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第六十一話 勇者タゴサク、遂にリーザに辿り着く
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アーネストとタゴサクの二人がリーザに帰港したのは、それから一ヵ月程経ってからだった。
『真・アーネスト号』の速度ならば半月程で帰ってくる事が可能な距離なのだが、これだけ遅れたのは理由がある。――とは言っても、理由は一つ。漁をしていたからなのだが。
「ここがリーザだか・・・・・・」
『真・アーネスト号』の甲板から、近づく街を見つめてタゴサクが呟いた。
時刻は丁度、正午を回った位の時間であり、港には大勢の人間が行き交っている。人口が百人程しかいない島で育ったタゴサクにとって、初めて見る光景だった。
「活気があって、良い街だべ。だども、邪神が復活したら、この街もどうなるかわからねぇ。漁師のおっちゃんの話だど、『剣帝』と『聖女』と呼ばれている人間が、学院に在籍しているはずだべ。それに、神託を受けたランスリードの王女様が、異世界から戦士を召喚するって話だ。おらが勇者で、剣士、僧侶が揃ったんだから、最後の一人は魔法使いの筈。うん! 島にある古文書に書いてあった通りだ! これで勝ったも同然だべ!」
タゴサクの持っている情報は古かった。
そもそもクリスとエルザが学院に在籍していたのは二年以上前で、カズキが召喚されたのはその後の事である。
唯一合っているのは、カズキが魔法使いだという事だけだ。
そして、島にある古文書とは、ドラ〇エっぽいゲームの攻略本の事である。邪神を創り出し、勇者を召喚させた神が、当時ハマっていたゲームの攻略本を、面白半分で初代勇者に持たせたというのが真相だ。
「おうタゴサク。とりあえずリーザに着いたが、この後はどうするんだ?」
タゴサクが決意? を新たにしているところに、アーネストが声を掛けた。
「学院に行くつもりだべ。・・・・・・まずは、仲間を集めねぇとならねえし」
後半は小さい声で呟いた為、アーネストには届かなかった。
タゴサクは世界に混乱が生じないよう、人知れず邪神を倒すつもりなので、親切なアーネストに不安を与えまいと、詳しい事は口にしなかった。
尤も、肝心の邪神は既に倒されている上に、アーネスト自身の実力は、タゴサクや邪神よりも上なのだが。
「学院か。そういえばそろそろ、トーナメントの時期だったな」
普段は関係者以外立ち入り禁止のランスリード魔法学院だが、年二回のトーナメントの時だけ部外者の立ち入りが認められるので、タゴサクもトーナメント目当ての観光客だったのか、と、アーネストは勝手に納得した。
タゴサクが事あるごとに意味深な発言をしていた事に関しては、全てスルーである。彼は、細かい事を気にしない、豪快な性格なのだ。
「アーネスト!」
『真・アーネスト号』が、軍に所属する船の係留スペースへと移動すると、桟橋から声を掛けられた。
アーネストがそちらに視線を向けると、そこにはクリーム色の毛の長い猫を抱いた金髪の女性と、よく似た黒髪の女性、三毛猫を抱いた黒髪の少年の三人が待っていた。
ソフィアとリディア、そして、カズキの三人である。
彼等は『真・アーネスト号』が運んでくる遠洋の魚を目当てに、観光がてらこの街にやってきたのであった。
「おっ! かーちゃんじゃねぇか! もしかして、『真・アーネスト号』の武装の、残り二つの神話級魔法が完成したのか!?」
本来、『真・アーネスト号』には、神話級魔法を放つマジックアイテムを、両舷側に五つずつ、合計十個の武装が搭載される予定だった。
だが、現在確認されている神話級と呼ばれている魔法は八つ。残り二つを既存の神話級魔法にするのは、ジュリアンとソフィアのプライドが許さなかった(アーネストの意見、「八つでいいんじゃね?」は当然のように無視された)。
「それはまだよ。今日は、『真・アーネスト号』が完成してから、初めての帰港でしょう? 不具合が無かったのかの確認と、遠洋で獲れた魚の吟味に来たの」
当然ながら、前者は建前で、後者が本音である。
「不具合なんか何もねぇ! 嵐に遭遇してもビクともしねぇし、スピードも申し分ねぇしな! 『アーネスト号ゼロワン』なら一年は掛かる海域に、無補給で半月で直行出来たんだぜ!? 生け簀も水の入れ替えが必要ねぇし、なによりデカいから、一度に獲れる魚の量も増やせるしな!」
他にも大型の海獣を仕留めたりと、今までは船の強度や大きさに阻まれて出来なかった事を、アーネストはやりたい放題堪能したらしい。
「そう、それは良かったわ。それじゃあ早速だけど、成果を見せてもらうわね」
そう言って『真・アーネスト号』備え付けの、生け簀に移動するソフィア達三人(と二匹)。それと入れ替わるようにして、タゴサクが船を降りて、アーネストに頭を下げた。
「お世話になりますた」
「なに、大した事はしてねえさ。それよりも、これから学院に行くんだろ? 通行証は持ってるのか?」
ランスリード国内の移動は自由だが、流石に通行証を持たない者は王都に入れない。溺死体の真似事をしていたタゴサクを揚げた時、彼は剣一本しか持っていなかったので、心配して聞いてみたのだ。
「通行証? そんな物が必要なんだか? どうすっぺ、おら、そげな物持ってねえだ」
どうやらタゴサクは、通行証の存在すら知らなかったようだ。
「マジか。じゃあこの街の領主の所に行って、通行証を発行して貰わねえとな。つっても、身許の確認にタゴサクの住んでる島まで確認に行くのに時間が掛かりそうだしよう。下手すると、一ヵ月は掛かるかもしれねぇ」
「そんなぁ! おらは一刻も早く学院に行きてえのに・・・・・・」
「だよなぁ。一ヵ月も待ってたら、トーナメントが終わっちまうもんなぁ」
タゴサクの目的がトーナメントだと思い込んでいるアーネストは、他に何か手段は無いかと考え込んだ。
「冒険者になればいいんじゃねーの? 立派な剣を持ってるし、見た所、そこそこ戦えそうじゃん」
二人の会話を聞くとはなしに聞いていたカズキが、助け船を出した。
「そうか! あれは通行証の役割も兼ねてるんだったな! そういう訳だからタゴサク! 今から冒険者ギルドに行ってこい!」
「ぶはっ!」
「タゴサク」に反応したカズキが、盛大に吹き出した。現代日本から召喚されたカズキの感覚には、なかなかに破壊力の強い名前だったらしい。
「冒険者ギルドだか? そこに行って、何をすればいいんだべ?」
「ライセンスの発行だ! ギルドで冒険者になりたいって言えば、後は向こうがどうにかしてくれる!」
アーネストのいい加減な説明に、タゴサクは目を輝かせた。いつ邪神が復活するかわからない今、一ヵ月も待たなくて良いのだから当然の話である。
「じゃあおらは冒険者ギルド? に行ってくるべ! ありがとな、アーネストさん、親切な人!」
言うなりタゴサクは駆けだした。冒険者ギルドの場所も聞かないままに。
「ねえアーネスト」
「なんだい? かーちゃん」
それまで黙ってやり取りを見守っていたソフィアが、アーネストに声を掛けた。
「あの子に通行証が必要だったのなら、あなた発行してあげれば良かったんじゃない?」
「俺が? どうやって?」
予想通りの言葉を吐き出すアーネストに、ソフィアは呆れたように溜息を吐いた。
「全く自覚が無いのね。この街の領主はアーネスト、貴方なのよ?」
「・・・・・・あ」
言われてやっと思い出したアーネスト。それも無理はない。何しろ、彼は一度も領主の館に入った事がないのだから・・・・・・。
『真・アーネスト号』の速度ならば半月程で帰ってくる事が可能な距離なのだが、これだけ遅れたのは理由がある。――とは言っても、理由は一つ。漁をしていたからなのだが。
「ここがリーザだか・・・・・・」
『真・アーネスト号』の甲板から、近づく街を見つめてタゴサクが呟いた。
時刻は丁度、正午を回った位の時間であり、港には大勢の人間が行き交っている。人口が百人程しかいない島で育ったタゴサクにとって、初めて見る光景だった。
「活気があって、良い街だべ。だども、邪神が復活したら、この街もどうなるかわからねぇ。漁師のおっちゃんの話だど、『剣帝』と『聖女』と呼ばれている人間が、学院に在籍しているはずだべ。それに、神託を受けたランスリードの王女様が、異世界から戦士を召喚するって話だ。おらが勇者で、剣士、僧侶が揃ったんだから、最後の一人は魔法使いの筈。うん! 島にある古文書に書いてあった通りだ! これで勝ったも同然だべ!」
タゴサクの持っている情報は古かった。
そもそもクリスとエルザが学院に在籍していたのは二年以上前で、カズキが召喚されたのはその後の事である。
唯一合っているのは、カズキが魔法使いだという事だけだ。
そして、島にある古文書とは、ドラ〇エっぽいゲームの攻略本の事である。邪神を創り出し、勇者を召喚させた神が、当時ハマっていたゲームの攻略本を、面白半分で初代勇者に持たせたというのが真相だ。
「おうタゴサク。とりあえずリーザに着いたが、この後はどうするんだ?」
タゴサクが決意? を新たにしているところに、アーネストが声を掛けた。
「学院に行くつもりだべ。・・・・・・まずは、仲間を集めねぇとならねえし」
後半は小さい声で呟いた為、アーネストには届かなかった。
タゴサクは世界に混乱が生じないよう、人知れず邪神を倒すつもりなので、親切なアーネストに不安を与えまいと、詳しい事は口にしなかった。
尤も、肝心の邪神は既に倒されている上に、アーネスト自身の実力は、タゴサクや邪神よりも上なのだが。
「学院か。そういえばそろそろ、トーナメントの時期だったな」
普段は関係者以外立ち入り禁止のランスリード魔法学院だが、年二回のトーナメントの時だけ部外者の立ち入りが認められるので、タゴサクもトーナメント目当ての観光客だったのか、と、アーネストは勝手に納得した。
タゴサクが事あるごとに意味深な発言をしていた事に関しては、全てスルーである。彼は、細かい事を気にしない、豪快な性格なのだ。
「アーネスト!」
『真・アーネスト号』が、軍に所属する船の係留スペースへと移動すると、桟橋から声を掛けられた。
アーネストがそちらに視線を向けると、そこにはクリーム色の毛の長い猫を抱いた金髪の女性と、よく似た黒髪の女性、三毛猫を抱いた黒髪の少年の三人が待っていた。
ソフィアとリディア、そして、カズキの三人である。
彼等は『真・アーネスト号』が運んでくる遠洋の魚を目当てに、観光がてらこの街にやってきたのであった。
「おっ! かーちゃんじゃねぇか! もしかして、『真・アーネスト号』の武装の、残り二つの神話級魔法が完成したのか!?」
本来、『真・アーネスト号』には、神話級魔法を放つマジックアイテムを、両舷側に五つずつ、合計十個の武装が搭載される予定だった。
だが、現在確認されている神話級と呼ばれている魔法は八つ。残り二つを既存の神話級魔法にするのは、ジュリアンとソフィアのプライドが許さなかった(アーネストの意見、「八つでいいんじゃね?」は当然のように無視された)。
「それはまだよ。今日は、『真・アーネスト号』が完成してから、初めての帰港でしょう? 不具合が無かったのかの確認と、遠洋で獲れた魚の吟味に来たの」
当然ながら、前者は建前で、後者が本音である。
「不具合なんか何もねぇ! 嵐に遭遇してもビクともしねぇし、スピードも申し分ねぇしな! 『アーネスト号ゼロワン』なら一年は掛かる海域に、無補給で半月で直行出来たんだぜ!? 生け簀も水の入れ替えが必要ねぇし、なによりデカいから、一度に獲れる魚の量も増やせるしな!」
他にも大型の海獣を仕留めたりと、今までは船の強度や大きさに阻まれて出来なかった事を、アーネストはやりたい放題堪能したらしい。
「そう、それは良かったわ。それじゃあ早速だけど、成果を見せてもらうわね」
そう言って『真・アーネスト号』備え付けの、生け簀に移動するソフィア達三人(と二匹)。それと入れ替わるようにして、タゴサクが船を降りて、アーネストに頭を下げた。
「お世話になりますた」
「なに、大した事はしてねえさ。それよりも、これから学院に行くんだろ? 通行証は持ってるのか?」
ランスリード国内の移動は自由だが、流石に通行証を持たない者は王都に入れない。溺死体の真似事をしていたタゴサクを揚げた時、彼は剣一本しか持っていなかったので、心配して聞いてみたのだ。
「通行証? そんな物が必要なんだか? どうすっぺ、おら、そげな物持ってねえだ」
どうやらタゴサクは、通行証の存在すら知らなかったようだ。
「マジか。じゃあこの街の領主の所に行って、通行証を発行して貰わねえとな。つっても、身許の確認にタゴサクの住んでる島まで確認に行くのに時間が掛かりそうだしよう。下手すると、一ヵ月は掛かるかもしれねぇ」
「そんなぁ! おらは一刻も早く学院に行きてえのに・・・・・・」
「だよなぁ。一ヵ月も待ってたら、トーナメントが終わっちまうもんなぁ」
タゴサクの目的がトーナメントだと思い込んでいるアーネストは、他に何か手段は無いかと考え込んだ。
「冒険者になればいいんじゃねーの? 立派な剣を持ってるし、見た所、そこそこ戦えそうじゃん」
二人の会話を聞くとはなしに聞いていたカズキが、助け船を出した。
「そうか! あれは通行証の役割も兼ねてるんだったな! そういう訳だからタゴサク! 今から冒険者ギルドに行ってこい!」
「ぶはっ!」
「タゴサク」に反応したカズキが、盛大に吹き出した。現代日本から召喚されたカズキの感覚には、なかなかに破壊力の強い名前だったらしい。
「冒険者ギルドだか? そこに行って、何をすればいいんだべ?」
「ライセンスの発行だ! ギルドで冒険者になりたいって言えば、後は向こうがどうにかしてくれる!」
アーネストのいい加減な説明に、タゴサクは目を輝かせた。いつ邪神が復活するかわからない今、一ヵ月も待たなくて良いのだから当然の話である。
「じゃあおらは冒険者ギルド? に行ってくるべ! ありがとな、アーネストさん、親切な人!」
言うなりタゴサクは駆けだした。冒険者ギルドの場所も聞かないままに。
「ねえアーネスト」
「なんだい? かーちゃん」
それまで黙ってやり取りを見守っていたソフィアが、アーネストに声を掛けた。
「あの子に通行証が必要だったのなら、あなた発行してあげれば良かったんじゃない?」
「俺が? どうやって?」
予想通りの言葉を吐き出すアーネストに、ソフィアは呆れたように溜息を吐いた。
「全く自覚が無いのね。この街の領主はアーネスト、貴方なのよ?」
「・・・・・・あ」
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