クラスまるごと異世界転移

216

「へー…拉致とか誘拐じゃなく、あくまで『深山の意思で』国に戻す方法か」

「ああ。クランチェスターは今大変な事になっている…だからこそ、どんな方法を使ってでも聖女を取り戻したかったんだろう」


俺が意外に思いながら言うと男はあの国の内情を軽く説明した。


「大変な事って…やっぱ友好国の使者を牢屋にぶち込んで証拠隠滅したからか？」

「ソレはダメ押しだ。聖女が居なくなってから国政に関わる貴族達はヤマト教の信者共に未だ類を見ないほどの突き上げをくらっている…そんな中で犯人が現れたんだ、大方その使者を生贄に捧げて一時的に国民感情を抑えようとしたんだろうよ」

「「「ヤマト教？」」」


藤原の問いに男が詳しく説明してくれ、俺らはその話の中のある単語に興味を持つ。


「知らないのか？最近出来た新宗教だ。聖女ミヤマを主として崇めている」

「「「ええー…」」」

「この国では更に聖女サイトウ、聖女スミヨシを加えた三人の『聖女』を主として崇めている。ナデシコ教と呼ばれたりもするが…中身は変わらない」

「「「…ええー…」」」


まさかの内容に俺ら三人のヒいたような呟きが被ると王子が国内での状況を話し、またしても俺ら三人のなんともいえないような呟きが被る。


「…キリスト扱いか…」

「まあ、あのスキルじゃ分からん事も無いけど…」

「それでも生きてる人間を信仰するか？普通」

「現人神ってヤツだな」


俺の呟きに柴田が反応して藤原が呆れたように言うので俺はふと漫画やゲームで得た知識を思い出して返す。


「…なるほど。国に不満を持つヤマト教の信者達の支持を得るために聖女を取り戻す必要があり、そのための脅しの手段として護衛でもある英雄を暗殺しようとした…と言うわけだな？」

「ああ。その通りだ」


王子が今までの話の内容を纏めるように話して確認を取ると男は認めて頷く。


「…深山の影響力すげーな」

「そりゃ無料で病気や怪我を治してくれんだから崇拝されてもおかしくなくね？」

「でも流石に宗教立ち上げまで行くとやべーだろ。本人の意思とは関係ねー事を勝手に代弁されてやらかされたらたまったモンじゃねーし」


俺の呟きに柴田が納得するように返すと藤原は現実的な問題を予想して危惧するように言う。


「確かに。挙げ句の果てに深山を拉致監禁とかして教祖とかに組織を悪用されたら目も当てられねーな」

「「ソレは無い」」


柴田の最悪を想定した予想に王子と男の否定の言葉が被る。


「あ？分かんねーだろ」

「ヤマト教の信者には凄腕の冒険者も多い。中には現役の段位持ちや引退した高段者達も居ると聞く。もし聖女の名を悪用しようものならそいつらが黙ってはいまい」

「現在このドロウィンでも国民のほとんどがナデシコ教の信者となっている。聖女ミヤマが一般人とも距離が近い事は既に全世界周知の事実…名を悪用する前に本人に確認されるであろうリスクを考えれば悪巧みすら難しいだろう」

「…もはや聖女っつーより女神だな」

「だな」


男と王子の話を聞いて藤原が呆れたように呟くので俺も同意した。