22の愉快なリーディング

園村マリノ

文字の大きさ
上 下
5 / 22

皇帝

しおりを挟む
 こうして二人で一緒にランチって何年振りだっけ?
 え? 新卒の時以来だから三年……? うわー、もうそんなに経つのか! 怖いわー。時の流れ早くて怖いわー。

 どう? 仕事は。
 えっ、サブリーダーに抜擢された? 凄いじゃない! それじゃあ今日はそのお祝いって事で、この後のあんたのデザート代だけはわたしが払ってあげる! いいのいいの、遠慮しないで! 親友でしょ!

 周りの人たちはどう? 
 へえ、皆いい人たちで、仕事にやる気がある? いいなぁー羨ましい!
 プライベートだって充実でしょ? 彼氏さんとも上手くいってるんだし……あー、顔が赤いぞっ。

 え、わたし?
 いやもう……全然自慢出来る事なんてないよ……つい先週もミスしちゃって営業の先輩に怒られちゃったし。あの野郎、わたしのボールペンやら修正テープやら勝手に使った挙句失くしたりするクセにさ!
 周りもとにかくムカつく奴が多くて、ストレスが溜まる一方よ。チームワーク? 欠片もないわね。
 恋人もいないし……チェッ。

 ムカつきはしないけど苦手なのが、部長かな。
 いっつもムスッとしててさー、冗談もあんまり通じないし、笑った顔なんて見た事あったっけ? 仕事一筋、生き甲斐なんだと思う。四〇代後半で独身らしいけど、わかる気がする。仕事と結婚したようなもんでしょうね。
 陰では〝頑固親父〟とか〝勤勉王〟なんて呼ばれてる。
 え、わたし? わたしは呼んでないよ。苦手だけど嫌いじゃないし。
 
 でもね、そんな部長でも、ちょっとばかし可愛い一面もあるのよ。
 この間ね、見ちゃったのよ……給湯室で牛乳プリンを、とっても幸せそうに食べてるところを! ギャップ萌えってヤツ? アハハ!
 しかももう一つ、テーブルの上のポットの横に草餅も置いてあったわ。最後まで見なかったけど、多分そっちも食べたはずよ。 
 自分の席や食堂で食べないのは、恥ずかしいからよ、絶対。
 でもさ、そういう一面は、堂々と皆に見せてもいいと思うのよね。むしろ見せた方がいいと思うのよ、あの人の場合。
 わたしはそれ以来、苦手意識がちょっとは薄れたけどさ、周りの奴らは知らないだろうし。

 ん? ああ、そうね。そろそろデザート頼みましょ。いやいやだから、遠慮しないで好きなの選んでよ!
 テイクアウト? うん、それも出来るよこの店は。彼氏さんの分? さっすが!

 彼氏さんどんなスイーツが好きなの? 
 色々食べるけど特に牛乳プリンが? だったら丁度いいよ、この店売ってるもん!
 後はどんなもの食べるのよ。和菓子も好きなんだ。へえ、草餅と草団子か! いいねぇー! あんたも和菓子好きだもんね、なかなか相性合ってるじゃなーい! アハハ、また顔赤くして!

 あ、先トイレ行く? どうぞどうぞー。わたしはその間に決めておくから。


 ……ふう。

 いいよなーあの子。ほんと羨ましいわ。

 わたしも欲しいなあ、一緒にスイーツ食べてくれる彼氏。年上じゃなくてもいいけどさ。あと牛乳プリンより普通のプリン、和菓子より洋菓子の方が好きだな、わたしは。
 婚活、とまでいかなくても、真剣に相手を探し始めるかな……。

 ……うん? 待てよ。

 あの子の彼氏、確かあの子より二〇は年上だって、前に聞いたよな。
 
 
 ……いや、まさかね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...