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第五部
めおと
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とある昼下がり。私は自室で読書をしていると、どたんばたんと騒がしい音と床を駆ける盛大な足音が聞こえて来た。そうして、ノックも無しに扉は開かれる。部屋に入って来たのは、ノルンだった。
「ーーちょっと匿って下さい」
ずるりと銀髪の長いウィッグを外す。何となく、服が乱れていて、ワイシャツの釦が外れていた。口元をごしごしと手で擦る。ノルンの唇には口紅がついていた。
「え? 何? 何があったの?」
「いいから……ちょっとクローゼットの中、失礼します」
「へ!? ちょ、ちょっと。ーーはい?」
私のクローゼットの中にノルンは隠れると同時に部屋にノック音が聞こえて来た。私はそれに応じると扉は再度開かれる。目の前には絵に描いたような美女がいた。
「ノルン! あら? 可愛らしい方……」
「あ……こ、こんにちは」
「こんにちは。初めまして。私はきららと言うの。ゆきと古い仲よ。可愛らしいお嬢さん。此方にノルンが来なかったかしら?」
「い、いえ。来てません」
「あらま、じゃあ、入れ違いかもね。ごめんなさいね。お騒がせしました」
「は、はあ……」
残念そうにきららと名乗った美女は退室した。数分後、辺りは静寂に包まれた。状況が読めない私は呆然とする。クローゼットが開いて、ノルンが煩わしい顔をしながら出て来た。
「よし、撒けましたね。取り敢えず、暫く此処にいさせて下さい……っ」
「さっきの女の人って、ノルンに何したかったの?」
「女装させたかったみたいですよ」
「じょっ!?」
ーー女装……? ノルンは成人男性だと言うのに。何てマニアックなのだろうかと思う。確かにドレスとかを着せれば、何とか女性に映りそうではあるが。でも、ノルンの体格では女装をさせるというのは、無理があるのではなかろうか? とも思う。
「ゆきの古い仲って言ってたけど、初めて見た。てか、ゆきの友達って皆、顔整ってない?」
「類は友を呼ぶって言いますからね」
何処か疲れた様子でげんなりとするノルン。恐らく、女装させられたのは初めてではないのだと思う。ノルンにも苦手なものがあるようで、私は何となくノルンが身近に感じられた。
「そう言えば、さっき、ヘリコプターの音したけど」
「そうですよ。きららさんは、ヘリコプターでいつも来訪します」
「凄いな……。良い所のお嬢様って事?」
「そうなりますね。……と言うか、ゆきの元妻です」
「ーーは!?」
「政略結婚なので、お互い、冷めきってますけどね。子供も生まれていませんし」
「……いやいやいや、有り得なくない? 此処でそんなん投下される私の身にもなってよ!?」
「参りましたね……。きららさんの事だから、数日は此処に滞在するかもしれません。ヨナも一緒にいるだろうし……面倒臭い事に巻き込まれそうですね……。もう巻き込まれてますけど」
「ヨナ……?」
「ぼくの次に誘拐されて来た人間ですよ。十年前に、一緒に脱走したんですけど、ゆきに見付かって連れ戻されて、ゆきの支配下に置かれてしまった哀れな人間です」
淡々と言葉を述べるノルンは衣服を整えて行く。どんどん新しい来訪者によって、私の頭は急停止する。きららという人間の他にヨナという人間もいるのかと思う。
「アルバーノもイタリアから来そうな予感がしますし、本当に面倒です……」
「だ、誰?! そんなポンポン知らない名前出さないでよ?」
「アルバーノは御曹司の息子です。ひるこを気に入っている男性ですよ。ひるこは全くアルバーノの事には眼中にないみたいですけど。……まあ、直に分かりますよ。」
「ええ~? ーーはい」
「あ、マリア。今、綺麗な女の人が来なかったかい?」
ノック音と共に扉が開くとゆきがいた。唐突に音もなく、いなくなるノルン。クローゼットに隠れやがったなと思う。
「きららさんて方が来ましたけど……?」
「そっかあ。ノルンがきららから逃げまくってるみたいだねえ」
「は、はい」
「ノルンを見掛けたら、僕の部屋に来るように言っておいて。匿ってあげるからって」
「分かりました」
そう言ってゆきは笑顔で去って行った。タイミング良く、クローゼットが開かれ、ノルンが出て来る。
「ゆきに匿って貰っても、その日の夜は、ゆきの部屋に泊まるようだし、意味がないなあ……」
ぶつぶつと一人言を言うノルンは、閃いたとでも言うかのように私を一瞥した。
「……決めました。今日、此処に泊めさせて下さい」
「ーーは!?」
「後でお礼しますので。ムール貝のガーリック焼きと小海老のカクテルのサラダ作ります。それで許して下さい」
「何言ってんの……!?」
「別にいいでしょ? 一緒に寝た仲ですし、何も恥ずかしい事なんて、ないじゃないですか」
いけしゃあしゃあと言うノルンに私は愕然とする。ノルンはベッドに座ると、意地悪くほくそ笑んだ。
「あ、襲わないで下さいね」
私は盛大にツッコミを入れると、ノルンはくすくすと笑った。
とある昼下がり。私は自室で読書をしていると、どたんばたんと騒がしい音と床を駆ける盛大な足音が聞こえて来た。そうして、ノックも無しに扉は開かれる。部屋に入って来たのは、ノルンだった。
「ーーちょっと匿って下さい」
ずるりと銀髪の長いウィッグを外す。何となく、服が乱れていて、ワイシャツの釦が外れていた。口元をごしごしと手で擦る。ノルンの唇には口紅がついていた。
「え? 何? 何があったの?」
「いいから……ちょっとクローゼットの中、失礼します」
「へ!? ちょ、ちょっと。ーーはい?」
私のクローゼットの中にノルンは隠れると同時に部屋にノック音が聞こえて来た。私はそれに応じると扉は再度開かれる。目の前には絵に描いたような美女がいた。
「ノルン! あら? 可愛らしい方……」
「あ……こ、こんにちは」
「こんにちは。初めまして。私はきららと言うの。ゆきと古い仲よ。可愛らしいお嬢さん。此方にノルンが来なかったかしら?」
「い、いえ。来てません」
「あらま、じゃあ、入れ違いかもね。ごめんなさいね。お騒がせしました」
「は、はあ……」
残念そうにきららと名乗った美女は退室した。数分後、辺りは静寂に包まれた。状況が読めない私は呆然とする。クローゼットが開いて、ノルンが煩わしい顔をしながら出て来た。
「よし、撒けましたね。取り敢えず、暫く此処にいさせて下さい……っ」
「さっきの女の人って、ノルンに何したかったの?」
「女装させたかったみたいですよ」
「じょっ!?」
ーー女装……? ノルンは成人男性だと言うのに。何てマニアックなのだろうかと思う。確かにドレスとかを着せれば、何とか女性に映りそうではあるが。でも、ノルンの体格では女装をさせるというのは、無理があるのではなかろうか? とも思う。
「ゆきの古い仲って言ってたけど、初めて見た。てか、ゆきの友達って皆、顔整ってない?」
「類は友を呼ぶって言いますからね」
何処か疲れた様子でげんなりとするノルン。恐らく、女装させられたのは初めてではないのだと思う。ノルンにも苦手なものがあるようで、私は何となくノルンが身近に感じられた。
「そう言えば、さっき、ヘリコプターの音したけど」
「そうですよ。きららさんは、ヘリコプターでいつも来訪します」
「凄いな……。良い所のお嬢様って事?」
「そうなりますね。……と言うか、ゆきの元妻です」
「ーーは!?」
「政略結婚なので、お互い、冷めきってますけどね。子供も生まれていませんし」
「……いやいやいや、有り得なくない? 此処でそんなん投下される私の身にもなってよ!?」
「参りましたね……。きららさんの事だから、数日は此処に滞在するかもしれません。ヨナも一緒にいるだろうし……面倒臭い事に巻き込まれそうですね……。もう巻き込まれてますけど」
「ヨナ……?」
「ぼくの次に誘拐されて来た人間ですよ。十年前に、一緒に脱走したんですけど、ゆきに見付かって連れ戻されて、ゆきの支配下に置かれてしまった哀れな人間です」
淡々と言葉を述べるノルンは衣服を整えて行く。どんどん新しい来訪者によって、私の頭は急停止する。きららという人間の他にヨナという人間もいるのかと思う。
「アルバーノもイタリアから来そうな予感がしますし、本当に面倒です……」
「だ、誰?! そんなポンポン知らない名前出さないでよ?」
「アルバーノは御曹司の息子です。ひるこを気に入っている男性ですよ。ひるこは全くアルバーノの事には眼中にないみたいですけど。……まあ、直に分かりますよ。」
「ええ~? ーーはい」
「あ、マリア。今、綺麗な女の人が来なかったかい?」
ノック音と共に扉が開くとゆきがいた。唐突に音もなく、いなくなるノルン。クローゼットに隠れやがったなと思う。
「きららさんて方が来ましたけど……?」
「そっかあ。ノルンがきららから逃げまくってるみたいだねえ」
「は、はい」
「ノルンを見掛けたら、僕の部屋に来るように言っておいて。匿ってあげるからって」
「分かりました」
そう言ってゆきは笑顔で去って行った。タイミング良く、クローゼットが開かれ、ノルンが出て来る。
「ゆきに匿って貰っても、その日の夜は、ゆきの部屋に泊まるようだし、意味がないなあ……」
ぶつぶつと一人言を言うノルンは、閃いたとでも言うかのように私を一瞥した。
「……決めました。今日、此処に泊めさせて下さい」
「ーーは!?」
「後でお礼しますので。ムール貝のガーリック焼きと小海老のカクテルのサラダ作ります。それで許して下さい」
「何言ってんの……!?」
「別にいいでしょ? 一緒に寝た仲ですし、何も恥ずかしい事なんて、ないじゃないですか」
いけしゃあしゃあと言うノルンに私は愕然とする。ノルンはベッドに座ると、意地悪くほくそ笑んだ。
「あ、襲わないで下さいね」
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