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ゴンタ

妻からの電話2

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 ああ、もしもし、わたしよ。

 この間はごめんなさい。ついカッとなって。……ううん、いいのよ。本当に悪かったわ。

 大翔ひろと? まあ……変わらないわ。ええ、さっきもゴンタ──あのタコと会話していたみたい。

 そう、それでね、あのタコなんだけれどね……この間あの子の部屋に掃除しに入ったら、また大きくなっていたの。ええ、そりゃまあ成長期ならおかしくないかもしれないけれど……あなたが前に買い与えたあの大きな水槽が窮屈になっているのよ。流石に大きくなり過ぎてはいないかしら。

 しかもね……掃除の間ずっと視線を感じたのよ。それで何度か振り返ってみたけれど、誰もいなかったわ……水槽の中のゴンタ以外は。
 まさかゴンタがずっとわたしを観察しているんじゃないかって、馬鹿みたいな考えまで浮かんじゃって。掃除機片手に恐る恐る近付いたところで、学校から帰って来た大翔の声が聞こえてきたから、そこまでにしたの。

 ええ、そうね。自分で思っている以上に疲れているのかもしれないわ。でも主婦業に休みはないわけだし……

 え? 嫌味で言っているわけじゃないわよ。

 もう! どうしてすぐそうやって──……

 ……ああ、大丈夫よ、聞こえているわ。ううん、何でもないわ……え? 声が震えているって?

 ……今あなたとちょっと揉めた時に、視線を感じて振り向いたの。
 そうしたらね、大翔が、真っ暗な階段の途中に立ってこっちを見ていたのよ……無表情で。わたしと目が合ったら部屋に戻って行ったけれど……何か異様だったわ。

 実はね、最初に聞かれた時には言わなかったけれど……前回の電話の後くらいから、大翔はわたしの前では口数が減って、笑わなくなっているのよ。何かあったのかって聞いても、『何でもないよ』『大丈夫だよ』しか言わないし……

 ええ、そうよ。わたしの前では、なの。

 ゴンタとの会話では饒舌で、よく笑っているみたい。

 一度、会話中に部屋をノックして呼び掛けてみたら、ピタリと止んじゃって。誰と話をしていたのって尋ねても、『別に』としか答えなくって、そのうちわたしを無視して本を読み始めて……

 いじめ? 学校で?

 ええ、わたしも最初は、ひょっとしたらそうなんじゃないかって考えたわ。

 でも何だろう……何か違うような気がするの。

 もっと気になるのはゴンタよ。あのタコ、本当にただのタコかしら。まず見た目からしてちょっとおかしいし。
 昨日あの子が学校に行っている間にネットで調べてみたけれど、ゴンタと同じようなタコの情報は見付からなかったわ。

 そうだ、近いうちに写真撮って送るわ。あなたも見て頂戴。海洋生物なら、わたしよりもあなたの方が詳しいでしょうし。

 え? 上司から電話が入った?

 ……わかったわ。長くなってしまってごめんなさい。

 それじゃあ、また。おやすみなさい……。
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