ジェヘナ

文字の大きさ
上 下
7 / 20
第二部

あまいもの

しおりを挟む
 ⚠︎閲覧自己責任・性的描写あり

 ーーそれは、水を飲むようなもの。

 ーー舌が欲するから、甘いものを食べるようなもの。

   ♡

 喉がカラカラに渇いていた。

 舌が、喉が、水を欲している。

 水が飲みたい。ーー率直にそう、思う。

 そしてーー。ぼくは、目の前の光景に目を見開き、耳まで真っ赤になって茹で蛸になる。羞恥で急激な目眩がして、くらくらした。

 今、ぼくは、焦燥感に駆られている。

 ーーどう、場を収めたらいいのかが分からないからだ。

「……ゆきちゃん……っ」

 目の前のよしのさんは、潤んだ瞳で頬を紅潮させて、ぼくに訴える。だけど、その瞳には、ぼくを映していない。映しているのは、ぼくじゃなくて。ーーゆきだった。

 全裸なよしのさんは、大きく開脚して、陰部を左右に指で広くと、ぼくに震える声でとある事を言った。よしのさんの女性器は、既に濡れそぼっていて、中までぱっくりと見えて、ひくついている。それが扇情的で、全身で男のぼくを誘う。

「ーーお願い、します……っ……よしのの此処に……ゆきちゃんの……下さいっ……」

「……っ」

 本当にどうすればいいのかが分からなかった。どうしろと? と逆に問い掛けたいくらいだ。誰か、誰でもいい。ぼくを。ーー今直ぐにでも、救ってくれっ……!

 こうなる事態になったのは。ーー数時間前まで遡る。

   ☆

 ーーよしのさんは、かなとお父さんを失ったトラウマがあり、眠りが比較的、浅い。

 そして、とうとう、よしのさんの主治医が、よしのさんに診断名を下した。ーー睡眠障害だ、と。

 結果的に、よしのさんの主治医は変わり、処方されている薬も、以前よりも強くて、また違う、新しい薬を処方されたのだ。

 その新しい薬は、説明書に、服用時は、薬の副作用で記憶が飛んでしまうという内容だった。

 意識があって、活動していても、その自分の行動を記憶として残しておけない。薬により、理性もなく、まるで幼児化するように無邪気な人格となる。ーーお酒で酔った時みたいに。

 その事をよしのさんから、不安そうに前以て、報告をされた。でも、ぼくはよしのさんを心配して。ーー薬は飲んだ方がいいと言ったのだ。よしのさんは、怖々と寝る前にその薬を飲む。ぼくはそれを確認してから、いつも通り、一緒によしのさんと寝た。

   ♡

「ぁ……」

「ーーよしのさん? ……大丈夫ですか?」

 よしのさんは、お布団の中で横になって、ぼーっとしている。眠剤が効いている様子だった。ぼくが髪を撫でると、よしのさんはにっこりと微笑んで、こう言ったのである。

「ゆきちゃんだっ……。ゆきちゃん……? どうして、そんなに若くなっちゃったの……?」

 ーー何処からどう見ても寝ぼけている。よしのさんは夢の中にいて、夢の中の住人である、昔のゆきに向かって話し掛けている。薬が効いているよしのさんは、無邪気で饒舌で、コロコロと表情が変わった。

「あ、あの……」

「ゆきちゃん……っ……。ねえ、いつもみたいに、ぎゅーって抱き締めて?」

「ーー!!?」

 そう言って、ゴソゴソとパジャマを抜き出すよしのさんにぎょっとして、目を白黒とさせるぼく。

「ゆきちゃんも脱いでよ。パジャマ……ねえ……?」

「よ、よしのさ……寝た方が……っ」

「ーーやだやだやだっ!」

 よしのさんは駄々っ子のように首を何度も横に振る。

「いつもみたいに、裸同士でぎゅってして寝ないと……寝ないもんっ」

 それを言われて、ぼくはリアクションに困り、途方に暮れた。

 というより、いつから、ゆきと肉体関係があったのだろうか?

 よしのさんは、学生時代の時点でぼくの父と交際していた筈なのに。

 未だに、よしのさんとゆきの関係性、繋がりが明確に分かっていないぼく。

 結局、よしのさんに、半ば強制的に、衣服を脱がされて、全裸で添い寝をする事となったのだ。

 ぼくの首に顔を埋めて、ぼくの臭いを嗅ぐよしのさんが恥ずかしくて、いたたまれなくて、気が付けば、下半身が反応してた。

 何とか、よしのさんが寝静まるまで、耐えた。耐え続けた。

 そうして、よしのさんが寝静まると、黙々とよしのさんに下着を履かせて、パジャマを着せる。ーーぼくは、これは、薬の副作用で仕方ない事だと思っただから、通常時のよしのさんには打ち明ける事をしなかった。

 だけど。ーーそれが逆に良くなかったのかもしれない。

   ♡

 別の晩。よしのさんが薬を飲み始めて、早一週間が経っていて、今日もよしのさんと全裸で添い寝をするぼくは、途方に暮れていた。

「ゆきちゃん……」

「はい?」

「キスして……?」

 ぼくは内心、ぎくりとする。ーー親子でそんな事、出来る訳がない。ぎこちなく、よしのさんへと返答するぼく。

「だ、駄目です……」

「ーーどうして?」

「えっと……」

「いつもは、直ぐキスしてくれるのに……」

 寂しそうに眉を下げるよしのさんにぼくは言葉を詰まらせる。ーー本当にどうすればいいのかが分からなかった。

「きょ、今日は、そういう、気分に、なれなくて……」

 とってつけた返答をするぼくに、よしのさんは拗ねた様子で、ぼくにそっと顔を近付ける。そして。ーー自らぼくの唇に自分の唇を重ねて来た。固まるぼくは、これがキスだと認識するまで体感で数秒は掛かった。それは長いキスで唇を舌で舐められて、驚いて口を開けると、よしのさんの熱い舌がそっと入って来た。

 ーーぼくにとっての、初めてのキスであり、初めてのキスは、深いキスだった。

「ーーッッッ!? んっ……はっ……まっ……待って……よしのさっ……」

 もごもごとそれだけ言っただけで、無駄な抵抗で終わるぼく。歯列を舌で舐められて味わうように、舌と舌が絡み合う。ぼくはこの時点でパニックになっていた。こんなキスをぼくは知らない。

「はぁっ……はぁっ……。待って……っ。ーー本当に待って! よしのさんっ」

 乱れた呼吸のまま、唇を離して、切迫しながら、よしのさんに向き直るぼく。お布団の上で座る、全裸のよしのさんの唇からは唾液がとろりと零れていた。それを見て、ぼくは情欲をそそられる。つい、そそれられてしまって、内心、またぎくりとした。

 よしのさんの目は眠剤によって。ーーとろんとしていた。

「ゆきちゃん……っ」

「は、はい……?」

 ーー今度は何だ? 早く寝てくれ。頼むから。本当に頼むから寝てくれよ。ぼくは明日、部活で朝が早いんだ。ーーそう、切実に思う。

「えっち、したい……」

「ーーへ?」

 言葉の意味が分からなかった。その言葉を理解するまで、時間が掛かった。数分は掛かったとは思う。言葉の意味が分かると、脳裏によしのさんとゆきが台所で睦み合う映像が蘇った。

 ーーあれ、の事……ッ!?

「だ、駄目、ですっ! ーー寝て、下さいッ! ーー今直ぐにっ!」

 ぼくは全力で拒否をした。だけど、よしのさんは泣き出しそうな顔をする。ショックを受けたような顔をして、ぼくは言い知れない罪悪感に駆られた。

「何で、駄目なの……?」

「え、えっと……もう、夜も遅い、し」

「いつもみたいにおねだりすれば、してくれる? ゆきちゃん……っ」

「ーーえ?」

 よしのさんは、そう言うと、緩慢な動作で、開脚させた。羞恥で脚を震わせながら、震える指で小陰唇を左右に開く。中までぱっくりと開いた女性器を見て、ぼくは思考が停止した。その後、瞬時にかーっと顔に熱が込もり、勢い良く視線を逸らした。頭の中は、真っ白で一杯になる。ーーバッチリ、見た。見てしまった。女の人のソレを。

 現在、室内の電気は煌々とつけられている。室内は明るい。ちなみに補足すると、電気をつけたのは、数分前のよしのさんである。だから、これは不可抗力であり、ぼくは悪くはない。ーー絶対に悪くないっ!! 寧ろ、ぼくは被害者だっ!!

「ーーお願い、します……っ……よしのの此処に……ゆきちゃんの……下さいっ……」

 ーー普段、一体、どんな会話をしていたら、そんなやり取りになるんだっっっ!?

 そう、ぼくは心の中で全力で叫び、この場から一目散に逃げ出したくなった。

 あのゆきを。ーーぼくは、全力で恨んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母の告白~息子が恋人に変わるまで~

千田渉
恋愛
実の母子から恋人になるまで。 私たちがなぜ親子でありながら愛し合うようになったのか。 きっかけから本当の意味で結ばれるまでを綴ります。 ※noteに載せているマガジン「母が恋人に変わるまで。」を母の視点からリライト版です。 ※当時の母の気持ちや考えを聞いて構成していますが私の予想や脚色もあるのでフィクションとさせていただきます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

母の日 母にカンシャを

れん
恋愛
母の日、普段は恥ずかしくて言えない、日ごろの感謝の気持ちを込めて花束を贈ったら……まさか、こうなるとは思わなかった。 ※時事ネタ思いつき作品です。 ノクターンからの転載。全9話。 性描写、近親相姦描写(母×子)を含みます。 苦手な方はご注意ください。 表紙は画像生成AIで出力しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...