上 下
82 / 480

青年期 18

しおりを挟む
「…さて…」


敵兵達が混乱して逃げようとする中、俺は敵大将に刺さってる剣を抜いて変化魔法をかけ…


一旦スライム化させた後に傷口を塞ぎ、変化魔法を解除して止血した。


「おい!誰か!まだ息があるぞ!連れてけ!」

「なんだって!?おい!」

「せめて…!」


俺の指示に敵兵達が味方の兵達よりも早く敵大将に近づくと馬に乗せて急いで撤退して行く。


…俺が一騎打ちに勝利した事で敵兵達が武器を捨てて逃げに徹するので…


味方の兵達は俺の指示通り包囲を解き、敵兵達が一目散に退却して行く様を見送る。


「いえーい!敵は国境から完全に撤退したから俺らの完全勝利だ!!やったぜ!」

「そうか!」
「そうだな!」
「確かに!」


…敵兵達の姿が完全に見えなくなったところで俺がもう一度勝利を大声で報せると、味方の兵達はワー!ワー!と喜び合って騒がしくなった。


その夜。


宿屋でお姉さんと夕飯を食べていると兵士がやって来て…侯爵からの呼び出しをくらう。


「…こんばんは。お呼びですか?」


デカい家まで出向くとメイドに部屋まで案内されたので俺はドアをノックした後に部屋に入りながら挨拶して用件を尋ねる。


「来たか…報告を聞いたぞ。良くやった。敵を国境まで追い返すどころか完全撤退させたそうじゃないか」


…おっさんは仕事が忙しいのか相変わらず机の上には大量の書類が乗っており、貴族としては有り得ないような…


フォークで刺した肉を食べ、食事をしながら書類にサインをして、更に俺に話しかけてきた。


「…ありがとうございます」

「どうやらお前に全ての兵の指揮権を与えた私の判断は間違ってなかったようだな。予想以上の戦果だ、素晴らしい」

「はあ…」


俺が忙しそうだな…と大変そうに思いながらお礼を言うとおっさんは更に褒めてくる。


「しかしなぜ一騎打ちを?形勢は既に決まっていたにも関わらずわざわざ受けたと聞く。更に何故敵兵を逃した?」


が、おっさんは急に表情を変えて厳しい顔で問い詰めるように…責めるような感じで尋ねてくるので…


「味方の被害を最小限に抑えるため、ですね」

「ほう?」


俺が理由を話すと今度は興味深そうな表情に変わった。


「報告を聞いたのであれば状況を把握しているとは思いますが…あのまま包囲を続けていればいずれ敵は死兵と化して攻めに転じたでしょう。敵将と共に死に物狂いで包囲を突破して逃した可能性もありました」


俺の説明におっさんは食事や書類作業を止め、腕を組んで目を瞑りながら静かに聞く。


「そうなれば味方の死傷者も増え、敵方の生き残りに怨みを植え付ける事になるので次の戦いの時に厄介になります」

「…なるほど。味方の損害を減らすためにわざと逃した…と?」

「はい。それと敵の大将を生かして返す事で次までの準備期間を延ばせるかと」

「…次も考えての事か…分かった。報告ご苦労だったな」


俺が続きを話すと確認を取ってくるので肯定しながら補足するとおっさんは頷きながら呟いて労いの言葉を言う。


「あ、最後に」

「なんだ?」

「敵が捨てて行った武器の回収もさせてありますので少しは備品代の節約にもなってるかもしれません」

「ふ…ははは!面白い!あの戦場においてそこまで考えが回るとはな!流石はゼルハイト家の子息といったところか!」


俺はまだ言ってなかった事を告げるとおっさんが笑いながらなぜか関係ない実家を評価するような事を言い出した。


「どうだ?ウチの騎士団に入らんか?お前ほどの腕なら即騎士団長補佐にでもなれるぞ?」

「…大変ありがたい申し出ですが…今の自分はハンター兼傭兵ですので…」

「そうか…」


まさかの勧誘に俺がやんわりと断るとおっさんは残念そうにアッサリと引き下がる。


「まあ…なんだ。気が変わったらいつでも声をかけてくれ。悪いようにはせんからな」

「ありがとうございます。その折は是非よろしくお願いします。…では」

「うむ。今回の報酬は期待していいぞ」


おっさんの気を遣ったような言葉に俺はお礼と社交辞令を言ってから帰るために挨拶をすると…


おっさんは笑いながら返してくるので俺も笑って軽く頭を下げながら部屋を出て宿屋へと戻った。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...