上 下
2 / 480

幼少期 2

しおりを挟む
…そして翌日。


「リデック君。君に来客が来てますが…」

「来客?」



外でみんなと遊んでいたら院長が声をかけてくるので不思議そうに返すと…


「なんでも子爵夫人であるシャサラ様に雇われたとか」

「!家庭教師!僕の家庭教師です!」



院長は来客から聞いたであろう事情を話してくるので俺は昨日の事を思い出してそう返した。


「初めまして、リデック坊ちゃん。私はアーシェと申します。回復術師をやっています」

「リデックです。よろしくお願いします」


急いで建物の中の応接室に行くと若いお姉さんが俺を見て自己紹介すると頭を下げるので、俺も自分の自己紹介をして頭を下げる。


「早速ですが、修行を始めてもよろしいですか?」

「えーと…シャサラ様からは『治療を行うように』と言われてますが…」


俺の確認にお姉さんは困惑した様子で返す。


「リデック!外出します!」

「はい。あまり危ない事はせずに夕飯までには帰って来て下さいね?」

「分かりました!」

「あっ!リデック様!」


困惑するお姉さんをよそに俺は院長に報告して許可を得たので街の外へと向かって走るとお姉さんは慌ててついてくる。


「…こんな所でなにを?」


…街の外のひらけた場所へと移動するとお姉さんが周りを見ながら尋ねた。


「これから部位鍛錬をしたいと思います」

「部位…鍛錬…?なんですかソレ?」

「空手家は自分の体を痛めつけて硬く強くすると言います。武器が壊れた時に頼りになるのは己の身体のみ。 なので部位鍛錬の修行をします!」

「…はぁ…からてか…?」


俺が修行の内容を告げてもお姉さんは不思議そうに聞くので理由を話すがイマイチ理解出来てないように呟く。


「えいっ!」

「あっ!」


とりあえず修行を開始しよう…と、岩を思いっきり殴るとお姉さんが驚いたように声を上げた。


「うっ…!いたーい!治してー!」


岩を殴った拳が折れたのかヒビが入っただけで済んだのか分からないが…


俺はその激痛に耐えきれず泣きながらお姉さんにお願いする。


「もう!何してるんですか!」

「…痛くない…」

「岩を殴ったら痛いのは当たり前じゃないですか!」


お姉さんは怒ったようにすぐさま回復魔法で手を治してくれ、俺が驚きながら手を見て呟くと説教するように注意してきた。


「えいっ!いたーい!うわーん!アーシェー!」

「だから!今注意したばかりなのになんで直ぐに同じ過ちを繰り返すんですか!」


もう一度岩を思いっきり殴りつけるとやはり拳に激痛が走り、痛みで泣きながらお姉さんの名前を呼ぶと怒りながらも回復魔法を使ってくれる。


「ぐすっ…えい!」
「ダメです!」


俺が鼻水をすすって三度岩を思いっきり殴ろうとしたら今度はお姉さんが制止するよう抑えつけてきた。


「離して!」

「ダメです!なんでこんな危険な事をするんですか!もっと自分の身体を大事にして下さい!」


拘束を解こうともがくも子供の力では女と言えど歳上には敵わないようで…力づくで抑え込まれながら説得される。


「…分かった」

「分かって下さいましたか?」

「うん。でもこの方法は変えない」

「なっ…!」


俺が大人しくするとお姉さんが離れながら聞くのでそう返すと驚愕したように絶句した。


「人の体の仕組みは、傷ついた時に余分に治すように出来てるんだって」

「…確かにかさぶたとかは傷口よりも大きく出来ますけど…ソレとコレとなんの関係があるんですか?」


部位鍛錬をする理由を話すとお姉さんは俺の知識に賛同しつつも若干怒ってるように聞く。


「骨も傷ついて治る事でちょっとずつ硬くなっていくかもしれない」

「ですが……だからといってこんな危険な真似は止めてください。リデック様は子爵家の跡取りなのですよ?」

「僕…俺はそのために回復魔法を使える人を呼んだんだ!危険も無茶も分かった上で!」

「…分かりました」


尚も止めようと説得してくるお姉さんに、俺が呼んだ理由を話すとため息を吐いて折れたように返す。


「ですが、私が魔力を使い果たして魔法を使えなくなったら止めてもらいますからね?」

「うん!元からそのつもりだし!ていっ!痛い!アーシェ!」

「はいはい」


どうやら条件付きで納得して貰えたようなので今度は左手で岩を思いっきり殴り、痛みで涙を出しながら回復魔法で直してもらう。




ーーーーーー





「…坊ちゃん、コレで最後です」


…夕方になる頃、お姉さんはそう報告して回復魔法を使ってくれた。


「では終わりですね。帰りましょう」

「うん」


これ以上の修行の続行は無理だと考え、俺はお姉さんと一緒に孤児院へと戻る。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。どうでしたか?」

「上手くいきそうです」

「そうですか。それは良かった」



孤児院に帰ると院長が出迎えながら確認するので好感触である事を告げると院長は優しく微笑んで言い…


「では坊ちゃん、また明日の朝来ますね」

「うん!これからよろしく!」


お姉さんは別れの挨拶をするので俺も挨拶を返して手を振った。


そして孤児院で筋トレしての翌日。


「うーん…うーん…」

「リデック君、家庭教師が来てますよ」

「分かりました。ありがとうございます」


調子に乗って無茶な筋トレをしたせいで全身が筋肉痛に襲われ…ベッドから出られずにいると、院長がお姉さんの訪問を告げるのでお礼の言葉を返す。


「…坊ちゃん!?どうしたのですか!?」

「筋肉痛で…身体が痛くて、動けない…」

「はぁ…昨日の無茶が効いたんじゃないんですか?」


お姉さんがやって来るとベッドの上から動けずにいる俺を見て慌てたように駆け寄って来るが、理由を話すと安堵の息を吐いた後に呆れたように言って回復魔法を使ってくれる。


「あっ…ありがとう。じゃあ行こうか」

「はい」


痛みが消えたので俺はベッドから出て修行場所へと移動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。 俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない! 魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...