上 下
144 / 480

青年期 80

しおりを挟む
「…ああ…もったいない…」

「しょうがないよ」

「…そうですね」


俺が心臓抜きした魔石を握り潰して自分の魔力の回復にあてると分身のお姉さんが残念そうに呟くが…


どのみち事前にある程度のダメージを与えていたせいで直ぐに魔素に分解されるので、諦めさせるようにそう返すと分身のお姉さんは理解してるように肯定する。


「まあでもコレでやっと余裕が出てきた」

「グッ…!」

「ガッ…!」

「ギュ…!」


魔石による過剰回復で一時的に本来の半分まで魔力が一気に回復し、俺は逃げるのをやめて並行変化と部分変化を使って追って来た二体のオルトロスと鳳凰を一蹴した。


「うふふ…一つの魔石と引き換えに三つの魔石…!」

「毎回毎回よくそんな喜べるね」

「そりゃ坊ちゃんにはそこらに落ちてる小石程度にすぎない価値なんでしょうけど…私達には宝石よりも価値がある物なんですよ!」


…魔石三つを手に喜ぶ分身のお姉さんに俺が不思議に思いながら言うと力説するように返してくる。


「それでも毎週のように貰ってたらありがたみも薄れない?」

「全然!全く!ありえません!」

「そ、そう…?」


俺の問いに分身のお姉さんは首を横に振って力いっぱい否定するので俺は若干ヒきながら返す。


…そんなこんなダンジョンを進んで下層に潜っていくと…


「お!」

「…紫色のスライム…?」


とても珍しい魔物を発見したので俺が声を上げると分身のお姉さんは珍しそうに見ながら呟いた。


「あ。アレ気をつけてね。アレの体液は俺でも骨だけになるから」

「え!?」


分身のお姉さんが近づこうとするので俺が注意を促すと驚愕して俺を見た。


「もしかして見るの初めてだった?」

「…はい。ですがソレは坊ちゃんも同じでは…?」


俺の問いに分身のお姉さんは不思議そうに…納得いかなそうに尋ねてくる。


「あー、じゃあ学生時代の時か…俺は二回だけ見た事ある。今回で三回目だね」

「…毎週ダンジョンに行ってるのにたったの三回なんですね…」

「それだけ珍しいスライムって事だよ。上級者用のダンジョン以外では見た事無いし」

「じゃあ出現に魔素が関係する…?」


俺が思い出すように予想すると分身のお姉さんはなんとも言えないような微妙な顔で呟き、俺の説明に予想するように返す。


「多分。でも紫がいるって事は…最下層には黒色がいるかも」

「黒…ですか?」

「そうそう。ソレの体液は俺でも貫手突っ込んだら骨も残らず一瞬で溶けて無くなる」

「えっ!?」


俺の予想に分身のお姉さんは不思議そうに返し、体験談を基にした説明をすると驚愕された。


「痛みを感じる間も無く一瞬で消えるからね。いやー、右手と腕が無くなった時は何が起きたか理解するのに数秒かかったよ」

「いやいやいや!ええっ!?それは笑い事で済まないと思いますけど!」


俺が笑いながら失敗談を話すと分身のお姉さんは驚きながらツッコミをかます。


「まあでも紫のおかげでその後直ぐに把握出来たから大事には至らなかったし」

「そうなんですか?でもそれじゃあ魔石は取れなそうですね…」


俺の話を聞いて分身のお姉さんはホッとしたように返し、残念そうに呟くので…


「いや?取れるよ。……ほら」

「ぎゃー!!坊ちゃん手が!!」


俺が否定しながら紫色のスライムに近づき…


貫手を突き刺して中の魔石を掴んで抜き取ると白骨化みたいに骨だけになった俺の右手と右腕を見て分身のお姉さんが悲鳴を上げ、慌てて回復魔法を使う。


「…!?治らない…!なんで…!?」

「ははは、流石に骨の状態じゃあ回復魔法でも無理でしょ」

「いや笑ってる場合じゃないですって!!どうするんですか!!」


凄腕の使い手であるお姉さんの分身が使う回復魔法でさえ俺の右手と右腕は骨のまま。


その様子に分身のお姉さんが愕然としたように呟くので俺が笑って理由を話すと分身のお姉さんが怒りながら叱るように叫ぶ。


「というかなんでこの状態でそんなに余裕なんですか!?分かってます?今の坊ちゃんはいつもみたいに分身じゃないんですよ!?」


死んだらお終いなんですよ!?と、何故か分身のお姉さんは涙目になって怒ったように俺に詰め寄ってくる。


「まあまあ落ち着いて…」

「これが落ち着いていられるわけ……!?」


俺が宥めるように言うも食ってかかられたので、とりあえず変化魔法を使って部分変化でスライム化させて右腕を元に戻した。


「え!?戻った!?」

「そりゃ普通に戻せるよ。じゃないと俺が未だに五体満足なのおかしくない?」

「……確かに。………少々、取り乱したようで…申し訳ありません…」


驚愕する分身のお姉さんに俺が笑いながら言うと少し固まった後に納得し、恥ずかしさからか顔を隠してその場にしゃがみながらボソボソと小声で謝る。


「心配してくれてありがと。嬉しいよ」

「…いえ…私なんかには…もったいないお言葉です…」


流石に弄れるような空気じゃないので適当に喜びそうな事を言うとまたしてもボソボソ呟き…


分身のお姉さんは気を取り直したのか直ぐに立ち上がった。


「…あっ、この魔石…なるほど!前に大量の魔石を渡された時、スライムの魔石の中にあり得ないぐらい凄く質の高い魔石が混じってると思ったら…この紫色のスライムのだったんですね…!なるほどー!」


そして魔石を見ると長年の疑問が解けたかのようなスッキリした感じではしゃぎ出す。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

処理中です...