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第四部
ぼくのいえ
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⚠︎閲覧自己責任
ーー弟のかすかは、友達がいない。
ーーかすかは、僕達、家族をとても大事にしている。
ーーかすかの世界は、ただただそれだけで。
ーー僕は、そんなかすかを兄として、心配していた。
♡
かすかのピアノ教室の迎えに行く為に僕は歩を進める。
母からは、帰りに近所のスーパーでお豆腐を買って来るようにと、僕にお使いを頼んだ。
ピアノ教室の家の前まで着いた。目の前には、かすかの後ろ姿が見える。
「ーーあ……かす……」
僕はかすかに声を掛けようとした。
「ーーかすか君の事が好きですっ」
ーー……へっっっ!?
僕は目を丸くする。咄嗟に塀の影に隠れた。
かすかの目の前には、かすかの同級生だと思われる女の子が立っている。ピアノ教室の手提げ鞄を持っているあたり、恐らく、かすかと同じピアノ教室を習っている子だ。
大人しそうな女の子は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いている。
ーーか、かすかってモテるんだ……。し、知らなかった。
確かにかすかは足も早くて、勉強も出来る子だけど。
ーー……頑張れ。かすか……!
僕は、塀の影から拳を握り締めて、かすかを見守った。そして、かすかは無表情のまま、淡々とこう言ったのである。
「ーーえ? そういう類いのものには、特に興味ありません」
ーーかすかあああああああっ!!?
ぼくは、内心ツッコミを入れる形でかすかへと叫ぶ。女の子の告白をバッサリと切って捨てちゃうあたり、かすからしいなって思う僕。
女の子は、肩を震わせると、ショックを受けてしまったようで、みるみる内に涙目となり、決壊した。ーー涙腺が。
「ーーうわあああああんっ!!!」
かすかは目を丸くしている。何で泣いているのかが分からない様子だった。
もう見兼ねて僕は、咄嗟に出て行く。
「ーーかすか! 女の子、泣かしちゃ駄目でしょっ!?」
「……いつき。ーーずっと見てたんですか?」
「……うっ」
図星を突かれたぼくは、黙り込んだ。ジト目のかすかにもごもごと言い募る。
「……ほら、かすか。ちゃんと女の子に謝って? 泣かしちゃったんだから。ーーごめんなさいって」
「ーーごめんなさい」
無表情に事務的に謝罪するかすかへ思わず、脱力しそうになった。本当に弟を見ていると、時々、冷や冷やしてしまう。
ぼくの弟であるかすかは、コミュニケーション能力が乏しい。口下手で友達を作らず、学校でもいつも一人でいた。そんなかすかがいつもいつも、僕は、気掛かりで。何か、兄らしい事が出来ればいいんだろうけど。学年も違うし、中々フォローが出来なくて、悩んでいた。
♡
「……母さん。ただいま。ーーお豆腐、買って来た」
帰宅するなり、玄関を上がる。キッチンに行くと、母が夕食の支度をしていた。僕に振り返るとにっこりと微笑む。僕は、母にお豆腐の入った買い物袋を手渡した。
「ーーおかえり。いつき。ありがとう。ーーかすか……? それ、どうしたの?」
かすかは、先程告白された女の子から貰った、ラッピングされたお菓子を手に持っている。中身はガトーショコラらしい。女の子の手作りだそうだ。
「ーー貰いました」
「あらまあ、女の子から?」
「……はい」
「ーー良かったわね。かすか」
かすかは黙って頷く。僕はそんなかすかを見て、やっぱり心配になってしまう。
ーーかすかは、女の子から告白されても嬉しくないのかなあ? ……僕、だったら嬉しいけど。
ーーそう思ってしまう。
その日の晩御飯のデザートは、ガトーショコラだった。
夕食を済まして、お風呂に入って、かすかと二段ベッドで眠る。
いつもの日常。いつもの一時。
ーー弟のかすかは、友達がいない。
ーーかすかは、僕達、家族をとても大事にしている。
ーーかすかの世界は、ただただそれだけで。
ーー僕は、そんなかすかを兄として、心配していた。
♡
かすかのピアノ教室の迎えに行く為に僕は歩を進める。
母からは、帰りに近所のスーパーでお豆腐を買って来るようにと、僕にお使いを頼んだ。
ピアノ教室の家の前まで着いた。目の前には、かすかの後ろ姿が見える。
「ーーあ……かす……」
僕はかすかに声を掛けようとした。
「ーーかすか君の事が好きですっ」
ーー……へっっっ!?
僕は目を丸くする。咄嗟に塀の影に隠れた。
かすかの目の前には、かすかの同級生だと思われる女の子が立っている。ピアノ教室の手提げ鞄を持っているあたり、恐らく、かすかと同じピアノ教室を習っている子だ。
大人しそうな女の子は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いている。
ーーか、かすかってモテるんだ……。し、知らなかった。
確かにかすかは足も早くて、勉強も出来る子だけど。
ーー……頑張れ。かすか……!
僕は、塀の影から拳を握り締めて、かすかを見守った。そして、かすかは無表情のまま、淡々とこう言ったのである。
「ーーえ? そういう類いのものには、特に興味ありません」
ーーかすかあああああああっ!!?
ぼくは、内心ツッコミを入れる形でかすかへと叫ぶ。女の子の告白をバッサリと切って捨てちゃうあたり、かすからしいなって思う僕。
女の子は、肩を震わせると、ショックを受けてしまったようで、みるみる内に涙目となり、決壊した。ーー涙腺が。
「ーーうわあああああんっ!!!」
かすかは目を丸くしている。何で泣いているのかが分からない様子だった。
もう見兼ねて僕は、咄嗟に出て行く。
「ーーかすか! 女の子、泣かしちゃ駄目でしょっ!?」
「……いつき。ーーずっと見てたんですか?」
「……うっ」
図星を突かれたぼくは、黙り込んだ。ジト目のかすかにもごもごと言い募る。
「……ほら、かすか。ちゃんと女の子に謝って? 泣かしちゃったんだから。ーーごめんなさいって」
「ーーごめんなさい」
無表情に事務的に謝罪するかすかへ思わず、脱力しそうになった。本当に弟を見ていると、時々、冷や冷やしてしまう。
ぼくの弟であるかすかは、コミュニケーション能力が乏しい。口下手で友達を作らず、学校でもいつも一人でいた。そんなかすかがいつもいつも、僕は、気掛かりで。何か、兄らしい事が出来ればいいんだろうけど。学年も違うし、中々フォローが出来なくて、悩んでいた。
♡
「……母さん。ただいま。ーーお豆腐、買って来た」
帰宅するなり、玄関を上がる。キッチンに行くと、母が夕食の支度をしていた。僕に振り返るとにっこりと微笑む。僕は、母にお豆腐の入った買い物袋を手渡した。
「ーーおかえり。いつき。ありがとう。ーーかすか……? それ、どうしたの?」
かすかは、先程告白された女の子から貰った、ラッピングされたお菓子を手に持っている。中身はガトーショコラらしい。女の子の手作りだそうだ。
「ーー貰いました」
「あらまあ、女の子から?」
「……はい」
「ーー良かったわね。かすか」
かすかは黙って頷く。僕はそんなかすかを見て、やっぱり心配になってしまう。
ーーかすかは、女の子から告白されても嬉しくないのかなあ? ……僕、だったら嬉しいけど。
ーーそう思ってしまう。
その日の晩御飯のデザートは、ガトーショコラだった。
夕食を済まして、お風呂に入って、かすかと二段ベッドで眠る。
いつもの日常。いつもの一時。
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