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禁酒一日目。
今まで何度挑戦し、何度挫折しただろう。
しかし今度は違う! 今度こそ……今度こそきっぱり断つのだと心に決めたのだ、健康のために!
俺には結婚の約束をした、可愛い恋人がいる。彼女も酒呑みだが、俺が酒を断つと宣言したら、「わたしも一緒に頑張る」と言ってくれた! 俺が飲酒の誘惑に負けるという事は、彼女自身を裏切る事にもなる。
絶対に負けるわけにはいかない。
俺はお前に勝ってみせるぜ、アルコール!
しかし喉が渇いたな。ちょっと一杯……いやいやいや! 馬鹿か俺は、何ナチュラルに冷蔵庫からビール缶取り出そうとしてるんだよ!
昨日職場で掃除のおばちゃんから貰った、缶の緑茶で喉を潤そう……。
禁酒一五日目。
二週間続いた! この調子で今後も頑張るぞ。
最近、俺と恋人は互いに仕事が忙しくて、トークアプリのメッセージでやり取りするのが精一杯だ。
〝ちゃんとやれてる?〟
〝おう、頑張ってるぜ。そっちこそどうよ〟
〝わたしを誰だと思ってるの(笑)余裕余裕〟
流石はあいつだな。正直俺は、結構しんどい思いをしているんだが、こりゃあ負けちゃいられねえ。改めて気合いを入れるために一杯……いやいやいや! アホか俺は、何ナチュラルに焼酎を持って来ようとしてるんだよ!
未開封だし、課長にでもやるかな。仕事には厳しいが結構優しいおじさんで、新入社員の時から何かと世話になってるしな。
禁酒三一日目。
ついに一箇月超! 最高記録だ!
おめでとう、俺! お祝いにチューハイでも……いやいやいや! マヌケか俺は、何ナチュラルにコンビニまで行こうとしてるんだよ!
しんどかったなあ……何度誘惑に負けそうになったか。何度禁断症状に苦しんだか。俺が禁酒中だって知ってる癖に、同じ部署の連中がわざと酒の話をしたり、呑みに誘ってくる。マジで性格悪ぃよ、アイツら。
その点、課長は違う。俺の前では酒に関連した話をしないように気を遣ってくれているのがわかる。マジ優しいわこの人。そして申し訳ない……。
最近、恋人と全然会えていない。
トークアプリにメッセージを送っても、なかなか返事が来ないどころか既読になるのも遅い。どうやら仕事がなかなか忙しいらしい。俺の仕事だって忙しい時はかなり忙しいが、話を聞いた限りだとそれ以上みたいだ。体を壊さないか心配だ。
それこそ、呑まなきゃやってられないんじゃないだろうか。
禁酒四〇日目。
もういい、やめたやめた!!
何もかもがどうでも良くなった! 本日をもって禁酒は終了! 今日は飲酒解禁祝いに呑むぞ! 朝から一日中呑みまくるぞ!!
恋人が浮気していやがった。
一昨日の事だ。営業先を全て回り終わった頃にはすっかり夜遅くなっちまっていたから、直帰ついでに最後の営業先から一番近い駅ビルのレストラン街で、夜飯を取る事にした。
その駅ビル最上階のビヤガーデンに、知らないおっさんと二人で並んで、食事しながら酒を酌み交わす恋人がいた。
最初は、職場の上司の付き合いで来ているんだと思った。酒を呑んでいた事に関しては、断り切れなかったか、我慢出来なくなっていたのだろうと思った。正直、俺が最上階まで足を運んだのも、後者が理由だったから。
しかし恋人は、そのおっさんと何か話しているうちに無言になったかと思うと、ゆっくり顔を近付け──ああ、思い出したくもない! 吐きそうだ!
この時の俺は意外にも冷静で、恋人とおっさんの蜜月っぷりをこっそり隠し撮りした。
そして深夜、トークアプリに写真付きのメッセージを送った。
〝これどういう事?〟
昨日一日、彼女からの返信を待った。既読になっているのだから、間違いなく読んでいるはずだ。
待てども待てども返信は来なかった。痺れを切らした俺は、再び彼女にメッセージを送ろうとし、ブロックされている事に気付いた。その後何度か電話を掛けてはみたが、すぐに機械音声のアナウンスが流れてしまう。着信拒否されているようだった。
というわけで! 呑むぞ呑むぞ!
肝臓やら何やらの数値なんて知った事か。
健康志向なんざクソ喰らえだ!!
禁酒一日目。
さあ、今日からまた禁酒開始だ!
自分の健康のため、そしてあの人との約束のためだ。
あの人は、俺が落ち込んでいて仕事に身の入らない状態だと、誰よりも早く気付き、呑みに誘ってくれた。そして呑みの席では、黙って俺の話を聞いてくれた。
俺って情けない男っすよね! と泣き笑い状態で自虐すると、あの人は真顔でかぶりを振り、俺の肩に優しく手を置いた。俺は子供みたいにわんわん泣いた。
帰りのタクシーの中、あの人はぽつぽつと語った。自分は近いうちに会社を辞め、あるマイナーな分野で起業する。家族や友人には反対されているが、昔からの夢を何としてでも叶えたいのだ、と。
そして最後にこうも言った──君さえ良ければ、着いて来てくれないか、と。
着いて行きますとも、課長!!
あなたにはお世話になりっぱなしですし!
マジでいつかは恩返しがしたいと考えていましたからねっ!!
俺が体調を崩してしまい、力になれないどころか心配や迷惑を掛けてしまったら意味がない。
この体、大事にしなくっちゃな。課長の、いや、未来の社長のために!!
今度こそ、絶対に負けるわけにはいかない。
今度こそ、俺はお前に勝ってみせるぜ、アルコール!
そして何より、自分自身にも!!
今まで何度挑戦し、何度挫折しただろう。
しかし今度は違う! 今度こそ……今度こそきっぱり断つのだと心に決めたのだ、健康のために!
俺には結婚の約束をした、可愛い恋人がいる。彼女も酒呑みだが、俺が酒を断つと宣言したら、「わたしも一緒に頑張る」と言ってくれた! 俺が飲酒の誘惑に負けるという事は、彼女自身を裏切る事にもなる。
絶対に負けるわけにはいかない。
俺はお前に勝ってみせるぜ、アルコール!
しかし喉が渇いたな。ちょっと一杯……いやいやいや! 馬鹿か俺は、何ナチュラルに冷蔵庫からビール缶取り出そうとしてるんだよ!
昨日職場で掃除のおばちゃんから貰った、缶の緑茶で喉を潤そう……。
禁酒一五日目。
二週間続いた! この調子で今後も頑張るぞ。
最近、俺と恋人は互いに仕事が忙しくて、トークアプリのメッセージでやり取りするのが精一杯だ。
〝ちゃんとやれてる?〟
〝おう、頑張ってるぜ。そっちこそどうよ〟
〝わたしを誰だと思ってるの(笑)余裕余裕〟
流石はあいつだな。正直俺は、結構しんどい思いをしているんだが、こりゃあ負けちゃいられねえ。改めて気合いを入れるために一杯……いやいやいや! アホか俺は、何ナチュラルに焼酎を持って来ようとしてるんだよ!
未開封だし、課長にでもやるかな。仕事には厳しいが結構優しいおじさんで、新入社員の時から何かと世話になってるしな。
禁酒三一日目。
ついに一箇月超! 最高記録だ!
おめでとう、俺! お祝いにチューハイでも……いやいやいや! マヌケか俺は、何ナチュラルにコンビニまで行こうとしてるんだよ!
しんどかったなあ……何度誘惑に負けそうになったか。何度禁断症状に苦しんだか。俺が禁酒中だって知ってる癖に、同じ部署の連中がわざと酒の話をしたり、呑みに誘ってくる。マジで性格悪ぃよ、アイツら。
その点、課長は違う。俺の前では酒に関連した話をしないように気を遣ってくれているのがわかる。マジ優しいわこの人。そして申し訳ない……。
最近、恋人と全然会えていない。
トークアプリにメッセージを送っても、なかなか返事が来ないどころか既読になるのも遅い。どうやら仕事がなかなか忙しいらしい。俺の仕事だって忙しい時はかなり忙しいが、話を聞いた限りだとそれ以上みたいだ。体を壊さないか心配だ。
それこそ、呑まなきゃやってられないんじゃないだろうか。
禁酒四〇日目。
もういい、やめたやめた!!
何もかもがどうでも良くなった! 本日をもって禁酒は終了! 今日は飲酒解禁祝いに呑むぞ! 朝から一日中呑みまくるぞ!!
恋人が浮気していやがった。
一昨日の事だ。営業先を全て回り終わった頃にはすっかり夜遅くなっちまっていたから、直帰ついでに最後の営業先から一番近い駅ビルのレストラン街で、夜飯を取る事にした。
その駅ビル最上階のビヤガーデンに、知らないおっさんと二人で並んで、食事しながら酒を酌み交わす恋人がいた。
最初は、職場の上司の付き合いで来ているんだと思った。酒を呑んでいた事に関しては、断り切れなかったか、我慢出来なくなっていたのだろうと思った。正直、俺が最上階まで足を運んだのも、後者が理由だったから。
しかし恋人は、そのおっさんと何か話しているうちに無言になったかと思うと、ゆっくり顔を近付け──ああ、思い出したくもない! 吐きそうだ!
この時の俺は意外にも冷静で、恋人とおっさんの蜜月っぷりをこっそり隠し撮りした。
そして深夜、トークアプリに写真付きのメッセージを送った。
〝これどういう事?〟
昨日一日、彼女からの返信を待った。既読になっているのだから、間違いなく読んでいるはずだ。
待てども待てども返信は来なかった。痺れを切らした俺は、再び彼女にメッセージを送ろうとし、ブロックされている事に気付いた。その後何度か電話を掛けてはみたが、すぐに機械音声のアナウンスが流れてしまう。着信拒否されているようだった。
というわけで! 呑むぞ呑むぞ!
肝臓やら何やらの数値なんて知った事か。
健康志向なんざクソ喰らえだ!!
禁酒一日目。
さあ、今日からまた禁酒開始だ!
自分の健康のため、そしてあの人との約束のためだ。
あの人は、俺が落ち込んでいて仕事に身の入らない状態だと、誰よりも早く気付き、呑みに誘ってくれた。そして呑みの席では、黙って俺の話を聞いてくれた。
俺って情けない男っすよね! と泣き笑い状態で自虐すると、あの人は真顔でかぶりを振り、俺の肩に優しく手を置いた。俺は子供みたいにわんわん泣いた。
帰りのタクシーの中、あの人はぽつぽつと語った。自分は近いうちに会社を辞め、あるマイナーな分野で起業する。家族や友人には反対されているが、昔からの夢を何としてでも叶えたいのだ、と。
そして最後にこうも言った──君さえ良ければ、着いて来てくれないか、と。
着いて行きますとも、課長!!
あなたにはお世話になりっぱなしですし!
マジでいつかは恩返しがしたいと考えていましたからねっ!!
俺が体調を崩してしまい、力になれないどころか心配や迷惑を掛けてしまったら意味がない。
この体、大事にしなくっちゃな。課長の、いや、未来の社長のために!!
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