商人でいこう!

八神

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「だってほら…作業員達って大変でしょ?少しは労わないと」

「…そうだけど…」

「部長!直ぐに人を集めて下さい!今すぐに作業に取り掛かります!」

「わ、分かった!任せろ!」


現金を目の前にして直接触って実感が湧いたのか男は目の色を変えて部屋から出て行く。


「…すみません、今事務の者をお呼びしますので…この部屋で少々お待ち下さい。では失礼します」

「…なんか一気に忙しそうになったね」

「…現金を見せる事によって作業員のやる気を引き出すなんて…すっごい荒技」


おっさんが頭を下げて部屋を出て行き、残された俺が呟くとお姉さんが驚きながらも嬉しそうな感じで呟く。


「…だが…本当にいいのか?当初のほぼ倍だぞ?」

「…ぅ。そこを突かれると、痛い…でも、経済とか回せるって考えたら…もう後に引けないし…」


おじさんの二度目の確認に俺は、確かに商人としては悪手だったかも…と思いながらも背水の陣を意識して言い訳する。


…値段交渉して少しでも安くするのが普通だしなぁ…


商人が逆に値段を上げて時間短縮を図るための交渉をする、なんて誰もやらないよなぁ…


金に困らないがゆえの感覚麻痺ってマジでヤバいかもしれない。


「あ、お、お待たせしました…」


俺が反省というか自制というか…


自分に若干の危機感を自覚してどうしたものか…と思っているとメガネの若い女が慌てた様子で部屋に入って来た。


「えーと、見積もりの方がですね…あっ!」


手に持った資料をテーブルの上に広げようとしたら手を滑らせたのか全て落とす。


「…大丈夫?」

「あ、ありがとうございます…あっ」


俺が床に落ちた結構な枚数の紙を拾って声をかけて渡すとまた落とした。



「す、すみません…」


こいつおっちょこちょいか?また落とすかも…と思ったので拾った紙をテーブルの上に置く。


「…こちらが、見積書になります」

「ちょっと見せて?」

「…はい」

「…さっきと同じ内容ね。問題無いと思うけど…どう?」


若い女の人が紙を差し出すので中身を確認してからお姉さんに渡したら…何故か内容を見た後におじさんに渡す。


「…俺が見ていいのか?…先ほどの会話でのやり取りをただ文字に書き写したようにしか見えんが…」


おじさんは紙に書かれた材料や作業方法、値段やらを見ながら困惑したように呟く。


…おじさんが若い女の人に返して何故かもう一度見直し、全員で紙の中身を一回確認した後。 


正式な請求書はこれから作成するとのことで俺が出した金は一時預かり金として一旦社内の金庫で保管するらしい。


なんでも…完成した商品の確認をして、依頼主が納得出来るような物に仕上がってから料金を受け取る決まりになってるんだと。


…なんか確認する際に材料の変更の有無で料金も高くなったり安くなったり変動するんだとか。


金が盗まれたらどうすんだ?と思ったが保険がどうこうで盗まれた分の金は会社負担で一旦持ち主に返してから、再度請求…の流れになるんだって。


…世界で活躍する大手企業は色々と面倒な決まりがあって働くには大変そうだ。


「いやー、楽しみだねー」

「うん。その時はまた連れてってね」

「…図面通りに完成するかは分からんが…許容範囲内で収まる事を願うのみだな」


本社の近くの結構有名らしい店で夕飯を食べて子供達へのお土産を買い、帰りの車内で3日後の事を予想しながら話す。


「…でも問題は重さがなぁ…新素材で軽くて丈夫っていっても1t近くあるみたいだし」

「…今乗っているこの車でもそのぐらいの重さだぞ」

「え、うそ。そんな重いの?これで?」


新しい車の重さの心配をするとおじさんが呆れたように現実を教えてくれ、その事実に俺はつい驚いてしまう。


「いつも運んでるコンテナも多分この車の倍ぐらいの重さはあると思うけど…」

「そんなに重い物をドラゴンに運ばせてたんだ…大丈夫かな?」


お姉さんが今知ったの?みたいなリアクションで指摘するので俺は今更ながらドラゴンの心配をする。


「一応騎乗スキルの効果で負荷は軽減されているはずだ」

「あー、そういや前にそんな事聞いたような…」

「称号の中にはそういう効果のものもあるんだって」


かなりベテランの運び屋しか持ってないらしいけど。と、お姉さんが会話の流れからふと思い出したように教えてくれた。
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