常闇紳士と月光夫人

 三三歳の誕生日目前に恋人・蓮(れん)にフラれ、小説家になる夢も叶えられず、人生を半分以上諦めてしまった鷲塚舞織(わしづかまおり)。それ以降は、かつてのように無味乾燥な日々を送っていた。
 ある満月の夜、家呑み中の舞織の元に突然現れたのは、金色の猫のような目をした燕尾服姿の奇妙な男。
「私は〝常闇(とこやみ)紳士〟。この世界とは異なる〈永遠の夜の世界〉から来た夜魔だ。会いたかったよ、舞織」
 突然の来訪者は、〝遅咲きの奇才〟と称された画家で今は亡き舞織の祖父・真也(しんや)の友人なのだという。
「〈永遠の夜の世界〉? 夜魔? ど、どういうこっちゃ……」
「舞織、どうか私の伴侶に──〝月光(げっこう)夫人〟になってはくれないか」
「げ、月光夫人?」
「次の満月の夜に答えを聞きたい。それまでに君を振り向かせられるように努力するよ。……それでいいかな?」
「は、はあ……」
 それからというものの、常闇紳士は度々舞織の元へやって来ては、彼女を様々な異世界に誘(いざな)った。舞織は戸惑いつつも、常闇紳士と幻想的で楽しい時間を過ごしてゆくうちに徐々に惹かれてゆき、月光夫人となって〈永遠の夜の世界〉で一緒に暮らしたいと本気で考えるようになる。
 ところがある日、蓮が復縁を持ちかけてくる。そして更には出版社から、コンテストで落選した作品の書籍化打診の連絡が届いた事で、舞織の心は揺らぎ始める。
 そしてとうとう迎えた満月の夜。果たして舞織が下した決断は……?


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