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第九十三話 マジックアイテム完成

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「皆さんこんにちは。今日は、マジックアイテムの作り方をご紹介します」
「・・・・・・そのノリ、まだ続くんだ」

 ラクトが呟くが、当然のごとく、カズキに無視された。

「まずは、前回創ったミスリルを用意します。圧縮を重ねたお陰で、こぶし大の大きさしかなくても、魔力消費の大きい魔法を込める事が可能となっています。今回はこれを使って、巨大モンスターを捕獲した際に発生する、保管場所の問題を解決出来るマジックアイテムを作成したいと思います」
「やっとその話になった・・・・・・」

 ラクトが力なく呟く。が、当然のようにカズキに無視された。

「今回込める魔法は、【次元倉庫】という魔法で、基本は『次元ポスト』に使われている魔法と同じです。この魔法は、消費する魔力に比例して、空間の大きさが決まります」
「はい! 質問があります、先生!」
「なんでしょう、助手のフローネ君」

 手を上げたフローネを、助手扱いするカズキ。先生と呼ばれて、気分が良かったらしい。

「その様な事が出来るのであれば、『次元ポスト』よりも大容量の物が発見されてもおかしくないと思うのですが、そのような話を聞いた事がありません。何故なのでしょうか?」

 フローネの質問に、全員がカズキを注視する。大容量の次元ポストがあれば、手ぶらで旅が出来るし、野営する必要もない。カズキと行動を共にしている彼らは、【次元ハウス+ニャン】の有難みを、身に染みて理解している。カズキと別行動をとる事に、耐えられない体になりつつあるのだ。

「良い質問です。まず、【次元倉庫】を込めるためには、それに見合った量のミスリルを用意する必要がありますが、圧縮しない場合のミスリルだと、その必要量は百トンを優に超えます。それを持ち運ぶのは現実的に無理がありますよね?」
「「「「「・・・・・・確かに」」」」」

 カズキの説明に、一同が頷く。

「では、圧縮したミスリルを用意する場合はどうか? この場合、必要なミスリルの量は、凡そ五百キロ程。これは、理由はわかりませんが、圧縮すればするほど、内に蓄えられる魔力量が増えという性質を、ミスリルという金属が持っているからです。これなら馬車を使うなど、工夫すれば移動する事が可能になります」
「「「「「・・・・・・成程」」」」」

 再び一同が頷く。

「さて、ここでフローネ君の質問に戻りましょう。先程私は、消費する魔力に比例して、『次元ポスト』の空間の大きさが決まると言いました。ここまで言えば解ると思いますが、古代魔法王国の人間では、『次元ポスト』を創るのが限界で、【次元倉庫】を創る事が可能な魔法使いがいなかった、というのが真相だと思います」
「はい! 具体的に、『次元ポスト』の何倍の魔力を消費するのでしょうか?」

 マイネが手を上げて質問する。ラクトとフローネへの対応を見て、今のカズキの扱い方を学んだらしい。

「これも良い質問です。お答えすると、『次元ポスト』を二倍の大きさに広げる時に必要な魔力は二倍、三倍の広さなら三倍です。今回創ろうと思っている【次元倉庫】の広さが縦横四十メートル、奥行き六十メートルなので、消費魔力はざっと、『次元ポスト』の二百倍程ですね」
「「「「「・・・・・・はい?」」」」」

 カズキの言葉に凍り付く一同。マイネの興味本位からの質問から、とんでもない事実が飛び出してきたからだ。

「・・・・・・カズキの非常識さは重々理解してたけど、こうして具体的な数字を聞くと、それがより際立つね」
「しかも、それを当たり前のように言う所がまた・・・・・・。単純に考えて、古代魔法王国時代の魔法使いの、二百倍の魔力を消費する魔法って事だぞ?」
「そうですね。それだけでも驚異的な事なのに、その前にトン単位の銀を創り出して、それを圧縮。さらにそれをミスリルに変える事までしています。なのに、全く息切れする気配もない。前に学院長が、カズキさんは神の領域にいる、と言っていたのも頷ける話です」

 ラクト、コエン、マイネの魔法使い三人が、こそこそ話をしているのを余所に、カズキは次の工程に移る。

「さて、いよいよ本番、【次元倉庫】の作成に移りましょう。とは言っても、ここまでくればすることは単純、ミスリルに触れて、魔法を使うだけです」

 そう言って、五百キロのミスリルを、片手で軽々と持ち上げるカズキ。

「なん・・・だと・・・!?」

 半分の重さになったミスリルならばと、再び持ち上げる事にチャレンジし、やはり腰を痛めたエストが驚愕する。

「体格で劣る筈のカズキがいとも簡単に・・・・・・? いや、そんなはずはない。そうか! 魔法だ! カズキが自分で、【フィジカルエンチャント】を掛けてから、と言っていたではないか!」

 エストが自分なりの結論を出したところで、カズキがそれに反論する。

「【フィジカルエンチャント】は使ってないぞ? これはどっちかというと、技術的なものだ」
「・・・・・・技術?」

 意味が分からないエストが、オウムのようにカズキの言葉を繰り返す。

「そう、技術だ。みんなが修得しようとしている、体内の魔力を操って、剣の切れ味を上げたり、力やスピードを強化したり、水の上を歩く・・・・・・のはクリスしか出来ないかもしれないが、ともかくアレだ」
「・・・・・・」

 自在に使いこなせればSランクも見えてくるため、カズキのパーティメンバーとカリムが修得しようと努力を重ねているが、一向に成果は出ていない。
 使えるのがクリスとカズキの二人だけな上に、両者とも感覚的に使いこなす為、技術的な事を説明するのが苦手だからだ。そんなカズキの口から技術と言う言葉が出てくるのは、ギャグ以外の何物でもない。と、エストは内心で思っていた。

「・・・・・・さて、それでは魔法を込めましょう。成功すれば、発動用のボタンが出現するので、一目でわかると思います。私の手元をよーくご覧ください?」

 白い目で見てくるエストを意図的に無視して、カズキが話を進める。マジックアイテムを創る工程を見せて、誤魔化そうとしているのは明白であったが、完成する瞬間を見たいという心理が働いたのか、エストはそれ以上の追及をしてこなかった。
 全員の視線が手元に集まったのを確認して、カズキが魔法を発動する。膨大な魔力が消費された直後、カズキが手にしていたミスリルに変化があった。

「はい、これで無事完成です。それでは中の様子を確認してみましょう。・・・・・・ポチッとな」

 カズキがボタンを押すと、メンバーにはすっかりお馴染みの、別世界への入り口が現れた。

「うわぁ、何もない空間が広がってる。カズキが言うように、本当にただの倉庫って感じだ。確かにこれなら、ロック鳥やワイバーンのような、大型の魔物もたくさん収納できそうだね」

 ラクトの感想に、男衆が頷く。だが、野宿だと何かと大変な、フローネとマイネの女性陣は、目の付け所が違う。

「マイネさん! こっちには居住スペースが確保されてます!」
「本当ですか!? ・・・・・・キッチンにバスルーム、おトイレまでありますね! 一つだけですが、ベッドルームも完備されていますし、流石はカズキさんです!」

 と、男たちが気付かなかった、入り口の傍にある居住スペースを見つけて、大はしゃぎしていたのだ。

「ベッドルームが一つか・・・・・・。流石に男が使う訳にもいかないよね」
「だな。ま、これだけの広さがあるんだ。離れた場所にベッドを設置するなり、やりようは幾らでもある。野宿の必要がないだけで御の字だ」

 パーティを分割するという話をした時、ラクトの念頭にあったのは、カズキ(+多分カリム)と、その他全員という分け方だった。
 戦力的にも運搬能力的にも、カズキが大物担当で、自分達がそれ以外、と考えていたのだ。だが、カズキは違ったらしい。

「? 何を言ってるんだ? これは一人用だぞ?」
「・・・・・・え?」
「この後、同じものを九つ作る」
「・・・・・・九つ?」
「パーティメンバー全員分と、カリム、母さんリディア、ねーさん、ジュリアン、ソフィア様の分だ」

 何故か、冒険に出ない筈のリディアの分は作って、クリスの分は作らないというカズキ。相変わらず、クリスに対しては厳しい男である。

「・・・・・・ハハ、二百人分どころの話じゃなかった」

 カズキの話を聞いたラクトは、それどころではなかったようだが。
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