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第六十二話 トーナメント開始

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「ここが冒険者ギルドだか・・・・・・」

 道行く人に場所を尋ねまくって、どうにかこうにか冒険者ギルドに辿り着いたのは、日もとっぷり暮れてからの事だった(ちなみに、『真・アーネスト号』がリーザに帰港したのは、午前中の早い時間である)。
 何故そんなにも時間が掛かったのかというと、屋台から漂ってくる匂いにつられて買い食いしまくったり(アーネストから給料を貰った)、土産物屋にありがちな、胡散臭い工芸品を衝動買い(ぼったくられた)したり、たまたま見つけた教会で祈りを捧げたり(死に戻りの際の拠点変更。悪徳神官にお布施と称して全財産を巻き上げられた)と、生来の方向音痴が発動したからである。

「おっ! タゴサクじゃねえか!」

 ギルドに入って入り口で立ち止まったままキョロキョロしているタゴサクに、併設されている食堂から声が掛けられた。
 エールのジョッキを掲げてタゴサクに声を掛けたのは、港で別れた筈のアーネストだった。

「アーネストさん!? なしてここにいるんだべ?」

 予期せぬ再会に驚くタゴサク。それも無理はない。アーネストはただの漁師だと思っていたからだ。

「飯だ! ついでにライセンスの更新もしたがな!」
「ライセンスけ? ひょっとして、アーネストさんも、冒険者になりに来ただか?」

 更新という言葉を聞き流して、アーネストに質問するタゴサク。

「そんな感じだ! タゴサクはどうした!? もう依頼を片付けてきたのか!?」

 酒が入っているせいか、やたらハイテンションのアーネスト。実は更新でSランクの仲間入りを果たしたのだが、本人は全く気にしていなかった。というか気付いていなかった。

「まだ登録もしてねえべ。あっちこっち歩いてたら、いつの間にかこんな時間になっちまって」
「そうか! ここは世界中から色んな物が集まるからな! 初めてこの街に来たんなら、歩いているだけで、日が暮れちまうのも仕方ねえ!」

 アーネストはリーザという街が好きなので(というか領主なのだが)好意的に解釈したが、実際はタゴサクが方向音痴を自覚していないだけである。

「そうだ! タゴサクは飯を食ったか!? まだならここに座ると良い! 今日はカズキが奢ってくれるから、金の心配はしなくていいぞ!」

 そう言って、自分の隣りの席を指さすアーネスト。タゴサクは一瞬躊躇したが、空腹に耐えかねて、勧められるがままに席に着いた。
 教会でアーネストから貰った給料を巻き上げられたタゴサクは、昼から何も食べていなかったのである。

「それは物凄く助かるべ。カズキさん? は、随分気前がいいお人だなぁ。後でお礼を言いたいんだけども」
「残念ながら、もうこの街を発った後だ! カズキは学院に通っているから、トーナメントを見に行けば、きっと会える筈だ!」
「そうなのけ? だども、おらはカズキさん? のお顔を知らねえんだけども」
「港で会ったじゃねえか! お前に、冒険者になる事を勧めたのがカズキだ!」
「・・・・・・ああ! あの親切な人だか!」 

 暫し考え込んで、カズキの背格好を思い出すタゴサク。カズキが自分の探している人物だとは、夢にも思っていない。
 タゴサクがそれに気づく日は、そして、邪神が既に倒されている事に気付く日は、もうすぐそこまで来ている・・・・・・かもしれない。



 ランスリード魔法学院のトーナメントは年二回。いずれも一週間に渡って開催される。
 初日の今日は、トーナメント本戦への参加を希望する者達による、予選が行われている最中だ。
 過去には、見物に来ている各国の商人や貴族、更には王族などの目に留まり、卒業後に商人の護衛や、貴族や王族の下で騎士になった者も多いとあって、大多数の学院生が真剣な表情をしていた。
 勿論、例外もいる。例えば次元屋の跡取りラクトだったり、公爵家の跡取りマイネだったり、そもそも王族フローネだったり、大賢者カズキだったり。
 彼等は将来の心配はしていない。だが、一人を除けば、真剣な表情をしているのは他の参加者と一緒だった。

「コエンは当然のように予選を突破しそうですね。カズキさんと戦った時よりも、魔法の威力と精度が上がっているみたいですし」

 たった今終わった試合を見て、マイネが分析する。

「確かに。あの時は相手が悪かったせいで、全くいい所がなかったという印象でしたけど、こうして改めて試合を見てみると、油断していい相手では無い事が、良く分かります」

 魔法戦闘に出場が決まっているラクトも、マイネに同意した。
 ランキングのトップテンに入っているラクトは、出場を希望した時点で、予選は免除されている。
 同様にマイネは武器戦闘、フローネは通常戦闘にエントリーしていて、やはり予選は免除されていた。
 カズキはそもそもエントリーしていない。
 コエン・ザイムとの決闘の顛末と、魔法も使わずに入学式で三十人の上級生を返り討ちにしたという話を教官から聞き出した者が、他の学院生達を巻き込んで、「カズキをトーナメントに出場させないでくれ、というか、もう卒業でいいんじゃね?」と、ジュリアンに詰め寄ったからだ。
 自分達の将来が掛かっているので、学院生達も必死である。
 そんな彼らの嘆願が実り、カズキのトーナメントへの不参加が決定した。
 実の所、文句を言いそうなエルザが、カズキの不参加に同意したから、というのが一番の理由であったが。
 エルザならカズキに命じて、わざと負けさせる事も可能なのだが、振りでもカズキが負けるのは許せないらしい。複雑な姉心であった。

「エストも順調に勝ち進んでいるわね。彼も、カズキに負けてから、血の滲むような努力を重ねたんでしょう。あなたにリベンジする為に」

 一緒に観戦していたエルザが、ニヤニヤ笑いながら言った。

「エスト?・・・・・・誰?」

 話し掛けられたカズキが、上の空でエルザに答える。ナンシーにチOオちゅーるを与えている最中だったのだ。

「カズキさんが入学して二日目で、十七連勝した時に最後に戦った方です。『カズキ・スワ、私の負けだ』の方ですよ?」
「ぶはっ!」

 フローネの物真似に吹き出すカズキ。それで思い出すカズキも酷いが、フローネも相当である。

「アイツかぁ。そういえば、その内俺に挑戦するとか言ってたっけ。・・・・・・ん?」

 エストとの思い出(笑)を思い出していたカズキは、視界に見覚えのある人物が映ったような気がして、そちらに注意を向けた。

「カズキ? どうしたの?」

 何故か肩を震わせているカズキの様子を訝ったラクトが、カズキの見ている方向へと視線を向ける。

「あっちは一般の部が行われている会場だね。誰か気になる人でもいたの?」

 学院には試験を受ける他に、もうひとつ入学する方法があった。
 それは、年二回行われるトーナメントで、一般の部で優勝し、学院生の参加する本戦に出場したうえで、優秀な成績を残すという方法である。 
 中途入学の場合は、試験に合格して入学した者達に比べて、単位の獲得に不利になる。その為、ある程度の実力者でなければ、入学しても次の年には退学という事に成りかねないからだ。
 入学試験に落ちた者でも参加できるため、それなりに腕が立つ者も多く参加している。
 その中に、何故かタゴサクが混ざっていたのだ。
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