したら、雌鶏タイプのコカトリスがいまして。そいつが産んだ卵から孵った直後に仕留めたのがソレになります」
「ほう? 雌鶏タイプのコカトリスがいるってのは初耳だな。・・・・・・で? 持ってるんだろ? っていうか早く出せ」
「なんのことです?」
すっとぼけるカズキに、アルフレッドが詰め寄った。
「玉子だよ! TA・MA・GO! お粥狂いのお前が、玉子を手に入れてないわけがねぇだろ? いいから早く味見させろ!」
未知の食材への興奮が、アルフレッドを突き動かす。フローネがこの叔父の影響を受けているのは確実だった。
「残念ながら、本当に持っていません。コカトリスは、卵から孵るのに半日程度しか掛からないので、産卵直後じゃないと、グロいものを見る事になってしまいます。食べても美味しいものではありませんし」
「その通りです!」
カズキの言葉に、復活したフローネが力強く頷く。体(食い意地)を張ったのは、彼女だったからだ。
「マジか。なら仕方ねえ・・・・・・なんて言うとでも思ったか!? 俺をそこに連れていけ! わざわざこの厨房に顔を出したって事は、俺に何かさせようって腹だろ!? 乗ってやるから、俺に玉子を食わせろ!」
カズキの目的が判明。どうやら、アルフレッドに用があったらしい。
「わかりました」
目論見通りの展開に、カズキが笑みを浮かべる。
「実は、コカトリスの棲息する森を手に入れたんですが、管理する人がいなくて困ってたんですよ。最初はクリスを雇って、定期的に調達してもらうつもりだったんですが・・・・・・」
「アイツには向いてねえからな。同じ理由で兄貴も駄目だ。小遣い払って、俺の管理下でコカトリスを仕留めるだけなら問題はないだろうが」
目先の一円の事しか頭にない金欠二人組には、程よく管理するという概念がない。
その土地のコカトリスの所有権がカズキにあるという事も(金に目が眩んで)無視して、根こそぎ狩りつくして売り払おうとするのは目に見えている。
その後安く買い叩かれ、ソフィアに説教されて土下座するというオプションも付くのは想像に難くない。
「その通りです。なので、アルさんに管理して貰うのが一番かと。勿論、アルさん管理の下で、肉と玉子は自由にしてもらっても構いません」
猫の為のコカトリス確保が最優先なのだが、それは言うまでも無い話である。
「よっしゃ! 商談成立だ! それで? どうすればそこに行けるんだ?」
興味津々といった様子で、手にしたコカトリス肉(生)を口にするアルフレッド。流石はフリーダムな男である。
「お、美味え。こりゃあロックよりも美味いかもしれねえな。やっぱ、頭と尾を同時に刎ねねえと、この味は出ねぇのか。こんなに差が出るんなら、面倒臭がらず、俺一人で狩れば良かったぜ」
悔しそうな顔で呟くアルフレッド。以前コカトリスを狩った時は、成り行きで一緒になった冒険者がいた為、タイミングが合わなかったのだ。
「その分は、これから存分に取り返してください。じゃあ行きましょうか」
そう言って『次元倉庫』の扉を開くカズキ。厨房という事を意識してか、業務用の大型冷蔵庫のような外見だった。
中に入って正面を見ると、冷凍されたコカトリス肉が大量に吊るされている。カズキはそれには目もくれず、入り口の傍にある居住スペースへと進んだ。
「この部屋に入ってボタンを押してください。そうすれば、コカトリスの生息地へ移動できます」
「この部屋自体がミスリル製のマジックアイテムになっているの・・・・・・?」
なんとなく付いてきたソフィアが、一目で看破する。
そう、本来なら居住スペースだった筈の場所は、【テレポート】を発動する為の装置と化していたのだ。
「ほう? こいつを押せば、パラダイスに行けるって訳か? なかなかイカした趣向じゃねーか!」
楽しそうに口笛を吹きながら、アルフレッドは躊躇いなくボタンを押した。
古代には【次元ポスト】という魔法が開発され、キーワードを打ち込めば物のやり取りが出来るようになったが、生物の移動は実現しなかった。
悪魔の登場により、壊滅寸前にまで陥った古代文明はそのまま衰退し、莫大な魔力を有する人間も現れなくなったことで、古代魔法の使い手も消滅。
発動には多大な魔力を必要とする事が、研究によって明らかになるにつれて、『開発しても使えないなら意味なくね?』という空気が広まり、最近では研究者の数も少なくなっている。
「驚いたわ。本当に一瞬で戻って来れるなんて・・・・・・」
そんな事を考えていたら、いつの間にか王宮の厨房に立っていた。何故厨房なのかは、ソフィアにも分からない。冷静になって考えてみればわかるのかもしれないが、生憎と彼女は興奮していた。
一緒に移動してきた他のメンバーは、まだ現実を受け入れられないのか、呆けた表情をしている。
それは王宮の料理人達も同様だった。何の前触れもなく、目の前に八人の男女の姿が現れたのだから、当然と言えば当然の話だが。
「あ、これお裾分けです。残りはこっちに新しく『次元倉庫』を設置しておくので、そこから自由に使って下さい」
来て早々、何も説明しないで丸鶏を調理台に置くカズキ。周りを気遣うつもりは欠片もなさそうだった。
「おう、助かるぜ。カズキの持ってくる食材は、いつも美味いものばっかだしな。それで? 今回は何を持って来たんだ? ぱっと見鶏肉だが、カズキがそんな普通の食材を持ってくる訳ねぇよな?」
そんな中、全く動じずにカズキと話を始める漢が一人いた。ランスリード城の厨房を預かる料理長で、その名をアルフレッドという。
セバスチャンの実の弟なのだが、学院の卒業と同時に王位継承権を放棄し、あちこち放浪しながら料理の腕を磨いたという、実にフリーダムな人間である。
「ええ、勿論」
「やっぱそうか。ならコカトリスで決まりだな。放浪している時に何度か捕獲して調理したが、ここまで柔らかくて上質な肉を扱った事はねぇ。ひょっとして、産まれたてか?」
アルフレッドがぷにぷにと肉を触りながらカズキに問いかける。
「正解です。流石はアルさん。実は、コカトリスの棲息する森を探索したら、雌鶏タイプのコカトリスがいまして。そいつが産んだ卵から孵った直後に仕留めたのがソレになります」
「ほう? 雌鶏タイプのコカトリスがいるってのは初耳だな。・・・・・・で? 持ってるんだろ? っていうか早く出せ」
「なんのことです?」
すっとぼけるカズキに、アルフレッドが詰め寄った。
「玉子だよ! TA・MA・GO! お粥狂いのお前が、玉子を手に入れてないわけがねぇだろ? いいから早く味見させろ!」
未知の食材への興奮が、アルフレッドを突き動かす。フローネがこの叔父の影響を受けているのは確実だった。
「残念ながら、本当に持っていません。コカトリスは、卵から孵るのに半日程度しか掛からないので、産卵直後じゃないと、グロいものを見る事になってしまいます。食べても美味しいものではありませんし」
「その通りです!」
カズキの言葉に、復活したフローネが力強く頷く。体(食い意地)を張ったのは、彼女だったからだ。
「マジか。なら仕方ねえ・・・・・・なんて言うとでも思ったか!? 俺をそこに連れていけ! わざわざこの厨房に顔を出したって事は、俺に何かさせようって腹だろ!? 乗ってやるから、俺に玉子を食わせろ!」
カズキの目的が判明。どうやら、アルフレッドに用があったらしい。
「わかりました」
目論見通りの展開に、カズキが笑みを浮かべる。
「実は、コカトリスの棲息する森を手に入れたんですが、管理する人がいなくて困ってたんですよ。最初はクリスを雇って、定期的に調達してもらうつもりだったんですが・・・・・・」
「アイツには向いてねえからな。同じ理由で兄貴も駄目だ。小遣い払って、俺の管理下でコカトリスを仕留めるだけなら問題はないだろうが」
目先の一円の事しか頭にない金欠二人組には、程よく管理するという概念がない。
その土地のコカトリスの所有権がカズキにあるという事も(金に目が眩んで)無視して、根こそぎ狩りつくして売り払おうとするのは目に見えている。
その後安く買い叩かれ、ソフィアに説教されて土下座するというオプションも付くのは想像に難くない。
「その通りです。なので、アルさんに管理して貰うのが一番かと。勿論、アルさん管理の下で、肉と玉子は自由にしてもらっても構いません」
猫の為のコカトリス確保が最優先なのだが、それは言うまでも無い話である。
「よっしゃ! 商談成立だ! それで? どうすればそこに行けるんだ?」
興味津々といった様子で、手にしたコカトリス肉(生)を口にするアルフレッド。流石はフリーダムな男である。
「お、美味え。こりゃあロックよりも美味いかもしれねえな。やっぱ、頭と尾を同時に刎ねねえと、この味は出ねぇのか。こんなに差が出るんなら、面倒臭がらず、俺一人で狩れば良かったぜ」
悔しそうな顔で呟くアルフレッド。以前コカトリスを狩った時は、成り行きで一緒になった冒険者がいた為、タイミングが合わなかったのだ。
「その分は、これから存分に取り返してください。じゃあ行きましょうか」
そう言って『次元倉庫』の扉を開くカズキ。厨房という事を意識してか、業務用の大型冷蔵庫のような外見だった。
中に入って正面を見ると、冷凍されたコカトリス肉が大量に吊るされている。カズキはそれには目もくれず、入り口の傍にある居住スペースへと進んだ。
「この部屋に入ってボタンを押してください。そうすれば、コカトリスの生息地へ移動できます」
「この部屋自体がミスリル製のマジックアイテムになっているの・・・・・・?」
なんとなく付いてきたソフィアが、一目で看破する。
そう、本来なら居住スペースだった筈の場所は、【テレポート】を発動する為の装置と化していたのだ。
「ほう? こいつを押せば、パラダイスに行けるって訳か? なかなかイカした趣向じゃねーか!」
楽しそうに口笛を吹きながら、アルフレッドは躊躇いなくボタンを押した。
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