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第四十話 新しい食材

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 カズキ達が戻るのと、彼のパーティメンバーが戻ってくるのは同じタイミングだった。
 朝も早い時間。街道を進むラクト達を見つけたカズキが、彼らの進行方向に降り立つ。
 突然空から現れた馬を見てラクト達三人は警戒したが、跨がっていたのは彼らの知った顔だった。

「何だカズキか。一瞬グリフォンかと思って警戒しちゃったよ」

 ラクトが言うと、カズキは頭を掻いて気まずそうな顔をした。

「悪い。空からみんなが見えたからさ。どうせなら一緒に戻ろうと思っただけで、驚かせるつもりはなかったんだ」
「別に良いけどね。これで僕たちの仮説が証明されたわけだし」
「?・・・どういう事だ?」

 首を傾げるカズキに説明したのはマイネだった。

「カズキさんは魔法で空を移動するんじゃないかと話をしていたのです」
「そういう事か」

 納得したカズキは、彼らが牽いていた荷車を見た。
 荷台には人目に付かないようにか、大きな布で覆ったナニカがある。
 近付くと、冷気を発していた。

「それは?」
「ヒッポグリフです。グリフォン退治の途中で行商人を襲っていました。ラクトさんが食べられるというので、お土産に」

 額に汗を浮かべているが、目だけは輝いているフローネが言った。

「そっか。・・・それは大変興味深いんだが、なんで人力で運んでいるんだ? 馬を買う金が無いわけでもないだろうに」

 一人で荷車(リヤカー)を牽いていたフローネを見ながら、誰にともなく質問する。

「修行の一環かな。グリフォンを探して山に登ったんだけど、帰ってきたら疲労困憊でね。これじゃあ先が思いやられるからって事で、手始めに」
「荷車を牽く事にした、と?」
「そういう事。交代で牽いてるんだけど、これが中々いい運動になるんだ」
「荷車を牽く王女か・・・。騒ぎになりそうだな」
「そうでもないですよ? 荷車を牽いている人は結構いますから。馬を使う必要のない近距離なら、皆さん自分で牽いていらっしゃいますし」

 フローネはそう主張するが、残り二人は明後日の方を向いていた。
 カズキの想像通り、騒ぎになったらしい。気付いていないのは、本人だけのようだった。

「それはそうと、エルザさんはどうしたの? 次元ハウスの中?」

 先程から気になっていたのか、ラクトがそう尋ねる。

「ああ。今は朝食の支度をしてもらっている」

 そう言った途端、エルザの首だけが虚空に現れた。知らない人が見れば、軽くホラーである。
 空を駆けているので、いきなり全身を現わすと、地表に向かってロープなしバンジーを敢行する羽目になってしまうのだ。

「カズキ、準備できたわよ。・・・あら?」

 ラクト達の姿を認めたエルザが、次元ハウスから出てきた。

「久しぶりね。依頼はどうだったの?」
「なんとか達成しました」

 フローネが答えると、エルザは満足そうに頷いた。

「そう、頑張ったのね。・・・それは?」

 リヤカーを牽いているフローネに突っ込みを入れる事も無く、その後ろにある荷物に興味を示すエルザ。
 カズキに説明したことをもう一度繰り返すと、エルザも興味を持ったようだった。

「ヒッポグリフも食べた事ないわね。興味はあるけど、それは後にしましょうか。実は、カズキも珍しい食材を調達したのよ。朝食がまだなら、一緒に食べましょう?」

 そう言って、エルザは三人を促した。

「「「御馳走さまですっ!」」」

 まだ朝食を食べていなかった三人は、ヒッポグリフを放置して次元ハウスに突撃した。
 カズキの調達した食材への期待に胸を高鳴らせて。 

「・・・・・・」

 一人取り残されたカズキは、ヒッポグリフの乗った荷車を回収してから、皆の後を追った。



 ヒッポグリフをワイバーンの隣に置いてから、カズキは本来の入り口がある部屋に向かった。
 そこにはラクト達三人とエルザのみで、カリムとリディアの姿はなかった。

「二人は?」
「さっき起こしたから、もうすぐ来るはずよ」
「そっか」
「二人? 他に誰かいるの?」

 カズキとエルザの会話を聞いていたラクトが、疑問を覚えたのかそう聞いてくる。

「母と弟だ。弟はソフィア様に魔法を教わる事になっている」
「伯母様とカリム君ですか? 会うのは久しぶりですね」

 半月ぶりに会ったクレアを撫でながら、フローネが言った。
 本来の主人であるフローネに抱かれて、クレアも幸せそうな顔をしている。

「そうなのか?」
「はい。五年前に母と一緒にアルテミス領へ言った時が最後です。カリム君には魔法の才能があったんですね」
「ああ。ねーさんが言うには、天才だそうだ。この前一緒にゴブリン退治に行った時、トルネードを使ったという話をしたら、偉く驚いていた」
「「・・・魔力は?」」

 反応したのは、ラクトとマイネである。

「二人の半分位。とはいっても独学だ。取り返しのつかない事になる前に、ちゃんとした師匠をつける必要があるって話になって、ソフィア様が引き受けてくれる事になった。どうも、制御に難があるみたいでな」

 カズキの説明を、二人は殆ど聞いていなかった。

「独学で【トルネード】・・・。物凄いライバルが現れましたね」 
「はい。現時点で魔力は私たちの半分。これからもっと伸びるでしょう。しかも、天才と謳われるジュリアン様の師匠である、ソフィア様に師事するとなると・・・」

 深刻な表情で相談する二人。
 基準がいつの間にか周りにいる変態たちになってしまっているせいで、自分達も充分に天才と呼ばれる資格がある事に気付いていなかった。

「流石はエルザさんの弟といった所ですか。ソフィア様もそうですが、アルテミス家には才能のある人間が生まれやすいのかもしれませんね」

 マイネがそう言った所で、噂のカリムとその母親、ナンシーが現れた。

「おはよう、にーちゃん!」
「おはよう、カズキ。あら?」

 いつもの調子で挨拶した二人は、人数が増えているテーブルを見て、不思議そうな顔をした。

「二人とも、おはよう。丁度いいから紹介するよ。俺のパーティメンバーのラクトとマイネだ。フローネもメンバーだけど、そこは知り合いだから良いよな?」
「ええ。・・・初めまして。エルザとカズキがいつもお世話になっております」

 そう言って頭を下げるリディア。カズキとは会ったばかりなのに、すっかり母親っぽくなっていた。

「俺、カリム! にーちゃんの弟だ!」

 そう名乗れることが嬉しいのか、カリムは元気一杯だった。

「初めまして。センスティア公爵家のマイネと申します。お世話になっているのは、一方的にこちらですが」
「ラクト・フェリンです。次元屋の跡取りやってます。二人にはいつもお世話になりっ放しですが」

 二人もそう言って頭を下げた。

「公爵様と次元屋さん、それとフローネ。随分豪華なメンバーなのね?」

 王族と上級貴族、貴族ではないが、世界中に支店を持つ大店の跡取りであるラクト。
 戦闘力がなければ、営利誘拐の対象になりそうな面子だった。

「そういえばそうだね。一般人は俺だけだ」
「『大賢者』が一般人な訳がないでしょ。世界中の国王が気を遣う、VIP中のVIPの癖に」 

 惚けた事を言うカズキに、ラクトの突っ込みが入った。
 その言葉に反応したのはカリムである。

「そうなのか!? やっぱにーちゃんは凄えなー」
「ミャ!」

 何故かカリムと一緒にいたナンシーが、誇らしげな雰囲気を醸し出しながら鳴いた。
 それを不思議そうに見る、カズキのパーティーメンバー達。

「カズキさんにべったりのナンシーが珍しいですね。何かあったのでしょうか?」

 マイネが小声で呟くと、朝食の準備を終えたエルザが、やはり小声で教えてくれた。・・・何故か笑いを堪えながら。

「カズキのパートナーであるナンシーから見れば、カズキの弟=自分の弟って事みたいね。後は、ゴブリン退治の時に、魔力切れのカリムをカズキから任されたらしいから余計にそう思ったみたい」

 そう言われて見てみると、ナンシーはカリムに甘えている様には見えなかった。
 どちらかというと、カリムの様子に気を配っている様に見える。
 気付いていないのは、当人であるカリムだけだった。

「話も良いけど、朝食にしないか? 温かい方が美味いだろうし」
「そういえば、カズキが食材を調達したんだっけ?」
「ああ。空を移動してたら襲ってきたんだ。馬を狙ったらしい」
「楽しみですね。カズキさんと会ってから、珍しくて美味しい物を沢山食べてますから」
「はい。今回は何を?」

 三人の期待に満ちた視線に応えて、カズキは口を開いた。

「ロック鳥だ」
「「「ロック鳥!」」」

 ロック鳥は、全長十mを優に超える、大型の鳥で、討伐するにはAランク以上の冒険者が必要とされる。
 ラクト達が倒したグリフォンなどは、ロック鳥からすれば、ただの餌でしかない。

「ワイバーン並の強敵じゃないか!・・・アレ?」
「・・・一人でワイバーンを倒せるカズキさんには、今更な話でしたね」
「はい。問題はそこではありません。美味しいかどうかです」

 フローネはブレなかった。彼女の驚きは、ロック鳥を食べられるという、期待からだったのだ。

「私も初めて食べるけど、鳥だから唐揚げにしてみたわ。一杯あるから、遠慮しなくていいわよ」
「「「「頂きます!」」」」

 エルザが大皿をテーブルの中央に置くと、一斉に箸が伸びる。

「美味い!」
「美味しいです!」
「これは美味ですね」
「ねーちゃん!これスゲー美味いよ!」

 その様子を見ていたカズキも、唐揚げを口に入れた。

「うん。なんて言えばいいのか分からないけど、普通の鶏肉より断然美味いな。これなら、ナンシーとクレアも気に入ってくれる」

 そう言って、カズキを見上げている二匹の為に、衣を取り除き始めた。

「カズキはブレないわね。食事に目の色を変える事もないし」

 物凄い勢いで唐揚げを口に放り込んでいる四人を見ながら、リディアも唐揚げを口にした。

「美味しいわ。ワイバーンとはまた違った美味しさね」 
「そうなの? 食べられるかどうか分からなかったけど、一安心だわ」

 その言葉に、リディアの箸が止まった。

「・・・今、恐ろしい事を言わなかった?」
「しょうがないじゃない。誰もロック鳥を食べた事がないんだから。まあ、ナンシーとクレアが興味を持ったみたいだから、大丈夫だとは思ってたけど」
「あなたねえ・・・」

 王族や上級貴族に毒見役を任せるエルザの所業に、リディアは戦慄を覚えた。

「大丈夫よ。体調が悪くなったら、魔法で治すから」

 そう言って、漸くエルザは唐揚げを口にした。
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