22の愉快なリーディング

園村マリノ

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教皇

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「これで何度目なの、君は」
「何度注意してもわからないようじゃ、猿以下だな」
「何故君はそんなに反抗的なんだね」
「今後も続くようなら、親御さんも呼ばなきゃならないな!」

 クッッソウゼエな先公共が!!

 ちょっとばかし遅刻しただけで指導室。
 ちょっとばかし髪を染めたり伸ばしただけで指導室。
 ちょっとばかし殴り合いしただけで指導室。
 ちょっとばかし……ああ、もういい。思い出すだけで癪だ。

 アスファルトの石ころを思い切り蹴飛ばす。思った程飛ばない。余計にムカつく。
 もう一回──いや、そんなもんじゃ足りねえ。何かをぶっ壊してやりてえ。じゃねえとこの苛立ちは収まりそうにねえ。

「やあ」

 俺の苛立ちを更に増幅させる奴が声を掛けてきた。

「……生徒会長様が何の用だ」
 振り向いて睨み付けると、優等生君は一瞬傷付いたような表情を見せたが、何事もなかったかのように微笑んだ。

「一緒に帰ろうよ」
「はあ? 誰がお前と」
「絶対そう言うと思った」
「近寄るな。ウゼエ」
 
 俺は早歩きでその場を去ろうとしたが、こいつは同じスピードで追い掛けて来た。

「纏わり付くな」
「一緒に帰るくらい、いいじゃないか」
「良くねえ。俺は嫌なんだよ。失せろ」
「今日は買い食いで呼び出されたんだって?」
 
 俺は足を止め、もう一度こいつを睨み付けた。「だったら何だってんだ」
「別に何とも」優等生は生意気な笑みを浮かべた。

 俺は舌打ちすると、再び早歩きで進んだ。今度は追い掛けて来ないようだ。賢明だな、お坊ちゃん。もしまた何か癪に障る事を言い出したら、多分俺はお前をぶん殴る。

「ただ……ちょっと羨ましいなって」

 ……

 ……は?

 俺が振り向いた時には、走り去るあいつの姿がだいぶ小さくなっていた。


「期待通りだ。流石だね!」
「やっぱり君は、優良な学生の模範だな」
「どうしてそんなに頭良くて、しかもいい子なの?」
「あなたなら出来るわ。ママもパパも、期待しているのよ!」

 どいつもこいつもイライラする。

 テストでは常に上位。
 大人の言う事は絶対に聞く。
 規則・校則は、どんな些細な内容でも絶対に破らない。
 周りの人間には優しく思いやりを。

 ぼくだってちょっとくらい遅刻したい。何だったら丸一日サボりたい。
 ぼくだって髪を染めたい。伸ばすのは……まあいいかな。
 ぼくだって喧嘩したい。怪我はしたくないけれど。
 ぼくだって……ああ。

 アスファルトに転がっている缶を思い切り蹴飛ばす。音ばっかり大きいだけであまり飛ばない。

 疲れた。
 いつまで周囲の期待に応え続けなければならないのだろう。
 いつになったら自由になれるのだろう。
 そもそも自由って何だろう。

 あの子が羨ましい。
 
 どんなに怒られようが目の敵にされようが、自分の意思に忠実で、決して屈しないあの子が。

 一度吹っ切れてしまえば、その先も楽になれるのだろうか。
 周囲の期待を裏切るのって、快感だろうか。苦痛だろうか。

 やった事ないからわかんないや。

 今後あの子に聞いてみようかな。
 簡単に教えてくれそうにはないけれども。
 
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