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第六十三話 勇者タゴサク、成り行きでトーナメントに出場する

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「ねーさん。あいつに賭ければ儲かるかもよ?」

 タゴサクを発見したカズキの第一声はそれだった。

「誰? 一般参加の出場者? カズキの知り合いなの?」
「リーザで少し話をした程度だけど。アーネストが底引き網を引き揚げてたら、溺死体の真似事をしているアイツが引っ掛かってたらしい。助けて話を聞いたら、トーナメントの見物をしたいって言うから、ついでに送り届けたんだってさ」
「ふーん。あなたがそう言うなら、彼に賭けてみようかしら。名前は何て言うの?」

 溺れていた云々の話をマルッと無視して、エルザは名前だけを尋ねた。

「・・・・・・タゴサク」

 笑いを堪えながら、カズキはそれだけを口にした。未だにツボに入っているらしい。

「タゴサクね? じゃあちょっと行ってくるわ」

 エルザは、何故カズキが笑いを堪えているのだろうと疑問に思いながらも立ち上がった。
 一般の部のトトカルチョの締め切りがすぐそこまで迫っているので、カズキへの追及をする時間がないと判断したのだ。

「カズキが気にするって事は、それなりに強い人なんだろうね」
「そうですね。トーナメントの本戦で当たる可能性も、十分にあります」
「どの部門に出場するのかも気になります。カズキさんはどれに出場すると思いますか?」

 カズキが気にするタゴサクという人物に、ラクト達三人は警戒混じりの会話を交わす。
 カズキが一番反応しているのはそのものに対してなのだが、生まれた世界が違う三人にはわからない事だった。

「買ってきたわ。全部の部門にエントリーしてたから、倍率が凄い事になってたわよ。勿論、全部門予選突破に賭けたけど」

 三人の疑問に答えたのは、上機嫌のエルザである。ローリスクハイリターン(インサイダーとも言う)がモットーのエルザにとって、今回のトーナメントは賭ける対象が見つからない、退屈極まりないものだったのだ。
 マイネは入学してからランキングのトップを独走しているし、ラクトとフローネは、ソロだったマイネが実力を認めてパーティを組んだ(と、周りから思われている)上に、既にランキングトップテンに入っている程の逸材である。当然、賭けの倍率も低いので、エルザの賭けの対象にはならなかった。
 そこに颯爽と? 現れたのがタゴサクである。誰もマークしていない上に、カズキのお墨付き。エルザがご機嫌になる訳である。

「全部門にエントリーですか? 自分の実力に、相当の自信があるんでしょうね・・・・・・」
「敵は、コエンだけじゃないって事か・・・・・・」
「これは、気を引き締めなおさないと・・・・・・」

 マイネの呟きに、ラクトとフローネも同意する。突然現れたライバル候補に、三人の闘志は否が応でも高まっていった。



「ここが王都だか・・・・・・。リーザも凄かったけんど、ここはそれ以上の賑わいだべ」

 時間は少し遡る。
 冒険者になる事が出来たタゴサクは、無事に検問をパスして、ランスリードの王都に足を踏み入れた。
 検問から出た所で足を止め、感慨深い表情で周囲を見ているタゴサク。彼の後に検問をパスした人々は、立ち止まっているタゴサクに迷惑そうな顔をしながらも、声を掛ける事無く街中へ消えていった。

「おっと、こうしてはいられねえべ。早いとこ学院に行って、『剣帝』と『聖女』を探さねえと」

 五分ほどして我に返ったタゴサクは、踵を返した。
 そして、そのまま門を潜ろうとしたところで、リーザ方面から来た男に呼び止められる。

「タゴサクじゃねえか! 三日ぶりだな!」

 してきたその男は、リーザにいる筈のアーネストだった。

「アーネストさん? なしてここにいるんだべ?」
「兄貴に呼ばれたんだ。何か、手伝って欲しい事があるって言われてよ。交換条件にって言ったら、それで構わねえって言われたんだ」

 世界一周漁業。文字通り、世界を一周しながら漁をするという夢のようなイベント(アーネスト限定)である。旅行が目的ではない。

「タゴサクはどうした? トーナメント前に一稼ぎか?」

 門を出ようとしていたタゴサクを見て、トトカルチョの軍資金稼ぎに、依頼でも受けたのかと予想したアーネスト。彼は、タゴサクが極度の方向音痴だとは知らない。

「いや、おらは学院に行こうと思って・・・・・・」
「おいおい、学院が町外れにあるからって、門を出たら遠回りになっちまうぞ? 丁度俺も学院に用事があるし、なんだったら一緒に行くか?」
「そういう事ならご一緒させてもらうべ」

 アーネストの提案に、タゴサクは一も二もなく飛びついた。広い王都の中を、知り合いが一人もいない状態で歩くのは心細かったのだ。

「ならこっちだ! とは言っても、この道を真っすぐ進むだけだけどな!」

 途中にある屋台で買い食いをしつつ、二時間ほどで学院へと辿り着いた。
 普段は学院生と卒業生しか立ち入れない学院は、一般人が立ち入れる数少ない日だけあって、闘技場の前から、長い行列が出来ていた。

「お知らせします! 闘技場の収容人数が一杯になった為、以降のお客様は野外の特設ステージでの観戦となります。整理券をお持ちでない方の、闘技場への入場は出来ません! 繰り返します! 闘技場の・・・・・・」

 アーネストとタゴサクが列の最後尾に並ぼうとしたその時、入場中止のアナウンスが聞こえてきた。

「入場中止? それじゃあ、おらの目的が果たせねえだ。困ったべ・・・・・・」

 アーネストからトーナメントの話を聞いたタゴサクは、『剣帝』と『聖女』を勧誘する前に、その顔と実力を直接見る事が出来ると期待していた。そして、後日改めて学院の外で接触し(ストーカー行為)、邪神討伐への協力を要請するつもりだったのである。

「アーネストさん、どうにか闘技場で試合を見る方法はねえか? このままだと世界が・・・・・・」
「そこまでしてトーナメントが見てえのか? ・・・・・・そうだよな、二年も前から楽しみにしてたんだもんな」

 世界云々は聞き流して、アーネストは周囲を見回した。
 その視界に、タゴサクと同年代と思われる少年が、観客席とは別の入り口から、闘技場に入っていくのが映る。

「・・・・・・なあタゴサク。お前、年は幾つだ?」
「十六になったばかりだべ」 

 突然の質問だったが、素直に答えるタゴサク。それを聞いたアーネストには、一つの方法が思い浮かんでいた。

「タゴサク! 一般の部に出ろ! それなら、間近で試合を見れるぞ!」
「ホントけ!? 流石はアーネストさんだ! おら、トーナメントに出るだ!」

 勢いだけで、トーナメントへの出場を決めるタゴサク。善は急げとばかりに、一般の部への受付へとタゴサクを引き摺っていくアーネスト。

「ねーちゃん! 出場希望だ!」

 突然現れて、いきなり捲し立てるアーネスト。受付嬢は慣れているのか、動じることなくエントリー用紙を差し出した。

「こちらの用紙の免責事項をご確認の上、名前と、出場希望の部門に〇をつけてください」
「おうタゴサク! お前、魔法は使えたよな!?」

 勝手に用紙に記入しながら、タゴサクに確認を取るアーネスト。そして、返事が返ってくる前に、受付嬢に用紙を渡してしまう。本人の意思は無視だった。
 実は、冒険者ギルドでの登録の時も同じ事をしているアーネスト。だが、それはタゴサクに幸いした。
 仮に、タゴサクが自分で登録した場合、嘘を吐けないタゴサクは、馬鹿正直にタゴサク・と書類に書いていたに違いないからだ。
 そうなれば、ギルドは大騒ぎになっていた筈である。下手をすれば、世界中に賞金首として、手配されたかもしれない。
 知らないうちに危機を回避していたタゴサクだったが、ここではアーネストに任せた事が裏目に出た。
 タゴサクがなにも関与できない内に、全ての部門へのエントリーが完了してしまったのである。
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