36 / 37
第21話〜30話
第30話 コーヒーと聞き耳とライバルと
しおりを挟む
久し振りの魔術師稼業をさっさと終わらせた咲良は、初めて立ち寄った喫茶店のカウンター席で一息吐いていた。店長のおすすめだという、程良く熱いブラックコーヒーが身体中に染み渡る。
──ちょっと疲れたけど、簡単だったな。
第6地区内の、第7地区寄りに位置する小さな町に出没しては悪戯を繰り返していた、三匹のゴブリンの討伐依頼。泊まり込みの長期戦すら覚悟していたが、町に到着するなり運良く三匹全てと遭遇し、たまたま所持していた菓子で釣れたので、そのまま纏めて衝撃波でぶちのめした。
──もっと難易度の高い依頼が来ないかなぁ……暴走した巨大生物の制圧とか、半裸のマッチョなイケメン同士の喧嘩の仲裁とか……なんてね! グヘヘヘ!
「そういえばこの間、彼とデートだったんでしょ。どうだった?」
「実はプロポーズされたんだけど、ムカついたから断ったの。で、後で大喧嘩」
通路を挟んで後ろのボックス席に座る、女性二人の会話が聞こえてきた。一人は大きな赤い一つ目が顔の上半分を占めていて、もう一人はエメラルドグリーン色の肌をしている。
「マジ!? え、何で、どうしたのよ」
一つ目の女性が、ただでさえ大きな目を更に見開き、身を乗り出した。プロポーズされたのはエメラルドグリーンの方らしい。
「だってさ、通行人もいる、ごく普通の歩道のど真ん中でだよ? ムードもへったくれもない!」
「え、確か第6にある遊園地に行ったんだよね? 観覧車の中とか、レストランで夜景見ながらとかじゃなくて?」
「うん、ディナーの後の帰り道で。しかもすぐ後ろはゴミ捨て場」
「えええ……」
「丁度通り掛かった吸血鬼の若い子たちが囃し立ててさ。まあ、あたしが舌打ちしてから断ったら静かになったけど」
「うわ、そりゃ確かに嫌だわ。今後どうするの?」
「未だに謝ってこないし、結婚どころか別れる事になるかも」
──大変だねえ……。
咲良は聞き耳を立てつつ、メニューブックを開いた。パフェでもアイスクリームでも、何かしら甘い物を口に入れたくなってきた。
「そうだったのね……。愚痴ならバンバン聞くし、相談にもガンガン乗るからね!」
「有難う、親友。そういえば、あんたの方はどうなったのよ。ほら、前に合コンで知り合った狼頭のイケメン君」
「ああ、あいつ? マジでカス。私はキープ兼金蔓の一人だったの。いいように利用され続けて、一度拒否したらポイよ」
「嘘! 酷い……!」
──うん、酷いね。血祭りに上げてやらなきゃだよ!
自分だったらどうするか、咲良は脳内で勝手にシミュレーションを始めた。
「まあ、このまま泣き寝入りするつもりはないわよ。今度あいつの職場まで行って、私が受けた仕打ちとあいつの恥ずかしい一面を全部暴露して、社会的にブチ殺してやるつもりでいるから」
「本当に!?」
──マジで!?
パンツ一丁で逆さ吊りにされた狼頭の男は、咲良の脳内で霧散した。
「マジよマジ。私は有言実行の単眼女子だかんね」
──うわぁ見学してぇ~! むしろ参加してぇ~!
「やっぱりリリーだ」
ふいに横から話し掛けられ、咲良ははっと我に返った。
「久し振り。元気してた?」
「わ、カレン姐さん! 久し振りかつ偶然!」
友人かつ密かにライバル視している相手の登場に、咲良は驚きと嬉しさの入り混じった笑顔を浮かべた。
「歩いてたらあんたの姿が見えたからさ。隣、いい?」
「勿論。あれ、今日は紫のローブは着てないんだね」
「あれはクリーニングに出したばっかり。ていうか、毎日着ているわけじゃないからね?」
小柄な店員が来ると、カレンはミックスベリージュースを、咲良は追加でミニサイズのチョコレートパフェを注文した。
「話変わるけど、この間〈ゴモリー広場〉で鬼車がご臨終だったの、あれって姐さんが?」
「ん? ああ~あれか。そうだよ。あのままじゃ犠牲者が出ていただろうから」
「流石! ねえ、いつになったらわたしと魔術勝負してくれるの?」
「ああ、そういえば約束していたね。でも本当にいいの? 私結構強いし、接待モードは備わってないからね」
「それはわたしもだよーん」
先程とは異なる店員がミックスベリージュースを持って来ると、カレンは早速喉を潤した。
「姐さん、また話は変わるけどさ。わたしたちが初めて会ったのって、割と最近だよね?」
「まあ、そうだね。〈歌魔女の森〉の、今はあんたの家に私が訪ねて」
「うーん……」咲良は小首を傾げた。「実はさ、あの時が初めてじゃない気がして」
「何処かで会っているって? まあその可能性はゼロじゃないけだろうけど、こんな巨乳美女を忘れるわけないでしょ~!」
「だよね~! 姐さんだってこんな可憐な美少女忘れるわけないだろうし~!」
咲良とカレンは、これ以上面白い話はないと言わんばかりにケラケラと笑い合った。
当人たちは全く意識していないが、その心底楽しそうな表情は、周辺から見ると何となく似ていた。
──ちょっと疲れたけど、簡単だったな。
第6地区内の、第7地区寄りに位置する小さな町に出没しては悪戯を繰り返していた、三匹のゴブリンの討伐依頼。泊まり込みの長期戦すら覚悟していたが、町に到着するなり運良く三匹全てと遭遇し、たまたま所持していた菓子で釣れたので、そのまま纏めて衝撃波でぶちのめした。
──もっと難易度の高い依頼が来ないかなぁ……暴走した巨大生物の制圧とか、半裸のマッチョなイケメン同士の喧嘩の仲裁とか……なんてね! グヘヘヘ!
「そういえばこの間、彼とデートだったんでしょ。どうだった?」
「実はプロポーズされたんだけど、ムカついたから断ったの。で、後で大喧嘩」
通路を挟んで後ろのボックス席に座る、女性二人の会話が聞こえてきた。一人は大きな赤い一つ目が顔の上半分を占めていて、もう一人はエメラルドグリーン色の肌をしている。
「マジ!? え、何で、どうしたのよ」
一つ目の女性が、ただでさえ大きな目を更に見開き、身を乗り出した。プロポーズされたのはエメラルドグリーンの方らしい。
「だってさ、通行人もいる、ごく普通の歩道のど真ん中でだよ? ムードもへったくれもない!」
「え、確か第6にある遊園地に行ったんだよね? 観覧車の中とか、レストランで夜景見ながらとかじゃなくて?」
「うん、ディナーの後の帰り道で。しかもすぐ後ろはゴミ捨て場」
「えええ……」
「丁度通り掛かった吸血鬼の若い子たちが囃し立ててさ。まあ、あたしが舌打ちしてから断ったら静かになったけど」
「うわ、そりゃ確かに嫌だわ。今後どうするの?」
「未だに謝ってこないし、結婚どころか別れる事になるかも」
──大変だねえ……。
咲良は聞き耳を立てつつ、メニューブックを開いた。パフェでもアイスクリームでも、何かしら甘い物を口に入れたくなってきた。
「そうだったのね……。愚痴ならバンバン聞くし、相談にもガンガン乗るからね!」
「有難う、親友。そういえば、あんたの方はどうなったのよ。ほら、前に合コンで知り合った狼頭のイケメン君」
「ああ、あいつ? マジでカス。私はキープ兼金蔓の一人だったの。いいように利用され続けて、一度拒否したらポイよ」
「嘘! 酷い……!」
──うん、酷いね。血祭りに上げてやらなきゃだよ!
自分だったらどうするか、咲良は脳内で勝手にシミュレーションを始めた。
「まあ、このまま泣き寝入りするつもりはないわよ。今度あいつの職場まで行って、私が受けた仕打ちとあいつの恥ずかしい一面を全部暴露して、社会的にブチ殺してやるつもりでいるから」
「本当に!?」
──マジで!?
パンツ一丁で逆さ吊りにされた狼頭の男は、咲良の脳内で霧散した。
「マジよマジ。私は有言実行の単眼女子だかんね」
──うわぁ見学してぇ~! むしろ参加してぇ~!
「やっぱりリリーだ」
ふいに横から話し掛けられ、咲良ははっと我に返った。
「久し振り。元気してた?」
「わ、カレン姐さん! 久し振りかつ偶然!」
友人かつ密かにライバル視している相手の登場に、咲良は驚きと嬉しさの入り混じった笑顔を浮かべた。
「歩いてたらあんたの姿が見えたからさ。隣、いい?」
「勿論。あれ、今日は紫のローブは着てないんだね」
「あれはクリーニングに出したばっかり。ていうか、毎日着ているわけじゃないからね?」
小柄な店員が来ると、カレンはミックスベリージュースを、咲良は追加でミニサイズのチョコレートパフェを注文した。
「話変わるけど、この間〈ゴモリー広場〉で鬼車がご臨終だったの、あれって姐さんが?」
「ん? ああ~あれか。そうだよ。あのままじゃ犠牲者が出ていただろうから」
「流石! ねえ、いつになったらわたしと魔術勝負してくれるの?」
「ああ、そういえば約束していたね。でも本当にいいの? 私結構強いし、接待モードは備わってないからね」
「それはわたしもだよーん」
先程とは異なる店員がミックスベリージュースを持って来ると、カレンは早速喉を潤した。
「姐さん、また話は変わるけどさ。わたしたちが初めて会ったのって、割と最近だよね?」
「まあ、そうだね。〈歌魔女の森〉の、今はあんたの家に私が訪ねて」
「うーん……」咲良は小首を傾げた。「実はさ、あの時が初めてじゃない気がして」
「何処かで会っているって? まあその可能性はゼロじゃないけだろうけど、こんな巨乳美女を忘れるわけないでしょ~!」
「だよね~! 姐さんだってこんな可憐な美少女忘れるわけないだろうし~!」
咲良とカレンは、これ以上面白い話はないと言わんばかりにケラケラと笑い合った。
当人たちは全く意識していないが、その心底楽しそうな表情は、周辺から見ると何となく似ていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。
戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。
で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる