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青年期 230

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…その後。


分身のお姉さんがこの大公国と帝国との戦争の総指揮を執る総司令官に任命され…


大公国の兵士達と魔法協会所属の魔法使い達の指揮を執る事に。


「…私よりも坊ちゃんが向いてると思うんですけど…」

「立場とか肩書きが俺とは違うからね。仕方ない」

「どうせあたし達はいつも通り動くんだから誰が司令官で誰が将軍だろうと関係無いと思うんだけど」

「それもそうですね」


…宿屋での分身のお姉さんの呟きに分身の俺が笑いながら返すと分身の女性も笑って返し、分身のお姉さんは納得したように言う。


「…帝国の拠点近くにいる軍を集めて布陣させるとしても完了するのが三日後って言ってたから…それまで観光でもして時間を潰そうか」

「そうですね」

「…こんな状況だと観光を楽しむとかそんな気分にはなれないけど…まあ戦いの前のリフレッシュだと思えばいいか」


分身の俺が地図を広げながら情報を整理して予定を話すと分身のお姉さんが賛同し、分身の女性は微妙な顔で若干否定的に言うも気持ちを切り替えたように了承する。


そして三日後。


海岸に完成した帝国の拠点から少し離れた位置に大公国の兵士達が陣営を設営し終えたようなので分身の俺らもソコヘ向かう。 


「…どうやらココにいる兵士達は二万ほどらしいですね」

「…敵の兵士4万に対してコッチは約半分か…まあ兵士のほとんどが国民の避難誘導にあたってるんだからこれだけ集まっただけでもありがたいかな」


分身の俺は分身のお姉さんから陣営に集まった兵士の数を聞いて敵との戦力差について触れるも、まあこれだけいれば十分だろう…と思って話を切り上げる。


「さて、兵はどれくらい必要?」

「5000で十分」

「じゃあ残りの一万五千は俺が貰うよ?」

「ああ」


分身の俺が分身の女性に尋ねるとこの前と同じ数で良いらしく、分身の俺の確認に肯定するのでとりあえず兵士達を集めて部隊を編成する事にした。



…翌日。


「よし行くぞ!出撃だ!」

「「「おおー!!」」」


まだ日が昇る前の薄暗い時間から兵を集め、分身の俺は号令をかけて戦場へと移動する。




ーーーー




「…お。どうやら敵もやる気のようだ」


約二時間ほどかけて帝国の拠点へと向かうとその前の方で敵が拠点から出て布陣しているのが見えた。


「んじゃ、ちょっと行って来る」

「分かりました。お気をつけて」


分身の俺はいつものように名乗りを上げるため、味方の兵に合図をして馬を走らせ敵陣へと向かう。


「…やーやー!我こそはラスタより援軍に参った猟兵隊の団長であり、こたびの戦の前線司令である!このまま戦ってもお互いに兵と時間を消耗するだけ!なのでその手間を省くためにそちらの大将との一騎打ちを申し入れる!」


そして敵陣に近づきながら大声で名乗りを上げて一騎打ちを提案する。


が、やはり返事は無く…矢も飛んで来なければ騎兵や歩兵の突撃も無い。


「…返事はいかに!」


5分ほどその場で待機して返答を催促するように叫ぶもやはり敵陣に動きは無かった。


「…ん?げっ!」


このまま居てもしょうがないし、戻るか…と馬を反転させるとパン!という大きな音が聞こえて来たので後ろを見ると…


火縄銃だかショットガンだか猟銃だかの銃を構えた兵士達が最前列で地面に片膝を着いて分身の俺を狙っている。


「やべっ!」


分身の俺が馬を撃たれる前に走らせて逃げるとパン!パン!と連続した発射音…銃撃が聞こえて来たが、運良く分身の俺にも馬にも当たる事なく離脱出来た。


「退避ー!退避ー!一旦撤退する!俺が殿を務めるから慌てずに陣営まで撤退しろ!」


…流石に鉄砲を相手に歩兵や騎兵で突撃しても損害が増えるだけで勝ち目も薄いので…


分身の俺は交戦する前に作戦を練り直すため、一旦兵士達全員に撤退を命令する。


「…ほう…?」


味方の兵士達が背中を向けて撤退する中、敵軍は全く動かず様子見をしていて…


結局兵士達がその場から完全に離れた後も敵は動きを見せず、分身の俺も陣営へと戻った。


「お帰りなさい。何があったんですか?坊ちゃんが交戦前に撤退するなんて…」


…分身の俺が陣営に戻ると分身のお姉さんが分身の女性と一緒に出迎えた後に心配そうに尋ねてくる。


「敵が銃を持っていた。あのまま知らずに戦ってたら俺らは普通に負けてただろうね」

「「じゅう?」」


分身の俺の報告に分身のお姉さんと女性が不思議そうな顔で聞き返す。


「『鉄砲』っていう弓矢に近い…中、遠距離用の筒型の武器。矢の代わりにこれぐらいの小さい鉄の塊を高速で飛ばして相手を殺傷する」


分身の俺は単語を言い換えた後になるべく分かりやすく簡単に説明した。


「…筒型って…吹き矢みたいなもんかい?」

「そう。先生は一回弾を見た事あるでしょ?俺が学生時代の世界戦の時に相手が使ってたアレ」

「…学生時代…?…世界戦の時……あ!もしかして坊ちゃんの頭に当たってたっていうあの鉄ですか?」


分身の女性が身近な物に例えて聞くので分身の俺は指を差して肯定し、分身のお姉さんに昔の話を持ち出すと少し考えて思い出したように確認してくる。


「ソレ。敵はアレを量産して数を揃えてきたみたい。…そりゃ、剣や槍と弓矢の戦場に鉄砲を配備すれば全戦全勝は余裕だろうな…」

「…で、どうするんだい?」


分身の俺は撤退した理由を話した後に呆れながら皮肉混じりに呟き、分身の女性がこの後の事を尋ねた。


「一旦近くの町まで退却する、このまま戦っても全滅する可能性が高いからね。まあとりあえず対策はあるけど…今使えるものじゃないし」

「…分かった」


分身の俺が予定を告げると分身の女性は納得いかなそうな顔をするも一応了承する。
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