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ぼくはもうすぐ天国へ行く
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猫は自分があと少しで死んでしまうことに気付くと飼い主のもとから去って行くという。
猫好きでなくとも一度は聞いたことがあるかもしれない。
それはナゼなんだろう?
死んでカッコ悪い姿を家族に見せたくないから?
最期まで人間に迷惑をかけたくないから?
お医者さんの注射がイヤになったから?
いや、違う。
それは…
ぼくは必死に走っていた。
真っ白くて長い毛が風に流れている。
が、実際はそれほどスピードは出ていない。
なぜならぼくはぽっちゃり猫だ。
たるんだお腹を上下に揺らし、短い足を一生けんめいに交差させてはいるが、思ってる以上に遅い。
「ボヨヨン ボヨヨン」という音が自分の耳にも聞こえてきそうなほどだった。
数メートル走っただけで、すぐに息があがり、
犬のようにハァハァと激しい呼吸におそわれた。
早く走りたい気持ちと、なかなか前に進めないリアルがどんどんズレていく。
けれど、ぼくは必死に走った。
やらなければならないことがあるから。
ありがとうを言いたい人がいるから。
「ぼくはもうすぐ天国へ行く」
ぼくは先月、10歳になった。
人間の年にたとえると60歳に近い。
もはや、おじいちゃん世代だ。
この年になると、猫ならではのアクロバットな動きもだんだんできなくなってきた。
若者のような、はじける元気もほとんどない。
ぼくは分かっていた。自分の体の変化に。
もともと少食だったのにそれに輪をかけるように食欲がなくなり、しかもやたらとノドが乾く。
体重は減り、動きたくない日々が続いていた。
それでも、一緒に暮らしている人間のパパとママの前ではつらそうな姿を見せないように心がけた。なんとなく自分の命があと少しで終わるということを分かっていたのに。
なのに、
やさしいパパとママはすぐに気づいてくれた。
ぼくの体の変化に。
基本的にぼくは背中やお腹まわりを触られるのがキライだった。何よりパパとママの抱き方が下手だったから。
それでも2人は嫌がるぼくを追いかけまわし、毎日のように抱っこして、スキンシップをしていた。
大嫌いだったスキンシップ。
でもそれこそが2人のやさしさだった。
病気に気付いた理由だった。
ぼくに毎日触れることで昨日との変化はないか?体に変なデキモノはできていないか?をパパとママはさりげなくチェックしてくれていた。
だからこそパパとママは元気な頃との違いにいち早く気づき、早い段階でぼくを動物病院へ連れて行ってくれた。
病院ではいくつもの検査をし、体のすみずみまで調べられた。それもすごく大変だった。知らない人がいっぱいいるし。ちょっと痛いし。
その数日後。
パパとママは再びぼくを連れて、病院へ行った。
「残念ですが、病気は治ることはありません。治療といってもこれ以上悪くならないように注射したり、薬を飲ませたりするしかないんです」
「絶対に、絶対に治らないんですか?」
「そうですね、、、残念ながら…」
お医者さんは小さな声でそう言った。
パパとママは涙をこらえきれず、
思い切り泣いていた。
こんなぼくのために泣いてくれる人なんて今までいなかった。ここまで自分のことを思ってくれる人なんて今までいなかった。2人に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで、ぼくの心はぐちゃぐちゃになっていた。
まだ若い、20代後半のパパとママに家族に迎えられたのは、ぼくが生まれて一年のころだった。
きっかけは近所のペット用品店の張り紙。捨て猫の里親募集だった。
もともとぼくは冷たい風が吹きあれる冬の道ばたで
震えていたところを、優しい人に救われた。その人はもちろん、これまでたくさんの人に支えられてぼくは生きてきた。
なかなか、ぼくを家族に迎えてくれる人はいなかった。
理由は分かっている。
ぼくが黒猫だから。
見た目が可愛くないから。
それは分かっていた。
猫好きでなくとも一度は聞いたことがあるかもしれない。
それはナゼなんだろう?
死んでカッコ悪い姿を家族に見せたくないから?
最期まで人間に迷惑をかけたくないから?
お医者さんの注射がイヤになったから?
いや、違う。
それは…
ぼくは必死に走っていた。
真っ白くて長い毛が風に流れている。
が、実際はそれほどスピードは出ていない。
なぜならぼくはぽっちゃり猫だ。
たるんだお腹を上下に揺らし、短い足を一生けんめいに交差させてはいるが、思ってる以上に遅い。
「ボヨヨン ボヨヨン」という音が自分の耳にも聞こえてきそうなほどだった。
数メートル走っただけで、すぐに息があがり、
犬のようにハァハァと激しい呼吸におそわれた。
早く走りたい気持ちと、なかなか前に進めないリアルがどんどんズレていく。
けれど、ぼくは必死に走った。
やらなければならないことがあるから。
ありがとうを言いたい人がいるから。
「ぼくはもうすぐ天国へ行く」
ぼくは先月、10歳になった。
人間の年にたとえると60歳に近い。
もはや、おじいちゃん世代だ。
この年になると、猫ならではのアクロバットな動きもだんだんできなくなってきた。
若者のような、はじける元気もほとんどない。
ぼくは分かっていた。自分の体の変化に。
もともと少食だったのにそれに輪をかけるように食欲がなくなり、しかもやたらとノドが乾く。
体重は減り、動きたくない日々が続いていた。
それでも、一緒に暮らしている人間のパパとママの前ではつらそうな姿を見せないように心がけた。なんとなく自分の命があと少しで終わるということを分かっていたのに。
なのに、
やさしいパパとママはすぐに気づいてくれた。
ぼくの体の変化に。
基本的にぼくは背中やお腹まわりを触られるのがキライだった。何よりパパとママの抱き方が下手だったから。
それでも2人は嫌がるぼくを追いかけまわし、毎日のように抱っこして、スキンシップをしていた。
大嫌いだったスキンシップ。
でもそれこそが2人のやさしさだった。
病気に気付いた理由だった。
ぼくに毎日触れることで昨日との変化はないか?体に変なデキモノはできていないか?をパパとママはさりげなくチェックしてくれていた。
だからこそパパとママは元気な頃との違いにいち早く気づき、早い段階でぼくを動物病院へ連れて行ってくれた。
病院ではいくつもの検査をし、体のすみずみまで調べられた。それもすごく大変だった。知らない人がいっぱいいるし。ちょっと痛いし。
その数日後。
パパとママは再びぼくを連れて、病院へ行った。
「残念ですが、病気は治ることはありません。治療といってもこれ以上悪くならないように注射したり、薬を飲ませたりするしかないんです」
「絶対に、絶対に治らないんですか?」
「そうですね、、、残念ながら…」
お医者さんは小さな声でそう言った。
パパとママは涙をこらえきれず、
思い切り泣いていた。
こんなぼくのために泣いてくれる人なんて今までいなかった。ここまで自分のことを思ってくれる人なんて今までいなかった。2人に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで、ぼくの心はぐちゃぐちゃになっていた。
まだ若い、20代後半のパパとママに家族に迎えられたのは、ぼくが生まれて一年のころだった。
きっかけは近所のペット用品店の張り紙。捨て猫の里親募集だった。
もともとぼくは冷たい風が吹きあれる冬の道ばたで
震えていたところを、優しい人に救われた。その人はもちろん、これまでたくさんの人に支えられてぼくは生きてきた。
なかなか、ぼくを家族に迎えてくれる人はいなかった。
理由は分かっている。
ぼくが黒猫だから。
見た目が可愛くないから。
それは分かっていた。
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