40 / 480
学生期 弐 8
しおりを挟む「ギ…!」
「…そろそろかな」
「次の階層に進みますか?」
6体目のゴブリンを倒した後に頃合いを図って呟くとお姉さんが魔石や素材を回収しながら尋ねた。
「いや…そろそろ武器を使おうかな、って」
「武器…ですか?」
俺が否定しながら剣を取り出すとお姉さんは意外そうに驚く。
「うん。素手はあくまで最終手段であって、本来なら武器を使って戦うのが当たり前だからね」
「…でも坊ちゃんは素手の方が強くないですか?武器を使うと逆に弱体化するような…」
「『能ある鷹は爪を隠す』って言うし…まあ見た目と同じで実力を隠すための擬態や偽装だよ」
「なるほど…!流石坊ちゃん!」
俺の説明に不思議そうに聞くお姉さんに理由を話すと納得して褒めてくる。
「でも坊ちゃんはどういう武器を使うんですか?」
「今のところ剣と槍と弓を練習中」
お姉さんが好奇心で聞いてくるので俺は剣を腰に差し、矢筒を背負いながら答えた。
「近距離、中距離、遠距離のバランス型ですね」
「うん。薙刀とかもいいかな…と思ったけど『それならハルバードでいいや』って」
「…というか…一気に持つんですか?」
話しながら弓と細身の槍を取り出して背負うとお姉さんが驚いたように聞く。
「その方が全距離対応できるでしょ?咄嗟の時は素手でいいし」
「…確かに、そうですが…」
俺の返答にお姉さんはなんとも言えないような顔で返す。
「ちなみにこの槍はこのボタンを押しながら上に突くと小さくなる」
「あ、凄い!」
俺が槍の変形ギミックを見せるために一番後ろに付いてる小さな突起を親指で押しながらコンパクトにしたら、お姉さんは予想通り驚いてくれる。
「使う時はまたボタンを押しながら振ると…」
「へー!便利な武器もあるんですね!」
「携帯には便利だけど…この変形機構のせいで耐久性が弱いからあんまり売れてないらしいよ」
「なるほど…」
小さくなった槍を伸ばすとお姉さんが意外そうに言うので欠点を伝えると納得した。
「一応紐を付けたら空間魔法とのコンボで投げる事もできる」
「なるほど…でもその分出し入れする手間がかかりますね」
「うん。だからコンマを争うような時には使えないね」
俺が実際に紐を付けて山なりに投げ、地面に刺さった槍を回収するとお姉さんは欠点を分析してくるので俺は緊急時には使えない事を告げる。
「まあでも弓があれば槍を投げる事なんてなさそうですし」
「それもそうだ」
お姉さんの笑いながらの指摘に俺も笑いながら同意した。
「いた」
「…あ」
ゴブリンを発見して直ぐに俺が弓を構えて矢を放つと見事に頭に命中して貫通し、ゴブリンの姿が消える。
「坊ちゃん弓矢もお上手ですね!」
「学校でもたまに練習してるから。でも最初の方は酷かったよ…真っ直ぐ飛ばないし、的に当たらないのなんのって…」
落ちた矢と素材を回収するとお姉さんが拍手して褒めるので俺はドヤ顔で返し、その後に半年以上前の事を思い出しながら苦労話をするように呟く。
「まあ最初の方は誰だってそんなもんですよ」
「だよね。…いた」
お姉さんのフォローに同意しながら返して更に発見したゴブリンも弓矢で倒した。
「…弓で倒すと早くて楽なんですが、魔石が落ちないのが残念ですね」
「まあソコはしょうがないよ」
第二階層に降りてる最中にお姉さんが残念そうに笑いながら言うので俺は気持ちを切り替えるように返す。
…そして第二階層の通路を進んで小部屋のような少し広い空間に出ると…
「あ」
「お」
なんとグリーズベアーが4体も同じ空間に居るではないか。
「ちょうどいいや。ラッキー」
「ラッキーって…」
俺が喜びながら槍を伸ばし、魔物に向かって歩き出すとお姉さんは心配したように不安そうに呟いた。
「グアア!」「グオオ!」「グアア!」
「ははは」
近づいてきた俺に三体のグリーズベアーが立ち上がって威嚇しながら吠えるので俺は余裕で笑いながら槍を構える。
「グアッ!」
「グオォ!」
グリーズベアーが二体、俺を両側から挟んで腕を振るいながら爪で激しく引っ掻いてくるが…
服がどんどん破けていくだけで俺の肌にはかすり傷一つ付いてない。
「…す、凄い…!」
「まずは一匹」
その様子を見たお姉さんが驚きながら呟き、俺はグリーズベアーの心臓に狙いすました槍を突き刺す。
「ガッ…!」
「二匹目」
「カッ…!」
そして槍の刃が心臓まで達して倒れたグリーズベアーに背を向け、俺は剣を抜いて隣の魔物の心臓へと突き刺した。
「ガアア!!…カッ…!」
「三匹目」
不用意に俺に近づいて立ち上がって腕を振るグリーズベアーに弓を強く引いて矢を放ち、心臓を貫通させて倒しながら俺は数を数える。
「グアア!!…ガ…!」
「ラスト、っと」
最後のグリーズベアーは威嚇しながら立ち上がるので無防備な心臓めがけて貫手を突き刺し、その心臓を抜き取って倒した。
85
お気に入りに追加
1,045
あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる