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第七十六話 マイネVSエスト 決着

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 マイネとエストの戦いは、決着が付かないまま、時間だけが経過していた。
 しかし、二人に疲労の色は見えない。むしろ、時間が経つにつれて、その動きは早く、鋭くなっていく。

「楽しそうですね、マイネさん」

 フローネが、膝の上で丸くなっているクレアを撫でながら呟いた。
 自身も今日、トーナメントに出場するというのに、ラクトのように控室ではなく、観客席からの観戦である。流石はランスリードの血族なだけあって、神経が図太かった。

「そうね。今まで、彼女と実力の拮抗している相手がいなかったからね」

 答えたのはエルザだった。
 マイネは公爵家の長女として生まれ、父親の跡を継ぐことを期待された。
 幼い頃から才女として有名で、何を教えてもあっという間に自分の物にしてしまう。当然、彼女のライバルとなり得る存在もいなかった。
 魔法学院に入学してからも同じで、自分と同等か、それ以上の存在を求めてランキング戦に挑んだが、得られたのは学院始まって以来の、全ての部門で一位という、他人から見れば羨ましいが、本人からすれば望んでいない結果。
 ならばと課外活動(冒険者)に力をいれてみたが、マイネの受けたい依頼と、当時パーティを組んでいた学院生達が受けたい依頼の難易度が乖離していた為、それも長続きする事はなく、結局彼女は一人で活動する事になる。
 風向きが変わったのは、カズキの入学だった。彼と対戦したコエンやエストは、敗戦から自分を見つめ直し、ラクトは、ワイバーンの生肉や、試験の時のアドバイス(ラクトは詠唱いらないんじゃね?)によって、魔法使いとしての実力を大きく伸ばした。

「・・・・・・そんなわけで、ライバルが増えた今の状況が、楽しくて仕方ないんじゃない?」
「納得しました」

 エルザの説明に、カズキを見たフローネが頷く。
 切欠になった当のカズキは、そんな話をされているとも知らずに、弟であるカリムに問われるまま、マイネとエストの試合の解説を行っていた。



「ハッ!」

 エストの鋭い斬撃を紙一重で躱したマイネは、お返しとばかりに袈裟切りを放つ。エストはその一撃を、素早く戻した剣で防いだ。
 何度目かの剣の交錯。それまでは互いに剣を引いて次の攻撃に移っていたが、今回は違った。エストが体格差を活かして、力任せにマイネを弾き飛ばそうとしたのだ。

「くっ!」

 だが、マイネもただでは済まさない。体勢を崩された瞬間に、咄嗟に前蹴りを放ったのである。

「ぐっ!」

 放たれた蹴りは、追撃の為に前掛かりになっていたエストの鳩尾に突き刺さり、ダメージで一瞬エストの動きが止まる。その隙にマイネは体勢を立て直すと、今度は自分から踏み込み、神速の突きを放った。

「貰った!」

 この試合始まって以来の、否、これまでの生涯で一番の一撃を放ったという手応えに、普段は冷静なマイネが叫ぶ。

「まだだ!」

 痛みに一瞬動きを止められたエストも、生涯最大の集中を見せた。苦痛を無視して踏み込み、マイネと同様に、神速の突きで迎え撃つ。

 互いの剣の切先が寸分違わぬ事無く正面から衝突し・・・・・・、片方の剣が粉々に砕け散った。

「「「「・・・・・・」」」」

 何が起こったのか分からない観客達は、無言で二人を注視する。
 そんな中、不意にエストが構えを解いた。そして、自分の粉々になった剣を見つめた後、溜息を吐く。

「降参する。・・・・・・私の負けだ」

 エストの宣言に、闘技場が沸いた。

「いやあ、素晴らしい戦いでした! 近年稀にみる、ハイレベルな試合だったと言っても過言ではないでしょう! 素晴らしい戦いを見せてくれた二人に、盛大な拍手をお願いします!」

 クリスの言葉に、会場中から拍手が巻き起こる。
 激闘を終えた二人は、観客の声に応えながら、その場を後にした。
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