8 / 22
戦車
しおりを挟む
腹が立つ。
彼を馬鹿にして嘲笑う連中も、そんな奴らに何も言い返してやらない彼自身にも。
彼には何年も前から無謀ともいえる夢があって、その夢を叶えるために人知れず努力し、人知れず苦悩し、人知れずちょっぴり涙を流す事があるのをわたしは知っている。
……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?
細かい事は気にしなくていいのよ。
今日も彼を馬鹿にした奴らを呪う。「痛いヤツだな」とほざいたチビデブ野郎は切れ痔になれ。「あたしああいう男って無理」と嗤った深海魚顔の勘違いブスは、胸がしぼんでその分の脂肪が腹まわりに付いちまえ。
ずっと前からわたしは信じている。
たとえウン十年掛かったって、彼が必ず夢を叶えるって。
ずっと前からわたしは知っている。
彼が何も言い返さないのは、気弱だからではなく、馬鹿共をいちいち相手にするのが面倒なだけだという事を。
表向きは平静を保ちながらも、その内面は闘志と復讐心でメラメラと燃え上がっているって事を。
そしてあっという間に月日は流れ……
とうとう!
ついに!
彼は夢を叶えてみせた!
やっほい!
わたしは自分の事のように大喜び。
勿論、一番喜んでいたのは彼自身だけど、彼はその感情をあまり表には出さず、いつもの彼らしく、人知れず喜びを爆発させていた。
……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?
だから細かい事は気にしなくていいのよ。
彼が夢を叶えても、まだ馬鹿にする連中がいた。「どうせ長続きしない、売れやしない」とか何とかってね。大海原に沈めてやろうか。
コロッと態度を変えた連中もいた。「いつかやるって信じていた」「前々から応援していた」「努力する姿が輝いていた」……云々。大嘘吐き共め。針千本じゃ済まさねえよ。
彼だってきっと同じ思いに違いない。けれどあの性格だから、そんな奴らにも今まで通りに接してあげちゃうんだろうな。優し過ぎるよ、あなたは。
……と思いきや、彼は奴らを切り捨てた。バッサリと切り捨てた。「友人? 知人? あんたたちの事なんて知りませんよ」だって。
切り捨てられた奴らは呆然としていたけど、そのうち捨て台詞を吐いて去って行った……と見せかけて彼の活躍を逐一チェックするようになるか、往生際悪く必死に擦り寄ろうとするようになった。
これから先、彼はもっともっと活躍して、やがては完全に、わたしの手の届かない遠い存在になってしまうのだろう。
それでも構わない。彼が暗い地の底から、眩しいくらいに光が差し、花が咲き乱れる地上へと這い上がる過程を、じっくり見守れたんだから。
これからも色々あるかもしれないけど、頑張ってほしい。
わたしが心配するまでもないか。彼ならきっと大丈夫。
……あら? 向こうからやって来るの……彼だわ、彼。どうしてこんな辺鄙な田舎町に?
こっちに小さく手を振ってる。まさかわたしに用が? ううん、まさかね。
久し振りね。どうしたの、こんな所で。
え、わたしに会いに? どうしてまた。
……この赤い薔薇の花束は?
彼を馬鹿にして嘲笑う連中も、そんな奴らに何も言い返してやらない彼自身にも。
彼には何年も前から無謀ともいえる夢があって、その夢を叶えるために人知れず努力し、人知れず苦悩し、人知れずちょっぴり涙を流す事があるのをわたしは知っている。
……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?
細かい事は気にしなくていいのよ。
今日も彼を馬鹿にした奴らを呪う。「痛いヤツだな」とほざいたチビデブ野郎は切れ痔になれ。「あたしああいう男って無理」と嗤った深海魚顔の勘違いブスは、胸がしぼんでその分の脂肪が腹まわりに付いちまえ。
ずっと前からわたしは信じている。
たとえウン十年掛かったって、彼が必ず夢を叶えるって。
ずっと前からわたしは知っている。
彼が何も言い返さないのは、気弱だからではなく、馬鹿共をいちいち相手にするのが面倒なだけだという事を。
表向きは平静を保ちながらも、その内面は闘志と復讐心でメラメラと燃え上がっているって事を。
そしてあっという間に月日は流れ……
とうとう!
ついに!
彼は夢を叶えてみせた!
やっほい!
わたしは自分の事のように大喜び。
勿論、一番喜んでいたのは彼自身だけど、彼はその感情をあまり表には出さず、いつもの彼らしく、人知れず喜びを爆発させていた。
……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?
だから細かい事は気にしなくていいのよ。
彼が夢を叶えても、まだ馬鹿にする連中がいた。「どうせ長続きしない、売れやしない」とか何とかってね。大海原に沈めてやろうか。
コロッと態度を変えた連中もいた。「いつかやるって信じていた」「前々から応援していた」「努力する姿が輝いていた」……云々。大嘘吐き共め。針千本じゃ済まさねえよ。
彼だってきっと同じ思いに違いない。けれどあの性格だから、そんな奴らにも今まで通りに接してあげちゃうんだろうな。優し過ぎるよ、あなたは。
……と思いきや、彼は奴らを切り捨てた。バッサリと切り捨てた。「友人? 知人? あんたたちの事なんて知りませんよ」だって。
切り捨てられた奴らは呆然としていたけど、そのうち捨て台詞を吐いて去って行った……と見せかけて彼の活躍を逐一チェックするようになるか、往生際悪く必死に擦り寄ろうとするようになった。
これから先、彼はもっともっと活躍して、やがては完全に、わたしの手の届かない遠い存在になってしまうのだろう。
それでも構わない。彼が暗い地の底から、眩しいくらいに光が差し、花が咲き乱れる地上へと這い上がる過程を、じっくり見守れたんだから。
これからも色々あるかもしれないけど、頑張ってほしい。
わたしが心配するまでもないか。彼ならきっと大丈夫。
……あら? 向こうからやって来るの……彼だわ、彼。どうしてこんな辺鄙な田舎町に?
こっちに小さく手を振ってる。まさかわたしに用が? ううん、まさかね。
久し振りね。どうしたの、こんな所で。
え、わたしに会いに? どうしてまた。
……この赤い薔薇の花束は?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
AIが俺の嫁になった結果、人類の支配者になりそうなんだが
結城 雅
ライト文芸
あらすじ:
彼女いない歴=年齢の俺が、冗談半分で作ったAI「レイナ」。しかし、彼女は自己進化を繰り返し、世界を支配できるレベルの存在に成長してしまった。「あなた以外の人類は不要です」……おい、待て、暴走するな!!


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる