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それは「ありがとう」の意味
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いくら猫ブームでも
黒猫を嫌う人はいまだに多い。
そんなぼくに振り向いてくれる人なんてひとりもいなかった。
パパとママに出会うまでは。
初めて会ったとき、2人はなぜかぼくを見て微笑んでくれて、すぐに抱っこしてくれた。
子猫とはいえ、とても小さく、手のひらに乗るぐらいの大きさだったぼくを、
ママはやさしく包み込んでくれた。
「大丈夫?もっと柔らかく持ってあげないと折れちゃいそうだよ」
パパもぼくのことを想って、やさしい言葉をかけてくれた。
「ずっと黒猫を飼いたいと思ってたんです」
「僕も妻も黒猫との暮らしに憧れていたんですよ」
こんなに快く迎えてくれる人がいたんだ。ぼくを見て、喜んでくれる人がいたんだ。生きてて、よかったんだ。
心の底から、そう思った。
今まで辛いことしかなかったから。
その頃のぼくは、心を閉ざしていたこともあって、食欲もなく、なかなか大きくなれなかったんだけど、パパとママと暮らし始めてから変わっていった。
パパとママがぼくにくれた名前は
キートス。フィンランド語で「ありがとう」の意味。
「なんとなく語感がいいでしょ?」
というママの独断で決まった。
パパは笑っていた。
最初はそんな2人の前で遠慮がちだったぼくだけど2人のやさしさに甘えて、
いかにも猫らしい自由気ままな振る舞いをするようになっていった。
ママが言うには「とにかくやんちゃ」だったらしい。
元気すぎるほど元気に成長し、
時にはテレビの上に乗って倒してしまったり、カーテンを引きちぎったり、家の端から端まで走り回ってめちゃくちゃにしてしまったり。パパとママにはたくさん迷惑をかけたことも。
それだけじゃない。
甘えん坊で泣き虫だったから、パパとママのどちらかが外出するだけで、家中を鳴きながら歩き回った。寝るときは、パパとママのどちらかの体に触れていないと寝られない、そんな子供だった。
でも、ぼく的にはとにかく毎日が嬉しくて楽しくて2人のそばにいるだけでハッピーだった。
数年前、こんなこともあった。
なんとなく、外の空気を味わいたくなり、ベランダから思い切りジャンプして、外に出てしまった。
ぼくはただお散歩したかっただけなのに、知らない外の世界を歩いているうちに帰り道がわからなくなってしまった。
そのまま一週間、
雨でびしょびしょになったり、ご飯もあまり食べられない日が続き、このまま一生お家に帰れないのかな?とも思った。
そんなぼくを心配して、パパとママはぼくの好きなおやつを片手に、家の近所や公園などをまわりながら、何度も名前を呼びかけた。ぼくの写真が入った手作りチラシを配り、インターネットにも掲載して必死に探してくれた。
3日たっても見つからなかったため、近所に住んでいるパパのお父さんやお母さんまで一緒になって探してくれた。
そして一週間後。
ぼくはなんとか家の玄関までたどり着き、パパが帰ってくるのを待っていた。何日も食べてなかったからお腹はペコペコ。ニャーと鳴く声もいつもより遠くへ届かない。
夕方からほとんど動かず、というより疲れて動けないまま香箱座りの体勢でドアの前にいた。
そして、
夜11時ぐらいになった頃だった。
「キートス!」
深夜なのにパパが大きな声で叫んだ。
寝ていたぼくはビックリして飛び起き、とっさに「シャー!」と言ってしまった
。パパの声には家にいたママも驚き、ドタドタという足音とともに玄関まで飛んできた。
「いたー!キートス!おかえり!」
ママはパパよりも大きな声で叫んだ。
近所の人も何事かと思ったのか、ママの叫び声で数軒の家の電気が点いた。
これだけ心配をかけたから、パパとママにはたくさん怒られるかなと思っていたけど、2人は涙を流しながらぼくを抱きしめてくれた。
なんで怒らないんだろう?
こんなに悪いことばかりしてるのに。
みんなが心配することばかりしてるのに。
なんとなく懐かしい香りのする家に入って、そんなふうに思っていると、
ママがパパの方に向かって言った。
黒猫を嫌う人はいまだに多い。
そんなぼくに振り向いてくれる人なんてひとりもいなかった。
パパとママに出会うまでは。
初めて会ったとき、2人はなぜかぼくを見て微笑んでくれて、すぐに抱っこしてくれた。
子猫とはいえ、とても小さく、手のひらに乗るぐらいの大きさだったぼくを、
ママはやさしく包み込んでくれた。
「大丈夫?もっと柔らかく持ってあげないと折れちゃいそうだよ」
パパもぼくのことを想って、やさしい言葉をかけてくれた。
「ずっと黒猫を飼いたいと思ってたんです」
「僕も妻も黒猫との暮らしに憧れていたんですよ」
こんなに快く迎えてくれる人がいたんだ。ぼくを見て、喜んでくれる人がいたんだ。生きてて、よかったんだ。
心の底から、そう思った。
今まで辛いことしかなかったから。
その頃のぼくは、心を閉ざしていたこともあって、食欲もなく、なかなか大きくなれなかったんだけど、パパとママと暮らし始めてから変わっていった。
パパとママがぼくにくれた名前は
キートス。フィンランド語で「ありがとう」の意味。
「なんとなく語感がいいでしょ?」
というママの独断で決まった。
パパは笑っていた。
最初はそんな2人の前で遠慮がちだったぼくだけど2人のやさしさに甘えて、
いかにも猫らしい自由気ままな振る舞いをするようになっていった。
ママが言うには「とにかくやんちゃ」だったらしい。
元気すぎるほど元気に成長し、
時にはテレビの上に乗って倒してしまったり、カーテンを引きちぎったり、家の端から端まで走り回ってめちゃくちゃにしてしまったり。パパとママにはたくさん迷惑をかけたことも。
それだけじゃない。
甘えん坊で泣き虫だったから、パパとママのどちらかが外出するだけで、家中を鳴きながら歩き回った。寝るときは、パパとママのどちらかの体に触れていないと寝られない、そんな子供だった。
でも、ぼく的にはとにかく毎日が嬉しくて楽しくて2人のそばにいるだけでハッピーだった。
数年前、こんなこともあった。
なんとなく、外の空気を味わいたくなり、ベランダから思い切りジャンプして、外に出てしまった。
ぼくはただお散歩したかっただけなのに、知らない外の世界を歩いているうちに帰り道がわからなくなってしまった。
そのまま一週間、
雨でびしょびしょになったり、ご飯もあまり食べられない日が続き、このまま一生お家に帰れないのかな?とも思った。
そんなぼくを心配して、パパとママはぼくの好きなおやつを片手に、家の近所や公園などをまわりながら、何度も名前を呼びかけた。ぼくの写真が入った手作りチラシを配り、インターネットにも掲載して必死に探してくれた。
3日たっても見つからなかったため、近所に住んでいるパパのお父さんやお母さんまで一緒になって探してくれた。
そして一週間後。
ぼくはなんとか家の玄関までたどり着き、パパが帰ってくるのを待っていた。何日も食べてなかったからお腹はペコペコ。ニャーと鳴く声もいつもより遠くへ届かない。
夕方からほとんど動かず、というより疲れて動けないまま香箱座りの体勢でドアの前にいた。
そして、
夜11時ぐらいになった頃だった。
「キートス!」
深夜なのにパパが大きな声で叫んだ。
寝ていたぼくはビックリして飛び起き、とっさに「シャー!」と言ってしまった
。パパの声には家にいたママも驚き、ドタドタという足音とともに玄関まで飛んできた。
「いたー!キートス!おかえり!」
ママはパパよりも大きな声で叫んだ。
近所の人も何事かと思ったのか、ママの叫び声で数軒の家の電気が点いた。
これだけ心配をかけたから、パパとママにはたくさん怒られるかなと思っていたけど、2人は涙を流しながらぼくを抱きしめてくれた。
なんで怒らないんだろう?
こんなに悪いことばかりしてるのに。
みんなが心配することばかりしてるのに。
なんとなく懐かしい香りのする家に入って、そんなふうに思っていると、
ママがパパの方に向かって言った。
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