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学生期 弐 17

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…その後、嫌な予想通りの展開になってしまい相手は西側の角の方で守備陣形を取ったままずっと待機していた。


なので俺は西側の先輩達と合流して、東側に居た先輩が回り込んだのを確認し…


西の端から蜂矢の陣で無理やり突っ込んでリーダーを狙う作戦に。


「…お」


本陣が突っ込むと同時にリーダーである俺一人、元の場所へと避難するためにのんびり歩いて逃げていると終了の合図である笛の音が。


…どうやら誰かが守備陣形を抜いてリーダーを倒す事に成功したらしい。


「チッ…俺達の活躍は無しか」

「相手の半分ほどを釘付けにはしましたけどね」

「ゼルハイト、貴様図ったな?俺を除け者にするとは良い度胸だな。ええ?」


東側から回り込んで相手本陣の近くで待機していた先輩は戻ってくると俺らが勝ったのにも関わらず、何故か不満そうに俺を責めてくる。


「今回はたまたま相手が西側に布陣しただけで、東側だったら先輩達が大活躍だったんですけどね。文句なら西側に行った相手に言って下さいよ」

「…ふん、貴様の指示などに従った俺が馬鹿だったわ」


俺の言い訳に先輩は自分だけ直接手柄を立てられなかったのが不満なのか嫌味を返す。


「ゼルハイト貴様…!俺達を捨て石にして自分だけ安全地帯に避難するとは随分と良い身分じゃないか!」

「捨て石というか捨て身の策ですね。一応リーダーの俺が乱戦でやられたら元も子もないんで」

「どちらにせよだ!本来なら貴様が先陣切って敵に突っ込む立場なのだぞ!」

「リーダーじゃなければそうですね。次からリーダー変えます?」

「チッ…!次からは貴様の指示は聞かんぞ!」


…初戦に見事勝利したと言うのにみんな勝ち方が気に入らなかったのか戻ってくると不満をぶつけてきた。


が、俺は次から作戦考えたり指示しなくて良いんなら責任も無いしラッキー。と思いながら黙って聞き流す。



その翌日。



グループ戦第二試合の会場は別の町らしく馬車に乗って移動する事に。


…するとホテルの部屋に入って10分もしない内に部屋のドアがノックされる。


「…はい」

「ゼルハイト様ですね?来客がいらしてますが…」


俺がドアを開けると従業員が名前を確認して用件を告げてきた。


「来客?」

「はい。フロントの方でお待ちしております。では」


俺の問いに従業員は来客が待ってる場所を教えると頭を下げてどこかへと歩いて行く。


「来客ねぇ…」


こんな外国に俺の知り合いが居るハズも無いので俺は警戒しながらも一応お姉さんの部屋へと向かう。


「あれ?坊ちゃん早いですね」


…部屋の前に着くと丁度良いタイミングでお姉さんが出て来た。


「ごめん、観光に行くのはちょっと遅れるかも。なんか俺に来客が来てるんだって」

「…来客、ですか?こんな所に?」

「みたい。ちょっと会ってくる」


俺が謝りながら所用が出来た事を告げると驚いたような感じで不思議そうに尋ねてくるので俺は肯定して一階のフロントへと移動する。


「でも誰なんでしょうね?…まさかシャサラ様だったりして…」

「まさか。母さんがわざわざこんな所に来るワケないじゃん」

「ですよねー…じゃあお父上、とか?」

「余計にありえない」


後ろからついて来るお姉さんの予想を否定すると笑いながら今度は絶対に無さそうな予想をするので俺は一蹴するように否定した。



「ん?」

「坊ちゃま!お久しゅうございます!」

「老師!?」

「なんでココに!?」


フロントに着くと元家庭教師のおじさんが俺を見て嬉しそうに挨拶しながら近づいてくるので、 俺とお姉さんはあまりの予想外の人物に驚きながら尋ねる。


「坊ちゃまが世界戦の代表者に選ばれたとの事で隣国の方から応援に参りました」

「…へー…じゃあ今はその国に居るんだ」

「はい。故郷の魔法協会の方で研究や、空いた時間で事務作業などを手伝っております」


おじさんが訪ねて来た理由を話すので俺が意外に思いながら聞くと故郷での現状を話してくれた。


「そうなんだ」

「この前は坊ちゃまの生家、ゼルハイト家が人災に遭われたそうで…」

「あー…魔法協会側も大変だったみたいだね」

「いえ、被害に遭われたゼルハイト家に比べれば…元々は我々魔法協会側の落ち度ですので」


おじさんが謝るかのように頭を下げながらこの前の事を言い出し、俺が思い出すように返すとおじさんは詫びるように言う。


「まあ一応俺には知らされてない事になってて、弟とか妹も口止めされてたみたいだからあんまり影響は無かったんだよね」


だから俺に言われても…と、俺は笑いながら当時の俺の状況を説明した。


「それに私の方からも話してますし」

「…そうでしたか。そういえばこの前の未曾有の魔石確保の件もアーシェ殿の成果でしたな」


お姉さんも笑いながら言うとおじさんも笑って頷いて褒めるかのように返す。


「アレは私もびっくりしましたよ。魔石がまるで砂利のように袋に大量に詰められてたんですよ?しかもそんな袋が大量に…坊っちゃんには悪いですが、私、夢か幻かと疑っちゃいました」

「坊ちゃまが学生になった…と聞いてからは『学業に専念してるからダンジョンの方には行く余裕が無いんだろうな』と思ってましたが…いやはや、私の認識は甘かったようですな」

「ははは…老師達のおかげで学業の方は余裕がありまくりなんだ」

「坊ちゃん授業はずっとサボってますもんね」


お姉さんの話におじさんが思い出話をするように返すので、俺が困ったように笑いながら言い訳的な感じで話すと…


お姉さんはニヤニヤ笑って弄るように言う。


「授業を…?」

「あ。ずっと立ち話するのもなんだし…俺の部屋に行こうか」

「あ…そうですね」

「分かりました。お邪魔させていただきます」


おじさんが驚いたように俺を見ながら尋ねるので俺は話題を逸らすように場所の移動を提案してホテルの自室へと戻る事に。
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