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第三章
#3-5 悪夢へ一直線
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誰かの悲鳴で飛び起き、野村新太郎は、今まで自分が意識を失って倒れていた事に気付いた。
──えーっと……。
まだぼんやりする頭で記憶を辿る。今日は六堂大道芸のトークショー当日だ。六堂町にはだいぶ早い時間に来た。鈴木が挨拶回りやら何やらで戻って来ない間に、控え室でクソッタレ雑誌のクソッタレランキングに目を通していたが、喉が渇いてきたので、気分転換も兼ね控え室を抜け出した。路地裏の自販機でジュースでも買おうとしていたところを、[にじスト]の李里奈のマネジャーに声を掛けられ、李里奈が待つ場所まで案内すると言うので付いて行き──……
「ううん……?」
何故かその先が全く思い出せなかった。
座った状態のまま周囲を見回す。明かりは点いておらず薄暗く、少々埃っぽい。家具どころか窓も見当たらず、真後ろにドアがあるのみの狭い部屋だ。
「……誰かいるか?」
ドアの外に声を掛けてみたが反応はない。
──そういやさっき、悲鳴が聞こえたんじゃなかったか……?
静けさも相まってか、思い出した途端に急に不安と恐怖に駆られ、落ち着かなくなってきた。
野村は自分の気持ちを誤魔化すかのように勢い良く立ち上がり──よろけたのでそれも誤魔化そうとしたが、誰もいない事を改めて思い出した──小走りでドアに向かった。ドアノブに手を伸ばしかけた時、ふと、ある考えが思い付いたので引っ込め、その場で先程よりもじっくりと部屋内を見回した。
──……何もなさそうだが……。
ドアノブに触れると電流が走り、野村が痛みに声を上げたりビビる姿を、隠しカメラが捉えようとしているのかもしれない──要するに〝ドッキリ企画〟なのではないか、というのが野村の推測だった。しかしこの殺風景過ぎる部屋には、たとえ小型であってもカメラを隠せそうな場所などないようだ。
──それともまさか……誘拐されたのか?
改めてそっとドアノブに手を触れてみたが、これといった問題はなさそうだった。
──あり得るな。何せオレは、日本が誇る偉大なボーカリストだ。
野村は得意げな笑みを浮かべた。
──……いや、誘拐だったら自由に身動き取れないよな。だとするとやっぱりドッキリか。
なるべく音を立てないよう少しだけドアを開け、隙間から廊下をそっと覗く。しんと静まり返っており、室内よりも暗いが、正面の方向から微かに光が漏れていたので、野村は少しだけ安心出来た。
──しかしまだ油断はしねーぞ。よりによって、この頭のいいオレを騙して笑い者にしようなんざ百年早い。
野村は後ろ手にドアを閉めると、光の方へ堂々とした足取りで進んだ──今度は自分自身が何度も悲鳴を上げる事になるとは知らずに。
──えーっと……。
まだぼんやりする頭で記憶を辿る。今日は六堂大道芸のトークショー当日だ。六堂町にはだいぶ早い時間に来た。鈴木が挨拶回りやら何やらで戻って来ない間に、控え室でクソッタレ雑誌のクソッタレランキングに目を通していたが、喉が渇いてきたので、気分転換も兼ね控え室を抜け出した。路地裏の自販機でジュースでも買おうとしていたところを、[にじスト]の李里奈のマネジャーに声を掛けられ、李里奈が待つ場所まで案内すると言うので付いて行き──……
「ううん……?」
何故かその先が全く思い出せなかった。
座った状態のまま周囲を見回す。明かりは点いておらず薄暗く、少々埃っぽい。家具どころか窓も見当たらず、真後ろにドアがあるのみの狭い部屋だ。
「……誰かいるか?」
ドアの外に声を掛けてみたが反応はない。
──そういやさっき、悲鳴が聞こえたんじゃなかったか……?
静けさも相まってか、思い出した途端に急に不安と恐怖に駆られ、落ち着かなくなってきた。
野村は自分の気持ちを誤魔化すかのように勢い良く立ち上がり──よろけたのでそれも誤魔化そうとしたが、誰もいない事を改めて思い出した──小走りでドアに向かった。ドアノブに手を伸ばしかけた時、ふと、ある考えが思い付いたので引っ込め、その場で先程よりもじっくりと部屋内を見回した。
──……何もなさそうだが……。
ドアノブに触れると電流が走り、野村が痛みに声を上げたりビビる姿を、隠しカメラが捉えようとしているのかもしれない──要するに〝ドッキリ企画〟なのではないか、というのが野村の推測だった。しかしこの殺風景過ぎる部屋には、たとえ小型であってもカメラを隠せそうな場所などないようだ。
──それともまさか……誘拐されたのか?
改めてそっとドアノブに手を触れてみたが、これといった問題はなさそうだった。
──あり得るな。何せオレは、日本が誇る偉大なボーカリストだ。
野村は得意げな笑みを浮かべた。
──……いや、誘拐だったら自由に身動き取れないよな。だとするとやっぱりドッキリか。
なるべく音を立てないよう少しだけドアを開け、隙間から廊下をそっと覗く。しんと静まり返っており、室内よりも暗いが、正面の方向から微かに光が漏れていたので、野村は少しだけ安心出来た。
──しかしまだ油断はしねーぞ。よりによって、この頭のいいオレを騙して笑い者にしようなんざ百年早い。
野村は後ろ手にドアを閉めると、光の方へ堂々とした足取りで進んだ──今度は自分自身が何度も悲鳴を上げる事になるとは知らずに。
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