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第一章 驚異の少女(ガール・ワンダー)誕生?
#12 緑川家での再会
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一一月六日。
「チホミン、今日の帰り、緑川家に来られる?」
遅刻ギリギリに登校した千穂実は、教室で里沙に会うなり、挨拶もそこそこにそう聞かれた。
「今日? うん、大丈夫だけど、随分唐突だね。何かあった?」
「それはチホミンが一番わかってるんじゃない?」
「……えっ?」
戸惑う千穂実に、里沙はまるでチェシャ猫のような笑みを浮かべた。
「わたしが一番って──」
担任が来てしまったので、会話は一旦中断となった。
──何、何の事?
その後も千穂実は、里沙に何度も理由を尋ねようとした。しかし親友は、その度にはぐらかしたり「着いてから教えるよ」と答えるだけで、とうとう放課後になってしまった。
美晴ヶ丘駅ホームのベンチ。
「ねえ里沙、これでもう三七回目くらいだけどさ。わたしが里沙の家に招待される理由って?」
「もうっ、だからそれは、向こう着いてからね!」
「……じゃあせめて、これだけ教えて」千穂実は里沙の方に身を乗り出した。「お説教系だったりする?」
「チホミン顔近い近い。……それはどうなるかわからないよ」
「直接用があるのは里沙じゃないって事だよね?」
「うん、まあ……ね」
千穂実は首を傾げた。里沙以外の緑川家の人間が、一体何の用があるというのだろうか。里沙の両親には、一度だけ校舎内で会った事があるものの、それ以外の人間は顔すら知らないのだ。
〝それはチホミンが一番わかってるんじゃない?〟
何よりも、里沙に理由を尋ねた際のこの返答が一番引っ掛かっていた。まるで咎められているかのようだ。だから説教系なのかとも尋ねたのだが、意外と親友の口は堅い。
──まさか、緑川家で一番偉い誰かが、わたしが里沙の友達にふさわしいかどうか見定める、とか……?
「ほら、電車来たし、続きは向こうで!」
「ん……わかった」
仕方なく諦めた千穂実は、好奇心とそれ以上の不安を抱きながら親友の後に続いた。
浜波市広正区。
浜波の中心である中区の西隣に位置する高級住宅街で、緑川家の本家も存在している。
「でね、その人、九〇日後にはすっかりムキムキに……どうしたのチホミン、何か元気ないね」
「……そりゃああんた」
坂道を上り、いかにも金を持っていますと言わんばかりの様々な豪邸を横目に歩いてゆく間、饒舌な里沙に対して千穂実は言葉少なだった。
「これから何があるかわからないし、ましてや立派なお屋敷に招待されるんだから、不安やら緊張やらでいっぱいなの!」
「立派なお屋敷って!」里沙は笑った。「大袈裟だよー、そんな大した事ないって」
数分後、住宅街の最奥に、今まで通り過ぎて来たどの豪邸にも負けじ劣らず立派な緑川邸が姿を現した。チャコールグレーの屋根にアイボリーの壁紙。石壁により敷地内は見えないが、広い庭もあるようだ。
「どこが大した事ないのよ……庶民舐めてんのかい……」
右端の門から敷地内に通された。最初に目に入った芝生の庭は、千穂実の予想に反しシンプルだった。玄関と庭の奥まで続く二股に分かれた石畳が真ん中に敷かれ、端の方に数本の木々、花の植えられていない小さな花壇があるだけだ。
「チホミン、悪いんだけど、先に離れの方に来てほしいんだ」
「離れ? うん、いいよ。応接室?」
「ううん、そうじゃないんだ。元々おじいちゃんが使ってて……」里沙は一旦歩みを止め、千穂実に向き直ると真剣な様子で続けた。「そこに居候しているある人が、チホミンに用があるわけ」
「居候が……わたしに?」
里沙は無言で頷くと、困惑する千穂実の右手を取り、庭の奥まで誘導した。
──ますます謎なんだけど?
離れは母屋をミニサイズにしたような外観だった。千穂実はさり気なく窓から中を覗こうとしたものの、カーテンがピッタリと閉じられていた。
里沙は離れのドアにノックし、
「おーい、チホミン連れて来たよー!」
ややあってから、カチャリ、と解錠する小さな音が聞こえた。二人はそのまま待ってみたものの、中から声を掛けられるわけでもなければ、ドアが開かれる様子もなかった。
「……もう。お出迎えしてくれたっていいじゃない」里沙は口を尖らせぶつくさ言い、遠慮なくドアを開けた。「はいチホミン、入ってどうぞ」
「お邪魔します……」
中は畳張りで、仄かにい草のいい香りがする。八畳程はあるだろうか、千穂実の自室よりも若干広そうだ。部屋の真ん中には木製のローテーブルと二人分の座椅子、端にはスチール製のオフィスデスクに黒いアームチェア、びっしりと書物が並んだ本棚、その上にポータブルテレビが配置されている。
「え……」
千穂実を呼んだ人物は、カーテンの閉まった窓を背に立っていた。
「ちょっ……え、えええええっ!?」
栗色の短髪に、銀色の蔦のような模様が描かれた、素顔のほとんどを隠すシンプルなフルフェイスマスク。漆黒のボディスーツにマント、グローブを身に纏ったその姿は──
「シ……シルバーブレットォォォオオォォ!?」
紛れもなく、千穂実が慕い、サイドキックになるのだと焦がれるヒーローだった。
「チホミン、今日の帰り、緑川家に来られる?」
遅刻ギリギリに登校した千穂実は、教室で里沙に会うなり、挨拶もそこそこにそう聞かれた。
「今日? うん、大丈夫だけど、随分唐突だね。何かあった?」
「それはチホミンが一番わかってるんじゃない?」
「……えっ?」
戸惑う千穂実に、里沙はまるでチェシャ猫のような笑みを浮かべた。
「わたしが一番って──」
担任が来てしまったので、会話は一旦中断となった。
──何、何の事?
その後も千穂実は、里沙に何度も理由を尋ねようとした。しかし親友は、その度にはぐらかしたり「着いてから教えるよ」と答えるだけで、とうとう放課後になってしまった。
美晴ヶ丘駅ホームのベンチ。
「ねえ里沙、これでもう三七回目くらいだけどさ。わたしが里沙の家に招待される理由って?」
「もうっ、だからそれは、向こう着いてからね!」
「……じゃあせめて、これだけ教えて」千穂実は里沙の方に身を乗り出した。「お説教系だったりする?」
「チホミン顔近い近い。……それはどうなるかわからないよ」
「直接用があるのは里沙じゃないって事だよね?」
「うん、まあ……ね」
千穂実は首を傾げた。里沙以外の緑川家の人間が、一体何の用があるというのだろうか。里沙の両親には、一度だけ校舎内で会った事があるものの、それ以外の人間は顔すら知らないのだ。
〝それはチホミンが一番わかってるんじゃない?〟
何よりも、里沙に理由を尋ねた際のこの返答が一番引っ掛かっていた。まるで咎められているかのようだ。だから説教系なのかとも尋ねたのだが、意外と親友の口は堅い。
──まさか、緑川家で一番偉い誰かが、わたしが里沙の友達にふさわしいかどうか見定める、とか……?
「ほら、電車来たし、続きは向こうで!」
「ん……わかった」
仕方なく諦めた千穂実は、好奇心とそれ以上の不安を抱きながら親友の後に続いた。
浜波市広正区。
浜波の中心である中区の西隣に位置する高級住宅街で、緑川家の本家も存在している。
「でね、その人、九〇日後にはすっかりムキムキに……どうしたのチホミン、何か元気ないね」
「……そりゃああんた」
坂道を上り、いかにも金を持っていますと言わんばかりの様々な豪邸を横目に歩いてゆく間、饒舌な里沙に対して千穂実は言葉少なだった。
「これから何があるかわからないし、ましてや立派なお屋敷に招待されるんだから、不安やら緊張やらでいっぱいなの!」
「立派なお屋敷って!」里沙は笑った。「大袈裟だよー、そんな大した事ないって」
数分後、住宅街の最奥に、今まで通り過ぎて来たどの豪邸にも負けじ劣らず立派な緑川邸が姿を現した。チャコールグレーの屋根にアイボリーの壁紙。石壁により敷地内は見えないが、広い庭もあるようだ。
「どこが大した事ないのよ……庶民舐めてんのかい……」
右端の門から敷地内に通された。最初に目に入った芝生の庭は、千穂実の予想に反しシンプルだった。玄関と庭の奥まで続く二股に分かれた石畳が真ん中に敷かれ、端の方に数本の木々、花の植えられていない小さな花壇があるだけだ。
「チホミン、悪いんだけど、先に離れの方に来てほしいんだ」
「離れ? うん、いいよ。応接室?」
「ううん、そうじゃないんだ。元々おじいちゃんが使ってて……」里沙は一旦歩みを止め、千穂実に向き直ると真剣な様子で続けた。「そこに居候しているある人が、チホミンに用があるわけ」
「居候が……わたしに?」
里沙は無言で頷くと、困惑する千穂実の右手を取り、庭の奥まで誘導した。
──ますます謎なんだけど?
離れは母屋をミニサイズにしたような外観だった。千穂実はさり気なく窓から中を覗こうとしたものの、カーテンがピッタリと閉じられていた。
里沙は離れのドアにノックし、
「おーい、チホミン連れて来たよー!」
ややあってから、カチャリ、と解錠する小さな音が聞こえた。二人はそのまま待ってみたものの、中から声を掛けられるわけでもなければ、ドアが開かれる様子もなかった。
「……もう。お出迎えしてくれたっていいじゃない」里沙は口を尖らせぶつくさ言い、遠慮なくドアを開けた。「はいチホミン、入ってどうぞ」
「お邪魔します……」
中は畳張りで、仄かにい草のいい香りがする。八畳程はあるだろうか、千穂実の自室よりも若干広そうだ。部屋の真ん中には木製のローテーブルと二人分の座椅子、端にはスチール製のオフィスデスクに黒いアームチェア、びっしりと書物が並んだ本棚、その上にポータブルテレビが配置されている。
「え……」
千穂実を呼んだ人物は、カーテンの閉まった窓を背に立っていた。
「ちょっ……え、えええええっ!?」
栗色の短髪に、銀色の蔦のような模様が描かれた、素顔のほとんどを隠すシンプルなフルフェイスマスク。漆黒のボディスーツにマント、グローブを身に纏ったその姿は──
「シ……シルバーブレットォォォオオォォ!?」
紛れもなく、千穂実が慕い、サイドキックになるのだと焦がれるヒーローだった。
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