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第4話 縁
04 返信①
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「えー、何年前だったっけ? 雑賀さんが来てたの」
「三年前です」
「そっか、もうそんなになるのか。早いなぁ……」
高校一年時の夏休み、理世は磨陣市内にある小さな商業施設内のリサイクルショップで短期アルバイトをしていた。鈴川はリサイクルショップに隣接する家電量販店の社員だが、リサイクルショップの店員たちとも交流があり、従業員用休憩スペースでかち合うとよく談笑していた。理世自身は人見知りで、リサイクルショップの店員たちと会話するのがやっとだったが、鈴川は度々気さくに話し掛けてきた。
「それで、今日は……」鈴川はマサキを見やった。「お、雑賀さんの彼氏さんかな?」
「い、いえ。今日知り合ったばかりなんです。イベントで……」
「へえーそっか。どうも」
鈴川がにこやかに会釈すると、マサキは僅かに身を引き、小さく頭を下げた。その様子に理世は微かな違和感を覚えた。
「悪いねお邪魔しちゃって。じゃあ、僕はこれで」
「いえ、それじゃあ──」
「あ、そうだ雑賀さん。せっかく偶然会えたんだから、良かったら連絡先教えてください。[MINE]とかやってます?」
「いいですよ」
理世と鈴川が[MINE]のIDを交換する間も、マサキはずっと表情を強張らせていた。
「お待たせー!」
鈴川が去って程なく、まひろとカナデがほぼ同じタイミングで別方向から戻って来た。
「あ、ごめんなさい二人共。席取れてないんです。今ちょっと知り合いに会ったもので」
「いや平気だよ。むしろ気ぃ遣わせちゃったな」
「ん、高橋さんどうしました?」まひろが小首を傾げた。「何かちょっと険しい顔になってる~」
「え、いや別に……」
「うちらが待たせちゃったからかな? ごめんなさい高橋さん、お詫びにクレープ一口どうぞ!」
「い、いやいや大丈夫ですよ」
「イチゴ沢山入ってますよー! ほらほら~!」
「ええっ、いやいやそんな……」
わざとクレープを近付けようとするまひろと何度も遠慮しながら避けるマサキの攻防戦に、理世とカナデは思わず吹き出した。
「今日は有難うございました、っと……」
帰宅後、理世は荷物の片付けはそこそこに、街コンのグループメンバー一人一人に[MINE]でメッセージを送信した。
──何だかんだで楽しかったなあ。
グループでの行動はそこまで盛り上がったわけではなく、ほとんど会話しなかった男性もいた。しかし解散後の四人での行動は、まひろのおかげもあってか予想以上に楽しめた。
──高橋さんから話を聞くタイミングは逃しちゃったけど。
しばらく待っていると、まひろとカナデを含めた数人から返信が届いたが、マサキはまだ既読マークすら付かない。
──後で返信が来たら、改めて聞いてみようかな。
自分も話しておきたい事がある、とマサキは言っていた。理世の予想が正しければ、憑依霊に関する内容だろう。恐らくマサキには、夏頃から理世の元を離れない謎の男の姿が見えていた。
「理世ー、そろそろご飯よ。手伝ってー」部屋の外から母親が呼んだ。
「わかったー、今行く」
スマホを床に置こうとすると、新たにメッセージが届いた。
──あ、鈴川さんだ。
〝雑賀さん、こんばんは! 今日は偶然会ってビックリしましたね。お元気そうで良かったです〟
──先に返信しとこう。
〝こんばんは。連絡有難うございます。本当にビックリでしたね。鈴川さんもお元気そうで良かったです〟
──何かオウム返しみたいになっちゃったけど、いいかな。
送信すると、すぐに既読マークが付いた。
──高橋さんはどうだろう。
マサキとのトーク画面を確認すると、一分前に既読マークが付いていた。このまま返信を待ちたかったが、自分が待たせている人間の存在を思い出すと、今度こそスマホを床に置いた。
「姉ちゃん『ヨシオカート7』やろうよ」
モカが自室の窓際で頬杖を突き、星も見えない真っ暗な空をぼんやり見やりながら物思いに耽っていると、タケルがノックもなしにドアを開けてテレビゲームに誘ってきた。
「……あんた、何回言えば覚えるわけ?」モカはゆっくり振り向きながら呆れたように言った。
「え? ああゴメン」タケルは笑いながらドアをノックした。
「遅いわ」
「ゴメンって。ねえ『ヨシカー』やろ」
「やらない」
「えー、いいじゃん一回だけ」
「友達とオンライン対戦すれば?」
「そう思って[MINE]したけど、カイは家族でファミレスにいるって。ヒロトは既読付かない」
「じゃCPU戦やってろ」
「えー、ケチ!」タケルは口を尖らせた。「ちょっとくらいいいじゃん!」
「姉ちゃんは疲れてんの。色んな意味で」
「色んな意味……職場の意地悪ババア? また何かあったんだ?」
「そ。意地悪糞ババア三人衆」モカは溜め息を吐いた。「悪いけど、今日はほんとに無理」
「ん、わかった」
タケルはドアを閉めようとしたが、思い出したように手を止めた。
「ねえ、理世さん元気だった? この間会ったんでしょ?」
「うん、元気だったよ。大学の友達と街コン行くって言ってた。そういえば今日じゃなかったかな」
「まっままま街コン!?」
「何そんな大声出して。顔も凄い事になってるよ」
「理世さんが街コン……街コン……ダイコン……」
急に元気を無くしたタケルは、ブツブツ言いながらドアを閉めて去っていった。
「何なんだ……」
モカは呟くと、再び夜空を見上げた。街コン帰りの親友に[MINE]で戦果を聞いてみようかとも考えたが、いまいち気分が乗らないのでやめた。
「三年前です」
「そっか、もうそんなになるのか。早いなぁ……」
高校一年時の夏休み、理世は磨陣市内にある小さな商業施設内のリサイクルショップで短期アルバイトをしていた。鈴川はリサイクルショップに隣接する家電量販店の社員だが、リサイクルショップの店員たちとも交流があり、従業員用休憩スペースでかち合うとよく談笑していた。理世自身は人見知りで、リサイクルショップの店員たちと会話するのがやっとだったが、鈴川は度々気さくに話し掛けてきた。
「それで、今日は……」鈴川はマサキを見やった。「お、雑賀さんの彼氏さんかな?」
「い、いえ。今日知り合ったばかりなんです。イベントで……」
「へえーそっか。どうも」
鈴川がにこやかに会釈すると、マサキは僅かに身を引き、小さく頭を下げた。その様子に理世は微かな違和感を覚えた。
「悪いねお邪魔しちゃって。じゃあ、僕はこれで」
「いえ、それじゃあ──」
「あ、そうだ雑賀さん。せっかく偶然会えたんだから、良かったら連絡先教えてください。[MINE]とかやってます?」
「いいですよ」
理世と鈴川が[MINE]のIDを交換する間も、マサキはずっと表情を強張らせていた。
「お待たせー!」
鈴川が去って程なく、まひろとカナデがほぼ同じタイミングで別方向から戻って来た。
「あ、ごめんなさい二人共。席取れてないんです。今ちょっと知り合いに会ったもので」
「いや平気だよ。むしろ気ぃ遣わせちゃったな」
「ん、高橋さんどうしました?」まひろが小首を傾げた。「何かちょっと険しい顔になってる~」
「え、いや別に……」
「うちらが待たせちゃったからかな? ごめんなさい高橋さん、お詫びにクレープ一口どうぞ!」
「い、いやいや大丈夫ですよ」
「イチゴ沢山入ってますよー! ほらほら~!」
「ええっ、いやいやそんな……」
わざとクレープを近付けようとするまひろと何度も遠慮しながら避けるマサキの攻防戦に、理世とカナデは思わず吹き出した。
「今日は有難うございました、っと……」
帰宅後、理世は荷物の片付けはそこそこに、街コンのグループメンバー一人一人に[MINE]でメッセージを送信した。
──何だかんだで楽しかったなあ。
グループでの行動はそこまで盛り上がったわけではなく、ほとんど会話しなかった男性もいた。しかし解散後の四人での行動は、まひろのおかげもあってか予想以上に楽しめた。
──高橋さんから話を聞くタイミングは逃しちゃったけど。
しばらく待っていると、まひろとカナデを含めた数人から返信が届いたが、マサキはまだ既読マークすら付かない。
──後で返信が来たら、改めて聞いてみようかな。
自分も話しておきたい事がある、とマサキは言っていた。理世の予想が正しければ、憑依霊に関する内容だろう。恐らくマサキには、夏頃から理世の元を離れない謎の男の姿が見えていた。
「理世ー、そろそろご飯よ。手伝ってー」部屋の外から母親が呼んだ。
「わかったー、今行く」
スマホを床に置こうとすると、新たにメッセージが届いた。
──あ、鈴川さんだ。
〝雑賀さん、こんばんは! 今日は偶然会ってビックリしましたね。お元気そうで良かったです〟
──先に返信しとこう。
〝こんばんは。連絡有難うございます。本当にビックリでしたね。鈴川さんもお元気そうで良かったです〟
──何かオウム返しみたいになっちゃったけど、いいかな。
送信すると、すぐに既読マークが付いた。
──高橋さんはどうだろう。
マサキとのトーク画面を確認すると、一分前に既読マークが付いていた。このまま返信を待ちたかったが、自分が待たせている人間の存在を思い出すと、今度こそスマホを床に置いた。
「姉ちゃん『ヨシオカート7』やろうよ」
モカが自室の窓際で頬杖を突き、星も見えない真っ暗な空をぼんやり見やりながら物思いに耽っていると、タケルがノックもなしにドアを開けてテレビゲームに誘ってきた。
「……あんた、何回言えば覚えるわけ?」モカはゆっくり振り向きながら呆れたように言った。
「え? ああゴメン」タケルは笑いながらドアをノックした。
「遅いわ」
「ゴメンって。ねえ『ヨシカー』やろ」
「やらない」
「えー、いいじゃん一回だけ」
「友達とオンライン対戦すれば?」
「そう思って[MINE]したけど、カイは家族でファミレスにいるって。ヒロトは既読付かない」
「じゃCPU戦やってろ」
「えー、ケチ!」タケルは口を尖らせた。「ちょっとくらいいいじゃん!」
「姉ちゃんは疲れてんの。色んな意味で」
「色んな意味……職場の意地悪ババア? また何かあったんだ?」
「そ。意地悪糞ババア三人衆」モカは溜め息を吐いた。「悪いけど、今日はほんとに無理」
「ん、わかった」
タケルはドアを閉めようとしたが、思い出したように手を止めた。
「ねえ、理世さん元気だった? この間会ったんでしょ?」
「うん、元気だったよ。大学の友達と街コン行くって言ってた。そういえば今日じゃなかったかな」
「まっままま街コン!?」
「何そんな大声出して。顔も凄い事になってるよ」
「理世さんが街コン……街コン……ダイコン……」
急に元気を無くしたタケルは、ブツブツ言いながらドアを閉めて去っていった。
「何なんだ……」
モカは呟くと、再び夜空を見上げた。街コン帰りの親友に[MINE]で戦果を聞いてみようかとも考えたが、いまいち気分が乗らないのでやめた。
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