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第四話<死神>
しおりを挟む「……知ってる? アタシのあだ名」
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「防人少女MDGF」
第四話<死神>
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鎮守府に帰還した部隊に駆け寄るGFたち。その中に栗毛の少女が居た。
彼女は直ぐに比婆に問い掛ける。
「ねぇ、夕虹が撃沈したって本当?」
彼女の言葉に北浦を始め周りのGFたちの表情がこわ張る。その少女は『日暮(ひぐらし)』。夕虹と同じD級のGFだ。いわゆる姉妹型と呼ばれ夕虹と同じ頃に設計、製造されたとされる。
正式名称は『ひぐれ』なのだが、ここでは慣例的に『ひぐらし』で通っていた。
駆け寄った他のD級GFにランチャーを手渡しながら比婆は言う。
「ゴメンなさい……あの子、私の身代わりになって」
「そう……」
視線を落とした日暮。
だが彼女は直ぐに顔を上げて言った。
「あの子らしいわ。良いよ、別に比婆さんの責任じゃないから」
まだ新人の比婆を気遣うように日暮は続けて言った。
「比婆さん、お疲れ様。装備を外して……点検するから」
「あ、はい」
そこに大殿がやってきた。彼女はざっと見回して言う。
「比婆さん落ち着いた? 一時間後に作戦指令室まで上がって来れるかしら?」
「はい」
少し緊張したような表情の比婆。敬礼をしながら『この司令部の大殿は苦手だ』と思っていた。だが日暮が言ったように自分が咎められることは何も無いはずだ。
大殿は格納庫を振り返るとパンパンと手を叩きながら全体に呼びかける。
「ほらっ、敵はいつでもやってくるのよ! 緊張感を持って」
『はい』
彼女の掛け声に反応するGFたち。大殿はそれ以上は何も言わずに戻って行った。
「気にしなくて良いよ」
北浦が比婆に近づいて声をかける。
「ええ……」
「さぁて、お風呂入ってからご飯食べよっと」
北浦はそんなことを呟きながら点検簿にサインをすると、そのまま廊下へ出て行った。
(彼女にも緩やかに支えられる)
比婆は思うのだった。
「比婆さんも、これを……」
整備担当の別のGFがバインダーの書類を持ってきた。
「あ、ごめんなさい」
差し出された点検簿にサインをする比婆。
出撃から戻るたびに彼女は自分で
『何で私はGFなんかやっているのだろうか?』と思うことがある。
もちろんそれはGFにあるまじき考えだろう。当然、誰にも打ち明けてはいない。
だが実は今日、戻ってから夕虹に自分の気持ちを打ち明けよう……そう考えていたのだ。彼女なら話しやすいし、あの子は意外と口も堅そうだから。
そう思った矢先の今回の撃沈である。彼女にはショックだった。
「はぁ」
廊下に出た比婆は大きなため息をつく。
「どーしたの? 大っきなため息ぃ」
見るとD級の疾風(はやて)が声を掛けてきていた。
「ううん……何でもない」
「ふーん」
ビーコンを抱きかかえながら首を傾げる疾風。
彼女は名前の如く部隊随一の俊足を誇る子だ。
だから自分専用の脚の速いビーコンを特別に持っている。それを地上でも、いつも連れていた。
夕虹は茶髪だったが彼女は白髪、というより銀髪だ。
だからD級ながらちょっと年上に見える。実際、どことなくマセた雰囲気の子だ。
ただ彼女自身が実験的な型式のため姉妹型のGFが居らず、いつも少し皆から浮いているような印象も受けるのだった。
彼女は言った。
「司令部に呼び出されたんでしょ?」
「……」
「あはぁ、ビンゴだ」
思わず苦笑する比婆。
「あなたには隠せないわね……そう、あとで行かなきゃならないの」
「ふーん……大変だねB級は。マザー役になることが多いからさ」
疾風も率直な子だ。その感覚は夕虹に似ている気がした。
率直な感想を聞いた比婆は、思わず自分の気持ちを吐露しかけた。
だが……さすがに廊下で自分の気持ちを言うのは変かな? そう思って、その場では何も言わなかった。
疾風は続ける。
「殿ってさぁ、ちょっと苦手だよね」
「トノ? ……ああ、大殿さんね」
「うん、私たちは皆、陰で、いろんなあだ名を付けてるんだよ……トノとかデン公とか」
「まぁ……」
屈託の無い疾風のお喋りに比婆は癒される思いだった。
比婆は返した。
「疾風さん、ご飯まだ?」
「うん、まだだよ」
「一緒に食べて下さる?」
「イイよ」
そうか、心を開ける子はもう一人いたな……そんなことを思いながら食堂へ向かう比婆たちだった。
疾風との食事の間は20分くらいだったが、その間ずっと彼女が喋り続けていた。意外にお喋りなんだ……比婆は思った。
「ゴメン、そろそろ行かなきゃ」
時計を見た比婆は命令を思い出した。
「あ、そうだね……」
立ち上がった比婆に疾風は言う。
「別にさ、何を聞かれても焦らなくっても良いからね」
「そ、そう?」
意外なアドバイスにちょっと驚く比婆。
「うん……アタシもさ、D級だけど脚が速いじゃん? だからD級だけで基隊を組むときはさ、よくマザーになるんだ。だから報告も何度もしたよ」
「そうなんだ」
比婆は頷いた。
「だから……脚が速いってのは逃げ足も速いってこと……まぁ回避能力もあるからアタシだけ生き残ることが多くて」
そこまで言って、フッと表情が暗くなる疾風。
「知ってる? アタシのあだ名」
「え?」
いきなりの疾風の心情の吐露に比婆は頭が回らなかった。
一瞬、何かを躊躇(ためら)った疾風は声を低めて言う。
「アタシ、死神とか疫病神って言われてるんだ」
「……」
言葉を失う比婆。
……確かに疾風の髪の毛は白というより銀髪だ。死神って、そんな感じかも知れない。
何となく他のGFたちが疾風に抱くイメージを感じることが出来た。
ビーコンを抱えながら彼女は続ける。
「だからさ、強いとか脚が速くて下手に生き残るとさ、またココに戻ってからも苦しいってことがあるんだよ」
「……」
そこまで言った疾風は壁の時計を見た。
「ほら、時間だよ」
「あ、そうね……」
比婆は慌てて食器を持ち上げると、返却口へと向かった。
「悩んでいるのは私だけじゃないんだ……」
歩きながら思わず呟く彼女だった。
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