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第二章 わたしと全然忍んでいない忍者
01 いざ鎌倉
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「ほんっっとごめんね、美十香ちゃん! 言い出しっぺはこっちなのに……」
「気にしないで、京ちゃん! また今度行こうよ。お母さんお大事にね!」
電話を切ったわたしは、自室のミニテーブルの上に置いてある観光パンフレットを手に取った。ページ数はあまり多くないこの冊子で紹介されているのは、鎌倉市内の観光名所の数々。
さて、今日これからどうしようかな……?
二週間前、一人で川崎市の駅周辺を散策しながら、服やら可愛いグッズやら美味しそうなスイーツやらをチェックしていたわたしは、地下街で偶然にも中学時代の友人・京ちゃんこと玉縄京華と出くわした。
二人で近くのカフェに入り、コーヒーを飲みながら近況報告や昔話に花を咲かせているうちに、また今度二人だけで出掛けようという流れになった。
「うちさあ、鎌倉行きたいんだよね。美十香ちゃん興味ある?」
「あるよー! 最後に行ったの、何年前だったかなあ。小町通りを歩くだけでも楽しいよね。ソフトクリームにおせんべい、豆菓子に漬け物に──」
「食べ物ばっかじゃ~ん!」
「あ、確かに……」
京ちゃんは、大河ドラマなどの影響で、数年前から日本史オタクとして活動していた。以前、マッチングアプリで知り合って交際を始めた、同じ趣味の男性を鎌倉デートに誘ったら「ごめんなさい、僕は平家派なんです」と断られてしまったそうな。
「京ちゃん、ちなみにその男性とは、今は……?」
京ちゃんはかぶりを振り、
「残念ながら。何か全然、好みとか考え方が合わなかったの。うちは伊賀派だけど彼は甲賀派だったり、坂本龍馬の暗殺実行犯や黒幕は誰かって議論でも、彼の考えが斜め上過ぎて失礼ながら笑っちゃったんだけど、彼からすれば、うちの考えの方が天地がひっくり返ってもあり得ないって」
「そ、そうなんだ……」
そんなこんなで、わたしと京ちゃんは、二人で鎌倉まで遊びに行く事に決めたのだった。
帰宅後、わたしは母さんから鎌倉の観光パンフレットを貰い(母さんは今年の二月頃にお友達と遊びに行った)、早速目を通してみた。
鎌倉市内の観光名所は、当然ながらJR鎌倉駅近くの小町通りだけじゃない。その先には鶴岡八幡宮があるし、その他にもお寺や神社、美術館に資料館、美味しい料理やお土産のお店だって沢山ある。
京ちゃんは、わたしが興味の湧いた場所に行こうと言ってくれたけれど……うーん、迷う! 江ノ島電鉄にも乗ってみたいしなあ。湘南モノレールは、ちょっと鎌倉から外れちゃうかな。ああ、これはもう、京ちゃんに任せた方がいいのかもしれない。
職場でも昼休み中にパンフレットに目を通したり、ネットで情報収集していたら、大塚さんにデートなのかと笑顔で聞かれ、更には近くにいた吹石君が反応して食い付いてきた。
「この間の休みの日に、中学時代の女友達と偶然再会して。今度一緒に遊びに行く事になったんですよ」
「あ、そうだったのね」
「でも、どの辺を見て回るかは全然決めてなくて」
「桐島さんが迷惑じゃなかったら、私のオススメの観光スポットを教えようか?」
「本当ですか? 有難うございます!」
ふと、吹石君の方に目をやると……気のせいかな、何かうっすら笑みを浮かべていた。そしてわたしの視線に気付くと、誤魔化すように咳払いして、部屋を出て行ってしまった。
ま、まさか、デートじゃないからって馬鹿にして……? いやでも、彼はそんな人間じゃないはず。
そして、何か視線を感じるなと思ったら、佐伯課長が自分の席からわたしの方を見ていた。目が合うとフイと逸らされてしまい、それ以上は特に何もなかったけれど……この嫌味眼鏡こそ、きっと内心馬鹿にしているんだろうな!
フーンだ、どうせわたしは非モテで、いい歳してデートの相手なんていませんよーだ!
……いや、正確には一人いるけれど、次いつ会えるかわかんないし……。
で、あっという間に二週間が経過して、京ちゃんとの約束の日、つまり今日になったのだけれど……。
家を出る準備をしていたわたしのスマホに、京ちゃんから電話が入り、とっても残念なお知らせが。京ちゃんのお母さんが、何とぎっくり腰になってしまったそうな!
「お母さんは気にせず出掛けるようにって言ってんだけど、お父さんは仕事だし、お姉ちゃん夫婦は北海道旅行中で呼べないから、もしまた何かあったらマズいじゃん? だからさ、いきなりで悪いんだけど、鎌倉はまた今度にしてほしいんだ……」
「そりゃあそうだよ、怪我人優先! 鎌倉は逃げやしないんだし、いつでも行ける! だから、全然気にしないで!」
というわけで、当初の予定が急になくなってしまった。
うーん、どうしよう。せっかく早起きして、出掛ける支度も完了しているんだから、家で過ごすのは勿体無いよね。
それじゃあ、何処に行こう?
横浜駅周辺をウィンドウショッピングしようかな。今度またレイジとデートする時のために、横須賀市内のあちこちを見ておくのもいいかも。
それとも……一人で鎌倉に行っちゃう?
数十分後、わたしはJR横須賀線の電車で、鎌倉駅に向かっていた。
大塚さんのオススメスポットにも行くつもりだけれど、やっぱりせっかくだから、小町通りで何か美味しいものを食べたいよなあ……なんて考えながら。
まさか、新たな異性との、レイジの時に負けじ劣らず風変わりな出逢いがあるなんて……この時は思いも寄らなかったんだ。
「気にしないで、京ちゃん! また今度行こうよ。お母さんお大事にね!」
電話を切ったわたしは、自室のミニテーブルの上に置いてある観光パンフレットを手に取った。ページ数はあまり多くないこの冊子で紹介されているのは、鎌倉市内の観光名所の数々。
さて、今日これからどうしようかな……?
二週間前、一人で川崎市の駅周辺を散策しながら、服やら可愛いグッズやら美味しそうなスイーツやらをチェックしていたわたしは、地下街で偶然にも中学時代の友人・京ちゃんこと玉縄京華と出くわした。
二人で近くのカフェに入り、コーヒーを飲みながら近況報告や昔話に花を咲かせているうちに、また今度二人だけで出掛けようという流れになった。
「うちさあ、鎌倉行きたいんだよね。美十香ちゃん興味ある?」
「あるよー! 最後に行ったの、何年前だったかなあ。小町通りを歩くだけでも楽しいよね。ソフトクリームにおせんべい、豆菓子に漬け物に──」
「食べ物ばっかじゃ~ん!」
「あ、確かに……」
京ちゃんは、大河ドラマなどの影響で、数年前から日本史オタクとして活動していた。以前、マッチングアプリで知り合って交際を始めた、同じ趣味の男性を鎌倉デートに誘ったら「ごめんなさい、僕は平家派なんです」と断られてしまったそうな。
「京ちゃん、ちなみにその男性とは、今は……?」
京ちゃんはかぶりを振り、
「残念ながら。何か全然、好みとか考え方が合わなかったの。うちは伊賀派だけど彼は甲賀派だったり、坂本龍馬の暗殺実行犯や黒幕は誰かって議論でも、彼の考えが斜め上過ぎて失礼ながら笑っちゃったんだけど、彼からすれば、うちの考えの方が天地がひっくり返ってもあり得ないって」
「そ、そうなんだ……」
そんなこんなで、わたしと京ちゃんは、二人で鎌倉まで遊びに行く事に決めたのだった。
帰宅後、わたしは母さんから鎌倉の観光パンフレットを貰い(母さんは今年の二月頃にお友達と遊びに行った)、早速目を通してみた。
鎌倉市内の観光名所は、当然ながらJR鎌倉駅近くの小町通りだけじゃない。その先には鶴岡八幡宮があるし、その他にもお寺や神社、美術館に資料館、美味しい料理やお土産のお店だって沢山ある。
京ちゃんは、わたしが興味の湧いた場所に行こうと言ってくれたけれど……うーん、迷う! 江ノ島電鉄にも乗ってみたいしなあ。湘南モノレールは、ちょっと鎌倉から外れちゃうかな。ああ、これはもう、京ちゃんに任せた方がいいのかもしれない。
職場でも昼休み中にパンフレットに目を通したり、ネットで情報収集していたら、大塚さんにデートなのかと笑顔で聞かれ、更には近くにいた吹石君が反応して食い付いてきた。
「この間の休みの日に、中学時代の女友達と偶然再会して。今度一緒に遊びに行く事になったんですよ」
「あ、そうだったのね」
「でも、どの辺を見て回るかは全然決めてなくて」
「桐島さんが迷惑じゃなかったら、私のオススメの観光スポットを教えようか?」
「本当ですか? 有難うございます!」
ふと、吹石君の方に目をやると……気のせいかな、何かうっすら笑みを浮かべていた。そしてわたしの視線に気付くと、誤魔化すように咳払いして、部屋を出て行ってしまった。
ま、まさか、デートじゃないからって馬鹿にして……? いやでも、彼はそんな人間じゃないはず。
そして、何か視線を感じるなと思ったら、佐伯課長が自分の席からわたしの方を見ていた。目が合うとフイと逸らされてしまい、それ以上は特に何もなかったけれど……この嫌味眼鏡こそ、きっと内心馬鹿にしているんだろうな!
フーンだ、どうせわたしは非モテで、いい歳してデートの相手なんていませんよーだ!
……いや、正確には一人いるけれど、次いつ会えるかわかんないし……。
で、あっという間に二週間が経過して、京ちゃんとの約束の日、つまり今日になったのだけれど……。
家を出る準備をしていたわたしのスマホに、京ちゃんから電話が入り、とっても残念なお知らせが。京ちゃんのお母さんが、何とぎっくり腰になってしまったそうな!
「お母さんは気にせず出掛けるようにって言ってんだけど、お父さんは仕事だし、お姉ちゃん夫婦は北海道旅行中で呼べないから、もしまた何かあったらマズいじゃん? だからさ、いきなりで悪いんだけど、鎌倉はまた今度にしてほしいんだ……」
「そりゃあそうだよ、怪我人優先! 鎌倉は逃げやしないんだし、いつでも行ける! だから、全然気にしないで!」
というわけで、当初の予定が急になくなってしまった。
うーん、どうしよう。せっかく早起きして、出掛ける支度も完了しているんだから、家で過ごすのは勿体無いよね。
それじゃあ、何処に行こう?
横浜駅周辺をウィンドウショッピングしようかな。今度またレイジとデートする時のために、横須賀市内のあちこちを見ておくのもいいかも。
それとも……一人で鎌倉に行っちゃう?
数十分後、わたしはJR横須賀線の電車で、鎌倉駅に向かっていた。
大塚さんのオススメスポットにも行くつもりだけれど、やっぱりせっかくだから、小町通りで何か美味しいものを食べたいよなあ……なんて考えながら。
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