子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神

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青年期 32

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…翌朝。


「…来ますかね?」

「普通に考えたら来ないだろうが…」


日が昇る前のまだ辺りが暗い時間に一番目の砦内で俺が尋ねると青年は予想を話すように呟く。


「…ヴォードル様!敵の砦の方向から敵兵が!」

「数は?」

「単騎のようです!」

「…マジで来たんだ…」

「手出しは無用。武装を確認し、非武装ならばココまで案内せよ」

「はっ!」


正規兵の報告に青年が確認すると兵が報告を続けるので俺が驚きながら呟くと青年は指示を出した。


「…ただの嫌がらせのつもりだったのだが…どうやら肝の座った厄介な相手のようだ」

「『申し出を受けるなら司令官が単騎で返事に来い』と、書かれていたら怒って破り捨てそうなものですが…」

「しかし君なら出向くだろう?」

「もちろんです。ソレで捕虜を引き渡してくれるのなら」

「ふっ…相手も同じ考えやもしれんな」


意外そうに、嫌そうに呟いた青年に賛同するように昨日の手紙の一部を挙げて予想を告げると、青年はニヤリと笑って尋ねるので俺が肯定するとまたしても笑いながら言う。


「…お連れしました!」

「ご苦労。下がれ」

「はっ!」


10分もしない内に鎧を着けた男性が兵に連れて来られ、青年は労いの言葉かけて命令する。


「…単身ココまで出向いて来るとは素晴らしい度胸だ。捕虜の引き渡しとその条件に了承したと受け取ろう」

「…ありがたい話だ。だがそこまでの余裕を見せつけているといずれ足元をすくわれるぞ」

「こちらの心配なら結構だ。今回の引き渡しはこちらの総司令官殿が決めた事なのだから」


青年と男性はまるで駆け引きでもするようにバチバチに言い合いながら青年が俺を手で示した。


「…なんだと?ヴォードル辺境伯、貴様が兵を束ねていたのでは無いのか?」

「昨日まではそうだ。だが今日より彼が我々の指揮を執る事になっている」

「お手柔らかにお願いします」


驚きながら不審がる男性に青年が牽制するような感じで説明するので俺は余裕の態度で笑いながら手を振る。


「ほう?これはとんだ面白い試みだ…我々を舐めているのかね?こんなどこの馬の骨とも分からぬ若造に重大な国境の争奪戦を任せるとは…」

「はっはっは!果たしてこの戦いが終わった後も同じ事が言えますかな?いやあ楽しみだ」


男性は意外そうに呟いた後に敵意剥き出しで俺を睨みながら言うので青年が声を上げて笑い、煽るように返す。


「…なるほど、よほど信頼の置ける人物のようだ。ならば我々も全霊をもって全力で叩き潰すとしよう」

「ははは、まあまあそんな殺気立たないで…とりあえずお近付きの印としてコレを」


男性がめっちゃ殺気を出しながら俺を睨んでくるので俺は受け流すように笑い…


空間魔法の施されたポーチから紙に包まれたチーズバーガーを二個取り出して青年と男性に差し出した。


「…コレは?」

「なんだソレは」

「朝食。お腹空いてるでしょう?『腹が減っては戦は出来ない』と言うし」


食べ物を受け取った青年が不思議そうに…受け取らなかった男性が不審そうに尋ねるので俺はそう説明する。


「朝食だと?敵から出されたそんな得体の知れない物を食べるとでも思っているのか?」

「俺の実家が経営してる飲食店では結構人気なのに…まあ、新作だからまだメニューには載ってないんだけどね」

「ほう?君の実家というと…そう言えば去年あたりに予約を取りはしたがまだ順番は回って来ないな」


男性の信じられない…といった様子での言葉に俺が残念に思いながら返すと青年が嬉しそうな様子で食べ物を見た。


「…そちらの物であれば食べてやっても構わん」

「ふっ…ではどうぞ」


男性は流石に気になったのか青年が持ってる物を指差すので青年は笑って食べ物を渡す。


「ではこちらを」

「うむ……ほう?見た目は変わったサンドイッチのようだが…」


俺がもう一つの食べ物を渡したら青年はすぐさま包み紙を開けて中身を見ると意外そうに呟く。


「出来れば肉やチーズが冷める前に食べるのがよろしいかと」

「では早速………っ!美味い!なんだこの味は!濃厚な肉の…!チーズも!そして野菜も丁度良い味を…!」


俺の催促に青年が一口食べて驚きながら食レポ的な事を言い出した。


「……っ!これは…!!」


男性も訝しみながらも少しかじると驚いたように一気にガブガブ食べ始める。


「ふ、ふふふ…これは予約の順番が回って来るのがより楽しみになってきたな」

「ありがとうございます」

「…もっとないのか?」


青年は紙を丸めるとそこらにポイ捨てして笑いながら言うので俺がお礼を言うと男性が確認してきた。


「あと一つあるけど…喧嘩にならないよう半分ずつね。本当は俺の朝食だったのに」

「…すまない。ありがたくいただこう」

「気遣い痛み入る」


俺があと一つのチーズバーガーを取り出した後に半分に割って二人に渡すと、青年だけじゃなく男性まで下手に出て軽く頭を下げながら受け取る。


「…しかしこのような極上の味ともなると…素材は、まさか…!」

「お察しの通り魔物の肉。バイソンの肉はチーズと相性が良くてね」

「『バイスォン』の肉!なるほど、こんな味なのか…魔物の肉と言えば『ダチョー』や『グリーズベアー』が一般的だが…」

「ダチョーの干し肉は携帯食の中でも最高級だ…我が国でも貴重品として高値で取り引きされている」


男性の驚きながらの予想に俺が答えると青年が豆知識的な事を言い出し、男性も賛同した。


「干し肉や燻製肉、熟成肉にしても美味しいけど生肉を薄く切っての刺身とかも美味しいよ。やっぱり新鮮な肉の旨味が直接味わえるのは、ね…」

「そのような食べ方もあるか…」

「…もし手に入れる機会があれば試してみるか…」


俺が他の食べ方を教えて感想を言うと青年は興味深そうに呟き、男性も同意するように腕を組みながら頷く。
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