上 下
7 / 480

少年期 3

しおりを挟む
「…さて坊っちゃま、魔物の素材を二つ手に入れたようですので…これより変化魔法の真髄をお教え致しましょう」 

「『変化魔法の真髄』…ですか?」

「はい。魔物変化の技を習得する方法は二つあります。一つは魔物の知識や理解を深めて変化をモノにする方法…坊っちゃまにいつもしている講義の事ですな」


おじさんの発言に俺が尋ねるように聞くとさっそく説明を始めた。


「もう一つは魔物の素材を体内に取り込む事、です。この方法がもっとも簡単に魔物変化の技を習得する方法でございます」

「…体内に取り込むって…食べるって事ですか?コレを?」


おじさんが二つ目の方法を話すので俺はゴブリンの爪や牙を見ながら確認する。


「その通りです。ですがそのままでは困難ですのでコレを使います」

「ヤスリ…?」

「この紙をお持ち下さい」

「はい」


おじさんは爪を磨くヤスリのような棒と薬包紙を取り出して薬包紙を渡してくるので言われるがまま持つと…


その薬包紙の上でゴブリンの爪をヤスリで削って粉末状にしていく。


「ではコレを舐めるも飲むもお好きに」

「舐めるだけでもいいの?」

「はい。少量でも体内に入ればよろしいので」


おじさんが少し溜まった粉を見てヤスリを片付けながら言うので俺が確認すると肯定して軽く説明した。


「じゃあ…」

「坊ちゃん、水です」

「ありがとう」


粉を口の中に入れるとお姉さんが水筒を渡してくるので俺はありがたく受け取って粉と一緒に飲んだ。


「コレで坊ちゃまはゴブリンに変化できるようになったはずです。念のため服は変化して戻った後に着た方がよろしいかと」

「では…」


おじさんの言葉を聞いて俺は実際に変化魔法を使ってみる事に。


「ああ…!坊ちゃんが…ただの醜いゴブリンに…!!」

「へー。ゴブリンってこんな感じなんだ…」


変化は徐々に…ではなくパッと全身が変化するみたいでゴブリンになるとお姉さんが嘆くように俺の服で顔を隠すが…


俺は特に気にせずに低くなったゴブリンの視線に懐かしさを感じていた。


「…確かに身軽って感じはする」

「…やはり変化魔法は危険だな…どこからどう見てもただの魔物にしか見えん…」

「坊ちゃん!誰か来る前に早くお戻り下さい!」


俺がピョンピョンとジャンプしながらゴブリンの身体能力を確かめていると男が眉間に皺を寄せながら呟き、お姉さんは焦りながら催促する。


「戻る時もあっという間なんだ」

「服です」

「ありがと」


変化魔法を解いて元の姿に戻るとお姉さんが服を渡してくるので俺はお礼を言いながら服を着る。


「…でもこんな簡単に変化魔法が使えるようになるんですね」

「はい、素材さえ手に入ればどんな魔物にでも変化できるようになります。ただし…身の丈に合わない強さを持つ魔物に変化すると精神が乗っ取られてしまいますが」

「えっ!!?」


俺の意外に思いながらの発言におじさんは笑って肯定すると、急に真剣な表情になって変化魔法の危険性を注意してきた。


「と言っても直ぐに…という事もありませんのでご安心下さい。魔物に成るには必ず兆候や段階がありますので、ソコに気をつけていれば大丈夫です」

「そうなんですか?」

「はい。魔物化するには必ず4度目と決まっていますので、三回まで猶予があり…時間を置けば精神汚染がリセットされてまた三回までの猶予が復活します」


おじさんが俺の不安を払拭するように言うので本当かどうかを聞くと魔物化についてを説明してくれる。


「しかし!精神汚染がリセットされる期間には個人差があります。私と同門の親友はたまたまドラゴンの牙のカケラを手に入れ、ドラゴンに変化できるようになりましたが…精神汚染がリセットされるのに一年かかると言ってましたから」

「…一年…という事は一年に三回しか使えない、という事ですか?」

「いえ。三度目の後に一年です。一回目や二回目には精神汚染がありませんので当然リセット期間も無いのです」


おじさんは実例を挙げて危険性を話すので俺が確認すると否定して厳しい現実を告げた。


「つまり即三回使って一年に三度か…」

「その親友である友人は才能溢れる天才でしたので、その危険性に気づくとすぐに変化魔法を手放し何事も起きずに済みましたが…」

「…毎年魔物化する魔法使いは出ますもんね…それが変化魔法が忌避されて使い手が少なくなってる原因でもありますけど」


男が予想しながら呟くとおじさんは親友の英断を話し、お姉さんがなんとも言えない表情で最悪の事態に陥った魔法使いの末路を話す。


「私のその親友はこう言ってました『身に余る力を持てば必ず身を滅ぼす結果に繋がる』と。強い力を持つとソレを使いたくなるのが人間の性ですから…」


坊ちゃまは気をつけて下さいね。と、おじさんは優しく微笑んで諭すように釘を刺してくる。


「…その身に余る力と言うのはどうやったら分かるんですか?」

「簡単です。その魔物に変化したら直ぐに分かりますよ。説明するまでもなく、精神に変化をきたしますので」

「という事は…危ないと思ったらその魔物への変化はやめた方がいい、って事ですね?」

「もちろんです。扱えるレベルになるまでは使わない方が最善ですね」

「分かりました。肝に銘じておきます」


俺の問いに珍しくおじさんが曖昧で適当な感じでふんわりした事を返すので確認すると頷かれ、俺は最悪の事態にならないよう気をつける宣言をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...