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第八十八話 ゴブリンエンペラーの脅威
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森から現れるゴブリンを、『ポチッとして殲滅するだけの簡単なお仕事』を始めてから半日が立った。
その間、倒したゴブリンの数は優に千を超えている。村を包囲して、カズキに殲滅されたゴブリンと合わせると、その数は二千強。
個体差もあるが、ゴブリンキングが率いる事が出来る数が、数百~数千という事を考えると、そろそろゴブリンの出現が途切れる頃合いだった。
「ゴブリンの出現頻度が落ちない?」
カリムに代わって、村の入り口付近の森から現れるゴブリンをポチっていた騎士が、見回りに訪れたウェインに状況を報告した。
「はい。それだけではなく、上位種の姿もほとんど確認できていません。これはもしかすると・・・・・・」
「エンペラーが発生している可能性が高い?」
「・・・・・・ええ」
ゴブリンエンペラーとは、単体でAランクに分類される猛者で、強さ的にはワイバーンやキマイラなどと同格の存在だ。
知能が高く、剣も魔法も使いこなすという、本当にゴブリンか? と言いたくなるような能力を誇り、数千~数万単位のゴブリンを支配する上に、率いたゴブリンを強化する能力まで持っている。
その上で自分の周囲に護衛を配し、常に群れで行動するという用心深さを持っているので、倒そうと思ったら同数以上の軍隊を派遣するしかないと言われていた。
「本当にエンペラーだとしたら、由々しき事態だ。相手は既に、この村が防壁で囲われている事を知っている筈。にもかかわらず、斥候と思しきゴブリンの出現頻度が落ちないのは、我々をここに釘付けにする狙いがあるのかもしれない」
「事実、既に半日、いや、我々が休息を取った事を考えると、丸一日経っていますからね」
「ああ。既に、付近の町や村を目指しているかもしれない。何とかして、エンペラーの居場所を捕捉しなければ。・・・・・・カズキ殿に協力を依頼しておいて良かったな」
元々、カズキが受けた依頼は、ゴブリンの大群に襲われている村の防衛に参加する事だった。ウェインがゴブリンキングの居場所を突き止める為に協力を要請していなければ、カズキは王都に帰還していた可能性が高い。
何しろ、村の防衛という観点から見れば、オリハルコン製の防壁を創った時点で達成されていると考える事が出来るからだ。
「カズキ殿に依頼の変更をお願いしないとな。キングなら率いるゴブリンの数は底を突いていただろうから私達で何とか出来たかもしれんが、エンペラーは無理だ。分散している騎士団を集結させている間に、犠牲が増えてしまうからな」
二千強のゴブリンを使い捨てる余裕がある事から、今回発生したと思われるエンペラーの強さは、過去に発生したエンペラーの比ではない事が予想される。
その為、邪神を討伐した実績を持つ、カズキの力が必要だと、ウェインは判断した。
いたずらに犠牲を増やすよりはその方が確実だし、結果的に被害(人と金)も少なくて済むからだ。
「すまないが、交代が来るまで引き続きこの場を頼む。私は、殿下にこの事を報告した後、カズキ殿と一緒にエンペラーを探すつもりだ。村の防衛に関しては、副隊長の指示に従ってくれ。まあ、この防壁とカズキ殿謹製のマジックアイテム(【レーヴァテイン】入り)があれば、心配は要らないだろうが」
「ハッ! お気をつけて!」
敬礼する部下に答礼して、ウェインはカズキを探すべく、その場を後にした。
カズキは探すまでもなく、直ぐに見つかった。防壁から階段を降りてきたところにある、広間にいたからだ。
「じゃあ行きましょうか。ゴブリンの群れが移動を始めたようなので」
しかも、これからウェインが頼もうとしていた事を、すべて理解しているかのような口調である。
「・・・・・・ゴブリンエンペラーの居場所がわかるのですか?」
色々な疑問を覚えるウェインだったが、今はそれどころではないと思い直し、カズキにそれだけを質問した。
「エンペラーかどうかはわかりませんが、正面の森の中に大きめの魔力を持つゴブリンと、三万匹くらいのゴブリンがいるのは、この村に来た時から知っていましたよ?」
軽い口調であっさりとそんな事をのたまうカズキに、ウェインは脱力した。
「本当は居場所だけ教えて手は出さないつもりだったんですが、ジュリアンに確認をとったら、『一国を滅ぼせる戦力だから、カリムにはまだ早い。騎士たちもその人数では全滅だ』と言われました。あ、ウェインさんには、『ゴブリンの全滅を見届けてくれ』と言付かってます。これが命令書です」
差し出された命令書を反射的に受け取りながら、ウェインは全く別の事を考えていた。
それは、カズキがエンペラーが率いるゴブリンの集団を全く脅威に感じていない事と、それをカリムの修行に使おうという、豪快な発想についてである。
更に言うと、当事者のカリムもその事を疑問に思っていないらしく、当然のような顔でその場にいるではないか。
「これが、歴史に名を残す英雄と凡人の違いなのかもな」
歩き出したカズキとカリムの後を追いながら、ウェインはそう独り言ちた。
その間、倒したゴブリンの数は優に千を超えている。村を包囲して、カズキに殲滅されたゴブリンと合わせると、その数は二千強。
個体差もあるが、ゴブリンキングが率いる事が出来る数が、数百~数千という事を考えると、そろそろゴブリンの出現が途切れる頃合いだった。
「ゴブリンの出現頻度が落ちない?」
カリムに代わって、村の入り口付近の森から現れるゴブリンをポチっていた騎士が、見回りに訪れたウェインに状況を報告した。
「はい。それだけではなく、上位種の姿もほとんど確認できていません。これはもしかすると・・・・・・」
「エンペラーが発生している可能性が高い?」
「・・・・・・ええ」
ゴブリンエンペラーとは、単体でAランクに分類される猛者で、強さ的にはワイバーンやキマイラなどと同格の存在だ。
知能が高く、剣も魔法も使いこなすという、本当にゴブリンか? と言いたくなるような能力を誇り、数千~数万単位のゴブリンを支配する上に、率いたゴブリンを強化する能力まで持っている。
その上で自分の周囲に護衛を配し、常に群れで行動するという用心深さを持っているので、倒そうと思ったら同数以上の軍隊を派遣するしかないと言われていた。
「本当にエンペラーだとしたら、由々しき事態だ。相手は既に、この村が防壁で囲われている事を知っている筈。にもかかわらず、斥候と思しきゴブリンの出現頻度が落ちないのは、我々をここに釘付けにする狙いがあるのかもしれない」
「事実、既に半日、いや、我々が休息を取った事を考えると、丸一日経っていますからね」
「ああ。既に、付近の町や村を目指しているかもしれない。何とかして、エンペラーの居場所を捕捉しなければ。・・・・・・カズキ殿に協力を依頼しておいて良かったな」
元々、カズキが受けた依頼は、ゴブリンの大群に襲われている村の防衛に参加する事だった。ウェインがゴブリンキングの居場所を突き止める為に協力を要請していなければ、カズキは王都に帰還していた可能性が高い。
何しろ、村の防衛という観点から見れば、オリハルコン製の防壁を創った時点で達成されていると考える事が出来るからだ。
「カズキ殿に依頼の変更をお願いしないとな。キングなら率いるゴブリンの数は底を突いていただろうから私達で何とか出来たかもしれんが、エンペラーは無理だ。分散している騎士団を集結させている間に、犠牲が増えてしまうからな」
二千強のゴブリンを使い捨てる余裕がある事から、今回発生したと思われるエンペラーの強さは、過去に発生したエンペラーの比ではない事が予想される。
その為、邪神を討伐した実績を持つ、カズキの力が必要だと、ウェインは判断した。
いたずらに犠牲を増やすよりはその方が確実だし、結果的に被害(人と金)も少なくて済むからだ。
「すまないが、交代が来るまで引き続きこの場を頼む。私は、殿下にこの事を報告した後、カズキ殿と一緒にエンペラーを探すつもりだ。村の防衛に関しては、副隊長の指示に従ってくれ。まあ、この防壁とカズキ殿謹製のマジックアイテム(【レーヴァテイン】入り)があれば、心配は要らないだろうが」
「ハッ! お気をつけて!」
敬礼する部下に答礼して、ウェインはカズキを探すべく、その場を後にした。
カズキは探すまでもなく、直ぐに見つかった。防壁から階段を降りてきたところにある、広間にいたからだ。
「じゃあ行きましょうか。ゴブリンの群れが移動を始めたようなので」
しかも、これからウェインが頼もうとしていた事を、すべて理解しているかのような口調である。
「・・・・・・ゴブリンエンペラーの居場所がわかるのですか?」
色々な疑問を覚えるウェインだったが、今はそれどころではないと思い直し、カズキにそれだけを質問した。
「エンペラーかどうかはわかりませんが、正面の森の中に大きめの魔力を持つゴブリンと、三万匹くらいのゴブリンがいるのは、この村に来た時から知っていましたよ?」
軽い口調であっさりとそんな事をのたまうカズキに、ウェインは脱力した。
「本当は居場所だけ教えて手は出さないつもりだったんですが、ジュリアンに確認をとったら、『一国を滅ぼせる戦力だから、カリムにはまだ早い。騎士たちもその人数では全滅だ』と言われました。あ、ウェインさんには、『ゴブリンの全滅を見届けてくれ』と言付かってます。これが命令書です」
差し出された命令書を反射的に受け取りながら、ウェインは全く別の事を考えていた。
それは、カズキがエンペラーが率いるゴブリンの集団を全く脅威に感じていない事と、それをカリムの修行に使おうという、豪快な発想についてである。
更に言うと、当事者のカリムもその事を疑問に思っていないらしく、当然のような顔でその場にいるではないか。
「これが、歴史に名を残す英雄と凡人の違いなのかもな」
歩き出したカズキとカリムの後を追いながら、ウェインはそう独り言ちた。
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