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人間になったぼくの言葉で。

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ぼくは走った。
なぜか涙が溢れている。ぼくは涙を拭かず、そのまま走り続けた。パパのために、ママのために。。。


「はっ?そんなこと知るわけねーだろ。何言ってんだオメーは」
勇気を出して近所の野良猫のボスにも話を聞いた。でも、猫が人間に生まれ変わる方法は分からなかった。


「ただ、オレはわかんねーけど、それよりもさ…」
一度は突き放した態度を見せたボスだったが、ぼくの真剣な気持ちと泣きじゃくってぐしゃぐしゃになった顔に同情したのか、少しだけ話をしてくれた。


「家族がいるんだったらさー、みんなに看取られながら天国に行く方が幸せなんじゃねーのか?オレは猫だけど、死ぬ前に家族の元へちゃんと帰ってやるのが思いやりってもんだと思うんだけどなー。なんでも、当たり前のことを当たり前にやってくれることが、一番ありがたいだろ」


たしかにボスの言う通りだ。
今までお世話になったのに、
死ぬ時だけ居なくなってしまうなんて、普通に考えたら恩を仇で返しているようにも思える。
親不孝、いや、家族不幸でしかない。


わかる、分かるんだけど、
本当にそれでいいんだろうか?
猫のママが言っていたことを守らなくてもいいんだろうか?


家族に見守られながら死んでいくのは正しいお別れをしただけで、そこに感謝はない。あるかもしれないけど相手に伝わっているのかどうか分からない。はっきりとした実感がない。

ぼくはそう思った。
感謝を伝えられるなら、
言葉で伝えたい。
言葉で伝えられるなら、
それを実現したい。

ぼくの言葉で。
人間になったぼくの言葉で。



数時間歩き回った疲労からか、ぼくはいつのまにか眠りに落ちていた。ここがどこかもよく分からないほど疲れていた。


辺りはすでに真っ暗で人の声もほとんど聞こえない。たまに通る車の音が心地よい雑音になり、睡魔の後押しをする。


ふわふわと現実と夢のはざまを浮遊しているような感覚。二度寝に突入する瞬間のようにも思えた。


その時だった。

ゴーっという地響きのような音が聞こえてきた。
それは聞き慣れた大きなトラックの音。でも、そのときのぼくには悪魔が雄叫びをあげて襲って来ているような、ひずみのある叫びに聞こえた。


ぼくはパッと目を覚まして身構えると、何かに導かれるように道路の方へ駆け出していった。
道端から音の方に目をやると、
暗闇に2つの光が見えた。
それは火の玉のようにクネクネと左右に揺れながら凄い勢いで飛んでくるようだった。


はっ!

その瞬間、黒い影が横切る。

え?子ども?


「マコトー!ダメー!」
同時に女性の声が耳をつんざく。


わずか数秒の間に衝撃的な事実がめくるめく展開していく。
それでもなぜかぼくは冷静だった。

轟音を立てて迫ってくる火の玉をつけたようなトラック、そこに立ち向かっていくかのような子供の姿。
それらをはっきりと目でとらえたぼくは、なけなしの力を振り絞り、精一杯走って子どもに体当たりをした。


それから、なにもおぼえていない。

まぶしいライトの光に吸い込まれるように、意識が薄れていった。

意識が薄れる中、
かすかに声が聞こえてくる。
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