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第五十七話 悪魔の切り札
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神話級魔法【レーヴァテイン】。物質化して『魔剣』と化したソレを携えたカズキの姿に、フローネは興奮していた。
「漸くこの目で見る事が出来ました。エルザさんやお兄様から話には聞いてましたが、直接見るのと聞くのとでは、やはり迫力が違いますね」
そんなフローネは対照的に、ラクトとマイネは絶句していた。
というのも、余りにも強引な方法でその剣は創られているからだ。
カズキがした事は、至極単純な事だった。大量の魔力を使って、炎を剣の形に押し留めているだけである。
ジュリアンでも把握できない程の大量の魔力を持つ、カズキならではの力業であった。正に変態の所業である。
ちなみに、何故カズキがこんな事を考えたのかというと、『剣の形をした魔法なんだから、頑張れば武器として使えるんじゃね?』という至極単純な思い付きだった。
「・・・・・・凄い力業。果たしてあれは、本当に物質化しているんだろうか?」
衝撃から覚めたラクトが、至極当然の疑問を口にした。
同様に驚いていた悪魔も、結局は魔法の一種と判断したのか、完全に馬鹿にした表情でカズキに声を掛ける。
「自棄になったのか? 魔法の炎を剣の形にしたところで、私には通用しないという事が分からないと見える」
「そうか。なら、その身をもって確かめてみろ。まさか、避けようなんて考えねぇよな?」
カズキはそう挑発して、悪魔に向かって無造作に近づいた。
そして、そのまま真正面から剣を振るう。
挑発されたにも関わらず、悪魔は反射的に避けようとした。何故なら、猛烈に嫌な予感がしたからだ。
そして、その予感は正解だった。悪魔の左肩から先があっさりと切断され、更には、切り離された部分が燃え尽きてしまったからだ。
「なにっ!?」
驚愕した悪魔は、慌ててカズキから飛び退る。カズキはそれを追って、更に攻撃を加えようと剣を振るった。
だが次の瞬間、カズキは逆に攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「・・・・・・なんだ? 急に動きが速くなったな」
幸い、ダメージはなかった。咄嗟に魔法を使って、障壁を展開したからだ。詠唱の必要のない、古代魔法だからこそ出来る芸当である。
「そんな!? カズキが攻撃を喰らうなんて!」
冷静なカズキとは裏腹に、ラクトが驚きの声を上げる。
それも無理はなかった。ラクトがカズキに出会ってから今まで、どんな強敵と戦っても、まともに攻撃を受けた場面を見た事がなかったのだ。
「・・・・・・もしかして、時間を操ったのか?」
戦闘中にも関わらず、カズキは一瞬考えてしまった。
ナンシーのみならず、猫達の大好物であるワイバーンの肉を、冷凍せずに保存できる可能性が浮上したので、なんとか再現できないかと思ったのだ。
「・・・・・・まあ、研究するのはアイツを倒してからにするか。今まで時間を操る魔法を使わなかった事から考えると、奴の切り札だろう。あの様子からして、そうそう連発出来るわけではなさそうだが・・・・・・」
どうやら消耗が激しいらしい。荒い息を吐いている悪魔の様子から、カズキはそう判断した。
だが、それを理由に油断はしない。カズキが悪魔の立場に置かれたならば、無理をしてでも切り札を切る。何故なら、全てが規格外のカズキに対して、唯一有効な手段だからだ。
そこまで見抜いた上で、カズキは次の手を打つ。このまま悪魔からの攻撃を防いでいれば、勝手に自滅するのは目に見えているが、フローネが期待を込めた瞳で次を促してきたのだ。
「ならこれで行くか」
そう言って、【レーヴァテイン】を手放すカズキ。次の瞬間には、炎の剣は跡形もなく消えていた。どうやらカズキの手を離れると、剣は消滅するらしい。
「【クラウ・ソラス】」
やはりサービスで使う魔法の名を呼ぶカズキ。
カズキの目の前の空間に、眩い光が発生する。次の瞬間には、光を象った剣が顕れていた。
「光の剣? あれに、時間を操る魔法に対抗する手段が・・・・・・?」
カズキの意図が分からずに、思わずそう呟いてしまうマイネ。それはラクトも同様だった。
二人の認識では、【クラウ・ソラス】は剣先から光を発して、敵を倒す古代魔法だったからだ。
「・・・・・・」
対峙する悪魔は、カズキの創り出した光の剣を見て、言葉を発することなく身構え、次の瞬間にはその姿が消えた。カズキの推測通り、時間を操る魔法を使ったのだ。
自分以外の全ての時間の流れを遅くし、一直線にカズキへと迫る悪魔。準備する時間があった為か、先程咄嗟に使った時よりも、周囲で流れる時間は遅くなっている。
先程は攻撃を防がれたが、今度はその隙も与えない。そんな気構えでカズキに対して残った右手を振り下ろす。
「死ね!」
思わずそう叫んでしまったのも無理はないだろう。それだけの仕打ちを悪魔は受けた(と思っている)のだから。
だが、悪魔の希望むなしく、振り下ろした右手は空を切った。
「やなこった」
そんな軽い言葉と共に、カズキがあっさりと躱してしまったからだ。
「なにっ! 貴様! 何故動ける!?」
自分以外が遅くなった時間の中で、何故か平然と動き回るカズキ。悪夢以外の何物でもなかった。
「簡単な事だ。遅くされたなら、それ以上のスピードで動けばいい。そうだろ?」
あっさりとした口調で、悪魔に答えるカズキ。言うは易く行うは難しという言葉は、カズキには通用しないらしかった。
「漸くこの目で見る事が出来ました。エルザさんやお兄様から話には聞いてましたが、直接見るのと聞くのとでは、やはり迫力が違いますね」
そんなフローネは対照的に、ラクトとマイネは絶句していた。
というのも、余りにも強引な方法でその剣は創られているからだ。
カズキがした事は、至極単純な事だった。大量の魔力を使って、炎を剣の形に押し留めているだけである。
ジュリアンでも把握できない程の大量の魔力を持つ、カズキならではの力業であった。正に変態の所業である。
ちなみに、何故カズキがこんな事を考えたのかというと、『剣の形をした魔法なんだから、頑張れば武器として使えるんじゃね?』という至極単純な思い付きだった。
「・・・・・・凄い力業。果たしてあれは、本当に物質化しているんだろうか?」
衝撃から覚めたラクトが、至極当然の疑問を口にした。
同様に驚いていた悪魔も、結局は魔法の一種と判断したのか、完全に馬鹿にした表情でカズキに声を掛ける。
「自棄になったのか? 魔法の炎を剣の形にしたところで、私には通用しないという事が分からないと見える」
「そうか。なら、その身をもって確かめてみろ。まさか、避けようなんて考えねぇよな?」
カズキはそう挑発して、悪魔に向かって無造作に近づいた。
そして、そのまま真正面から剣を振るう。
挑発されたにも関わらず、悪魔は反射的に避けようとした。何故なら、猛烈に嫌な予感がしたからだ。
そして、その予感は正解だった。悪魔の左肩から先があっさりと切断され、更には、切り離された部分が燃え尽きてしまったからだ。
「なにっ!?」
驚愕した悪魔は、慌ててカズキから飛び退る。カズキはそれを追って、更に攻撃を加えようと剣を振るった。
だが次の瞬間、カズキは逆に攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「・・・・・・なんだ? 急に動きが速くなったな」
幸い、ダメージはなかった。咄嗟に魔法を使って、障壁を展開したからだ。詠唱の必要のない、古代魔法だからこそ出来る芸当である。
「そんな!? カズキが攻撃を喰らうなんて!」
冷静なカズキとは裏腹に、ラクトが驚きの声を上げる。
それも無理はなかった。ラクトがカズキに出会ってから今まで、どんな強敵と戦っても、まともに攻撃を受けた場面を見た事がなかったのだ。
「・・・・・・もしかして、時間を操ったのか?」
戦闘中にも関わらず、カズキは一瞬考えてしまった。
ナンシーのみならず、猫達の大好物であるワイバーンの肉を、冷凍せずに保存できる可能性が浮上したので、なんとか再現できないかと思ったのだ。
「・・・・・・まあ、研究するのはアイツを倒してからにするか。今まで時間を操る魔法を使わなかった事から考えると、奴の切り札だろう。あの様子からして、そうそう連発出来るわけではなさそうだが・・・・・・」
どうやら消耗が激しいらしい。荒い息を吐いている悪魔の様子から、カズキはそう判断した。
だが、それを理由に油断はしない。カズキが悪魔の立場に置かれたならば、無理をしてでも切り札を切る。何故なら、全てが規格外のカズキに対して、唯一有効な手段だからだ。
そこまで見抜いた上で、カズキは次の手を打つ。このまま悪魔からの攻撃を防いでいれば、勝手に自滅するのは目に見えているが、フローネが期待を込めた瞳で次を促してきたのだ。
「ならこれで行くか」
そう言って、【レーヴァテイン】を手放すカズキ。次の瞬間には、炎の剣は跡形もなく消えていた。どうやらカズキの手を離れると、剣は消滅するらしい。
「【クラウ・ソラス】」
やはりサービスで使う魔法の名を呼ぶカズキ。
カズキの目の前の空間に、眩い光が発生する。次の瞬間には、光を象った剣が顕れていた。
「光の剣? あれに、時間を操る魔法に対抗する手段が・・・・・・?」
カズキの意図が分からずに、思わずそう呟いてしまうマイネ。それはラクトも同様だった。
二人の認識では、【クラウ・ソラス】は剣先から光を発して、敵を倒す古代魔法だったからだ。
「・・・・・・」
対峙する悪魔は、カズキの創り出した光の剣を見て、言葉を発することなく身構え、次の瞬間にはその姿が消えた。カズキの推測通り、時間を操る魔法を使ったのだ。
自分以外の全ての時間の流れを遅くし、一直線にカズキへと迫る悪魔。準備する時間があった為か、先程咄嗟に使った時よりも、周囲で流れる時間は遅くなっている。
先程は攻撃を防がれたが、今度はその隙も与えない。そんな気構えでカズキに対して残った右手を振り下ろす。
「死ね!」
思わずそう叫んでしまったのも無理はないだろう。それだけの仕打ちを悪魔は受けた(と思っている)のだから。
だが、悪魔の希望むなしく、振り下ろした右手は空を切った。
「やなこった」
そんな軽い言葉と共に、カズキがあっさりと躱してしまったからだ。
「なにっ! 貴様! 何故動ける!?」
自分以外が遅くなった時間の中で、何故か平然と動き回るカズキ。悪夢以外の何物でもなかった。
「簡単な事だ。遅くされたなら、それ以上のスピードで動けばいい。そうだろ?」
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