22の愉快なリーディング

園村マリノ

文字の大きさ
上 下
16 / 22

悪魔

しおりを挟む
 もしもし母さん? ぼくだよ、ぼく。いや詐欺じゃなくて本人ね。うん。
 元気してる? そっか、なら良かった。え、勉強? 勿論捗ってるよ。
 
 いやあそれにしても、上京してみてビックリしたよ。いい意味でも悪い意味でも、そりゃもう誘惑の多い事! 流石都会は違うよ。というか、生まれ育ったあの町が田舎過ぎるんだけどさ。
 え? だ~いじょうぶだって! ぼくを誰だと思ってるの? 母さんは相変わらず心配性だなあ。本当に大丈夫だから、ね?

 えっ、また色々送ってくれたの? 有難う! 自炊? まあ、やったりやらなかったりだけど。今回はどんな物を送って……キャベツ、にんじん、トマト、きゅうり、ピーマン……うわあ、健康にいいものばかりだね! 助かる! 

 おっと、母さんごめん。今日は大学の仲間たちと一緒に、図書館で課題する約束してるんだ。そろそろ行かないと、待ち合わせ時間に間に合わなくなっちゃう。
 じゃ、また連絡するからさ。うん。母さんこそ、風邪には気を付けて。父さんにもよろしく。うん。じゃあね、また。


 俺は電話を切ると、大きく息を吐き出した。

 あー、ダリイわマジで。
 なぁーにが、「どう? 真面目に勉学に励んでる?」「変な遊びにハマってなんかいないわよね? まあ、疑っているわけじゃないけれど」だよ、ウゼエんだわババアが。

 俺よりも、勉強が、成績が大切なんだよな。
 俺の夢や望みはとことん否定。体調が悪くてもギリギリまで休ませない。学校でいじめに遭っていると打ち明けても、やれ逃げるなだのいじめっ子には立ち向かえだの、何十年前の熱血教師だよって言葉しか返してこなかった。
 食べさせられるのは、体にいいからって野菜料理ばかり。ハンバーグや餃子でさえ、肉は全然使われていなかった。間食だって、スナック菓子や炭酸飲料の代わりに、野菜スティックに野菜ジュース、そして何種類ものサプリメント。恥ずかしくて家に友達を呼べなかった。

 図書館で課題だなんて、勿論大嘘だ。それどころか、大学自体に真面目に通っちゃいない。まあ、留年しちまったらめんどい事この上ないから、単位はしっかり取得しておくが。

 アンタらが知らない所で、俺がどんな人付き合いして、どんな食生活して、どんな遊びをしているのか……聞かせてやったら、途中で卒倒しちまうかもな。
 まあその前に、なかなか信じようとしねえかもな。だって俺は、ガキの頃から一人称が〝ぼく〟の、親や教師、その他年長者の言う事なら何でも素直に聞く、絵に描いたような優等生君だもんな。マジ笑える。

 俺はやっと解き放たれたんだよ……俺をじわじわと嬲る悪魔共の魔手から! 俺を縛る鎖から!!

 今日も、上京してから出来た友達ダチらと一緒に、夜の街へ繰り出す事になっている。行きつけの店に飽きかけていたところだったが、ダチの一人が新しい店を紹介してくれるらしい。そいつ曰く〝今までと比べ物にならないヤバさ〟だそうだが、この間の乱痴気騒ぎ以上のヤバさってどんなだよ? 

 あの時の最高の気分を思い返しているうちに、まだキメてもないのに徐々にハイになりつつある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...