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第八十話 エルザの立ち位置
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カズキが『時空の歪み』に魔力で干渉すると、魔界へと門が通じる。
すると、向こう側にいるモノの力によって『時空の歪み』が拡大し始め、直径三メートル程まで門が開くと、背に蝙蝠の翼を持ち、こめかみから角を生やした存在が姿を現した。
「・・・・・・あれは?」
その存在の強大さに、体が勝手に震えだしたのを自覚しながら、ソフィアは傍らに移動してきたカズキに尋ねる。
話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると、想像以上に恐怖を感じている自分がそこにいた。
「あれは多分、男爵級の悪魔だと思います。古代魔法王国時代に現れた奴と同等の力を持つ個体で、『時空の歪み』に干渉すると、最初に出て来ます。まあ、雑魚ですね」
そんなソフィアの様子に気付く事もなく、カズキはのんびりとした口調で質問に答えた。
「ほう、中々に高い魔力を持っているようだな、人間。貴様を喰らえば、私は子爵級の力を得る事が出来るだろう」
悪魔が、自分の目の前にいる矮小な存在に声を掛けた。
「・・・・・・あいつらって、人間を食べるの?」
エルザがクリスに話し掛けている悪魔を、まるでゴミでも見るような表情をしながらカズキに聞いた。
彼女はソフィアと違って、悪魔を見ても恐れている様子はない。警戒はしているようだが。
「前に戦った奴も、そんな事を言ってたな。今のアイツの発言も併せて考えると、魔力が高い人間を食べると、強くなるんじゃねえの?・・・・・・無理だろうけど」
カズキとエルザの声が聞こえたのか、悪魔がクリスを無視して二人を見た。
「ほう、高い魔力を持った人間が、そちらにも三匹いるではないか。しかもその内の一匹は『聖女』だ! 全部喰らえば、私は伯爵をも凌駕する力を得る事が出来る! 公爵も夢ではない!」
「それが遺言か?」
一人で盛り上がっている悪魔に向けて、クリスがポツリと呟く。
次の瞬間、悪魔は頭から一刀両断にされて消滅した。
人間を舐めて、時間を操らなかったのが敗因・・・・・・ではない。
時間を操ろうが何しようが、男爵級の悪魔程度では、最初からクリスに勝つ見込みはなかったのだ。
「魔力を込めていないのに、この切れ味。・・・・・・俺は今、猛烈に感動している!」
悪魔を瞬殺した事に何ら感慨を抱かないクリスは、熱い視線を自分の剣に注いでいた。
「・・・・・・【フィジカルエンチャント】が掛かっている筈なのに、クリスがいつ剣を振ったのか見えなかったわ。自分で産んでおいて何だけど、本当に人間なのかしら?」
悪魔への恐怖を忘れ、自分の息子の常軌を逸した実力に戦慄するソフィア。
そんな母親の葛藤も知らず、クリスの意識は、次に現れた悪魔へ向いていた。
「#%&$」
今回現れた悪魔は最初から時間を操っているのか、カズキ達には何を言っているのか理解できなかった。
身体能力が上がって動体視力と聴力も上がっているが、高速で話している(ように聞こえる)相手の言葉を理解できる訳ではない。
聴力の強化とは即ち、耳が良くなるという事だからだ。
「何を言っているのかわからねーけど、こいつも大した事ねーな」
その言葉と共に、再び剣を一閃するクリス。
出て来たばかりの悪魔(多分子爵級)は、哀れにも最初の犠牲者と同じ末路を辿った。
「チッ、歯応えのない。カズキ! もっと強いのは出て来ねーのか!?」
新しい剣の性能を試しに来たのに、続けて出て来たのが雑魚(クリス、カズキ視点)だったせいで、早くも欲求不満になっているクリス。
「もう少し待ってれば、少しはマシな奴が出てくるって。門が大きくならないと、力のある奴は出てこれないからな」
その場に座り込んだカズキが、膝の上に乗せたナンシーにチOオちゅーるを与えながらそう答える。
『時空の歪み』への警戒が必要ないので、カズキの関心は、ナンシーとクレア、エリーへと移っていた。
「美味いか?」
「ニャー♪」
「そうかそうか。おっと、エリーとクレアも欲しいよな? ちょっとだけ待っててくれよー?」
「ミャー」
「フニャー」
ソフィアとエルザが『時空の歪み』への警戒を解かない為、カズキの元へやって来た二匹の猫達にも奉仕すべく、懐からチOオちゅーるを取り出した。
片手が塞がっているので魔法で封を破り、エリーとクレアにも一本ずつ差し出すと、即座に二匹は飛びつく。
喉を鳴らし、ペロペロと美味しそうに舐めている三匹を、満足そうな顔で見守るカズキ。
そんな一人と三匹の様子を見て、ソフィアとエルザは肩の力を抜いた。
「この子達は本能でわかっているのね、悪魔よりもクリスやカズキの方が強いと。・・・・・・私には無理だわ。下手に古代魔法を使えてしまうから、自分と悪魔の魔力量の差に圧倒されてしまうの」
身近にはカズキがいるが、彼に対してそういう感覚を抱く事はない。実力差がありすぎて、感覚がマヒしているからだ。
「仕方ないんじゃない? っていうか、クリスとカズキが異質なのよ」
「・・・・・・あなたもあっち側でしょ?」
クリスとカズキを指して他人事のように言うエルザに、ソフィアからのツッコミが入る。
「冗談でしょ? 最初に出て来た男爵級位なら一対一でどうにか出来るけど、それ以上の相手なんて私の手に余るわ」
次々と現れる悪魔を片っ端から切り殺しているクリスを見ながら、心外だと言いたげな表情をするエルザ。
だが、下級とはいえ男爵級の悪魔を倒せると言っている時点で、ソフィアの中では十分に「あっち側」である。
何しろ男爵級の悪魔は、『時空の歪み』に囚われなければ、古代魔法文明を滅ぼしていた筈だからだ。
「おっ? 歪みが拡大し始めたな。今までの奴よりは楽しませてくれよ?」
五メートルにまで拡大した『時空の歪み』を見て、クリスが獰猛な笑みを浮かべる。
彼のお楽しみは、これからが本番だった。
すると、向こう側にいるモノの力によって『時空の歪み』が拡大し始め、直径三メートル程まで門が開くと、背に蝙蝠の翼を持ち、こめかみから角を生やした存在が姿を現した。
「・・・・・・あれは?」
その存在の強大さに、体が勝手に震えだしたのを自覚しながら、ソフィアは傍らに移動してきたカズキに尋ねる。
話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると、想像以上に恐怖を感じている自分がそこにいた。
「あれは多分、男爵級の悪魔だと思います。古代魔法王国時代に現れた奴と同等の力を持つ個体で、『時空の歪み』に干渉すると、最初に出て来ます。まあ、雑魚ですね」
そんなソフィアの様子に気付く事もなく、カズキはのんびりとした口調で質問に答えた。
「ほう、中々に高い魔力を持っているようだな、人間。貴様を喰らえば、私は子爵級の力を得る事が出来るだろう」
悪魔が、自分の目の前にいる矮小な存在に声を掛けた。
「・・・・・・あいつらって、人間を食べるの?」
エルザがクリスに話し掛けている悪魔を、まるでゴミでも見るような表情をしながらカズキに聞いた。
彼女はソフィアと違って、悪魔を見ても恐れている様子はない。警戒はしているようだが。
「前に戦った奴も、そんな事を言ってたな。今のアイツの発言も併せて考えると、魔力が高い人間を食べると、強くなるんじゃねえの?・・・・・・無理だろうけど」
カズキとエルザの声が聞こえたのか、悪魔がクリスを無視して二人を見た。
「ほう、高い魔力を持った人間が、そちらにも三匹いるではないか。しかもその内の一匹は『聖女』だ! 全部喰らえば、私は伯爵をも凌駕する力を得る事が出来る! 公爵も夢ではない!」
「それが遺言か?」
一人で盛り上がっている悪魔に向けて、クリスがポツリと呟く。
次の瞬間、悪魔は頭から一刀両断にされて消滅した。
人間を舐めて、時間を操らなかったのが敗因・・・・・・ではない。
時間を操ろうが何しようが、男爵級の悪魔程度では、最初からクリスに勝つ見込みはなかったのだ。
「魔力を込めていないのに、この切れ味。・・・・・・俺は今、猛烈に感動している!」
悪魔を瞬殺した事に何ら感慨を抱かないクリスは、熱い視線を自分の剣に注いでいた。
「・・・・・・【フィジカルエンチャント】が掛かっている筈なのに、クリスがいつ剣を振ったのか見えなかったわ。自分で産んでおいて何だけど、本当に人間なのかしら?」
悪魔への恐怖を忘れ、自分の息子の常軌を逸した実力に戦慄するソフィア。
そんな母親の葛藤も知らず、クリスの意識は、次に現れた悪魔へ向いていた。
「#%&$」
今回現れた悪魔は最初から時間を操っているのか、カズキ達には何を言っているのか理解できなかった。
身体能力が上がって動体視力と聴力も上がっているが、高速で話している(ように聞こえる)相手の言葉を理解できる訳ではない。
聴力の強化とは即ち、耳が良くなるという事だからだ。
「何を言っているのかわからねーけど、こいつも大した事ねーな」
その言葉と共に、再び剣を一閃するクリス。
出て来たばかりの悪魔(多分子爵級)は、哀れにも最初の犠牲者と同じ末路を辿った。
「チッ、歯応えのない。カズキ! もっと強いのは出て来ねーのか!?」
新しい剣の性能を試しに来たのに、続けて出て来たのが雑魚(クリス、カズキ視点)だったせいで、早くも欲求不満になっているクリス。
「もう少し待ってれば、少しはマシな奴が出てくるって。門が大きくならないと、力のある奴は出てこれないからな」
その場に座り込んだカズキが、膝の上に乗せたナンシーにチOオちゅーるを与えながらそう答える。
『時空の歪み』への警戒が必要ないので、カズキの関心は、ナンシーとクレア、エリーへと移っていた。
「美味いか?」
「ニャー♪」
「そうかそうか。おっと、エリーとクレアも欲しいよな? ちょっとだけ待っててくれよー?」
「ミャー」
「フニャー」
ソフィアとエルザが『時空の歪み』への警戒を解かない為、カズキの元へやって来た二匹の猫達にも奉仕すべく、懐からチOオちゅーるを取り出した。
片手が塞がっているので魔法で封を破り、エリーとクレアにも一本ずつ差し出すと、即座に二匹は飛びつく。
喉を鳴らし、ペロペロと美味しそうに舐めている三匹を、満足そうな顔で見守るカズキ。
そんな一人と三匹の様子を見て、ソフィアとエルザは肩の力を抜いた。
「この子達は本能でわかっているのね、悪魔よりもクリスやカズキの方が強いと。・・・・・・私には無理だわ。下手に古代魔法を使えてしまうから、自分と悪魔の魔力量の差に圧倒されてしまうの」
身近にはカズキがいるが、彼に対してそういう感覚を抱く事はない。実力差がありすぎて、感覚がマヒしているからだ。
「仕方ないんじゃない? っていうか、クリスとカズキが異質なのよ」
「・・・・・・あなたもあっち側でしょ?」
クリスとカズキを指して他人事のように言うエルザに、ソフィアからのツッコミが入る。
「冗談でしょ? 最初に出て来た男爵級位なら一対一でどうにか出来るけど、それ以上の相手なんて私の手に余るわ」
次々と現れる悪魔を片っ端から切り殺しているクリスを見ながら、心外だと言いたげな表情をするエルザ。
だが、下級とはいえ男爵級の悪魔を倒せると言っている時点で、ソフィアの中では十分に「あっち側」である。
何しろ男爵級の悪魔は、『時空の歪み』に囚われなければ、古代魔法文明を滅ぼしていた筈だからだ。
「おっ? 歪みが拡大し始めたな。今までの奴よりは楽しませてくれよ?」
五メートルにまで拡大した『時空の歪み』を見て、クリスが獰猛な笑みを浮かべる。
彼のお楽しみは、これからが本番だった。
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