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少年期 7

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「あっ!」


…スライムから素材や魔石を効率的に取りながら進んでいると、第三階層の階段の前にダチョウのような魔物の姿が。


「アレは…『ダチョー』ですね。本来なら四階層以下にしか居ないはずの魔物ですが…なぜこんな浅い階層に…?」


おじさんは魔物の名前を教えてくれた後に不思議そうに呟く。


「ダチョウ?」

「強靭な脚力と底知れぬ持久力を持つ魔物です。体格の大きさの割に非常に素早く、蹴り技が強力な上に体力も多く厄介な魔物ですよ」


俺が名前を確認するとおじさんは魔物についての説明を始める。


「戦う場合は脚だけではなく、くちばしにも注意が必要です。腕や脚に噛み付いて浮かしてからの蹴り…という連携技も使って来ますので」

「…なるほど」

「戦闘時においては知恵が回る魔物ですが、それ以外では決して頭が良いとは言えませんので先手も取りやすく付け入る隙は多い方です。例えば戦ってる最中でも動きを止めれば戦いが終わったと勘違いして背を向けますし」

「ありがとうございます」


おじさんから魔物について教えてもらったので俺はとりあえず戦ってみる事にした。


「…グエッ!?」


魔物が背を向けてる時に走って距離を詰め、先手を取った俺はジャンプして背中に乗りながら両手で思いっきり長い首を絞める。


「グアァ!!」


ダチョウは首を絞められたまま頭を振り回し、首を掴んでる俺も当然激しく振り回され…


「坊ちゃん!」


その様子を見ながらお姉さんが心配したように叫ぶ。


「いてっ…いてっ」

「グエェ…」


二回ほど壁に叩きつけられたがそれでも力を緩めず首を絞めてると一分としない内にダチョウが力尽きて倒れ、姿が消えた。


「大丈夫ですか!?」

「うん。スライムの時と比べたら全然」


お姉さんが心配しながら駆け寄ってくるので俺はあの腕が灼かれる激痛に比べれば無傷みたいなもんだ…と思いながら返す。


「…あっ!魔石!」

「…あれ?肉?」


お姉さんの指差した先を見ると四角形の大きめのキューブのような石と爪、そして羽とブロック状の生肉が落ちている。


「ほう…生肉が残るとは珍しい…坊ちゃま、生肉が残った場合は直ぐに水で洗いながし、トレイなどの容器に入れる事です。地面に置いたままだと直ぐさま魔素に分解されますのでお気をつけて」


おじさんはそう説明しながら拾い上げた肉に水筒の水をかけて大きいタッパーのような容器に入れた。


「ダチョーの肉は塩に付けて乾燥させると非常食や携帯食として重宝される。なので高値で売れますよ」

「なるほど」

「では第三階層に行きましょうか」


男の豆知識のような説明を聞いていると素材を回収し終わったお姉さんが階段を降りるよう促してくる。


「第三階層には『コボルト』がいます。ゴブリンよりも身体が大きく、鋭い爪や牙が無い分武器を使い人間のような戦い方をする魔物ですね」

「コボルト…」

「ゴブリンのように仲間意識が強く、ゴブリンとは違って仲間同士との連携行動を取りますので、複数に囲まれてしまうと熟練のハンターでさえ遅れを取るそうです。なので仲間を呼ばれる前に速やかに撃破した方がよろしいかと」

「分かりました」


おじさんが魔物の説明をしてくれるので俺は用心するように返した。


「…その前にコレを」

「あ、はい」


お姉さんはダチョウの爪を削った粉と水筒を渡してくるので俺はソレを受け取り、口の中に入れて飲み込む。


「ダチョーの脚力と持久力は重宝しますよ。背中に人を乗せて走る事も出来ますからね」

「…あ、そっか。流石は老師。戦闘以外にも応用が効くなんて考えもしませんでした」

「…アレは…!」


おじさんが変化魔法の応用を教えてくれるので俺は目から鱗…!と、おじさんを褒めるとお姉さんが何かに気づく。


「アレは…『グリーズベアー』?なぜこの第三階層に…?第六階層以下にしか居ないのでは…?」

「…やっぱり何かありますね。アレはおそらく今の坊ちゃんでも危ないと思います。迂回しましょう」


おじさんの驚きながらの呟きにお姉さんが危険を察知したかのように提案した。


「しかし、迂回した先や第四階層に居ないとも限らないぞ?」

「ではもう帰りますか。戦果は十分過ぎるほどですし」


男が最悪の事態を予想しながら言うとお姉さんは早々に諦めたような事を言い出す。


「…そんなに強いのですか?」

「ええ。ハンターの初心者や駆け出しではまず歯が立たず相手になりません。グリーズベアーの毛皮は頑丈で厚く、下手な武器では傷一つ付けられない上に厚い脂肪が衝撃を吸収するので打撃も効果的ではございません」


俺の確認におじさんは魔物の危険性を話し始める。


「腕力も強く、大きく頑丈な鋭い爪での一振りは安物なら金属製の鎧ですら容易く切り裂くほどです。しかも四足歩行での走る速さもかなりのもの…直線で追いかけられるとまず逃げ切れない、という話もありますし」

「なるほど」

「ね?帰りましょ」


おじさんが魔物について話し終えるとお姉さんは帰還を促してきた。


「今の俺でどこまで出来るのか…挑戦してみます!」

「「「え!?」」」


俺の宣言におじさん、お姉さん、男が驚くが俺は無視して魔物の所へと歩く。


「ぼ、坊ちゃん待って下さい!無茶ですって!丸腰の無防備状態で戦える相手じゃありません!せめて装備を整えてから…!」

「大丈夫、それより逃げる準備をお願いします。もし勝てないと悟ったら直ぐに逃げますので」

「…分かりました」


焦りながら引き留めてくるお姉さんにそうお願いすると渋々引き下がってくれる。


「…うわー…でけー…」

「ガウアー!」

「おっと」


魔物に近づくと2mを軽く超すその大きさに流石にビビりながら呟いたら、グリーズベアーが先手を取って腕の薙ぎ払いをしてくるが俺は屈んで避けた。


「えいっ!」


そしてその隙を突いて心臓の部分に貫手を食らわせるも毛皮に止められ…


「…なにっ」

「ガアッ!」


それ以上食い込むような手応えが無いのでソレに驚いたらグリーズベアーがもう片方の手を振ってくる。


「おおう…」


咄嗟に後ろに下がって避けるも完全には避けきれなかったようで、肩から胸にかけて4本の線が通った。


「坊ちゃん!!」

「…このレベルはまだ無理か」


傷が深くはないが浅くもない状態で結構な量の血が流れ出すとお姉さんが心配したように叫ぶので、俺は現状を把握しながら呟き…


変化魔法を使って一部スライム化して直ぐに元に戻る。


「傷が…治った!?」

「いえ、アレはおそらくスライムの癒着の特性を活かして止血しただけ。見た目は治ってるように見えてもソレは表面上に過ぎず、痛みは続いたままでしょう。激しく動けば傷口は再び開くはず…」

「…そんな事が…?」

「しかし、アレならばおそらく千切れた手足だって繋げる事が出来る…上位のスライムでさえ稀にしか見せない幻の特性をなぜあのような歳の子供が理解しているのか…一体どこで…?」


驚くお姉さんにおじさんも驚きながら解説すると男も驚きながら確認し、おじさんは訝しむように首を傾げた。
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