1 / 2
序盤
斎藤
しおりを挟む
カレンダーは7月に入って少し経った頃。蝉が鳴き始めると一気に暑さを感じるようになる。時刻は午後12時15分を回ったとこ。昼時で行き交う人も多い。俺も仕事で入っている現場の端っこでコンビニ飯を広げている。
「なぁー。俺昨日スロットで5000枚出したんやけどな」
横から話しかけてきた男は同じ会社で働く斎藤。俺の先輩に当たる人物だが、問題も多い。先日も煽ってきた車に対してビール瓶を投げつけていたと聞いた。あくまでも聞いた話ではあるがこの男にはこの手の話が尽きないので恐らく本当だろう。
「オイ、聞いてるか?スロットで…」
聞こえていないと思ったのかムッとした表情で同じ話を繰り返す斎藤。
「あ、すみません。5000枚って10万くらいですか?やっぱセンスありますねぇ!」
興味ない話だが無視をするわけにもいかないので適当に話を合わせてやり過ごそう。そんな風に考えていたが次に斎藤が口にした言葉は適当に合わせるにはまだ俺の人生経験が足りていなかった。
「そやろ?それでな、臨時収入も入ったから久しぶりに大麻買おうと思ってるねん。もう2か月吸うてないわ。」
さきほどの不機嫌な顔はどこにいったのか。もう歯を見せて幸せそうな顔をしている。だが、そんな事はどうでもいい。俺は動揺を隠して斎藤に聞いた。
「大麻ってあの大麻ですか?マリファナってやつ。違法でしょ?こんな田舎で売ってるとこあるんですか?」
確かにメディアでは、若者の間で流行っている。とかSNS上で売買されている。なんて言ってるのを耳にしたことはある。だがメディアから流れてくる情報なんて自分には非日常的で関係ないと思っていた。そもそもSNSはやっているが普通の人は大麻なんて調べようと思わない。
「お前、遅れてるなぁ!パソコン得意やったやん!今はネットで買う時代やぞ!ちょっと見てみろや。」
パソコンが得意なのと大麻事情に詳しい事はまったくもって関係がないでしょ。とは思ったが何も言わず俺の顔の前で揺らしている斎藤のスマホ画面を覗き込んだ。
「え?これ野菜って書いてますけど。しかも6000円って高くないですか?」
斎藤が見せてきた画面には野菜、ハイグレード、手押しなどの言葉が並んでいるだけで大麻という言葉はどこにも見当たらない。だが、''ただ''の野菜には釣り合わないこのぶっ飛んだ値段設定で「あぁこれが大麻か」と悟ることができた。
「この野菜ってのが大麻なわけよ!ハイグレードは上物ってことで、手押しってのはな、指定した場所で金とネタを交換すること。SNS上で気に入ったネタ見つけたらこのアプリでメッセージ飛ばしたらってきてくれるで。」
斎藤も話している内に興奮してきたのか鼻の穴を膨らませながらSNSでの売買について豪語している。どうやら、斎藤の話を整理するとSNS上で隠語で大麻を検索をする。検索で表示された売人に消えるメッセージアプリでメッセージを送る。そうすると指定した場所まで持ってきてくれるらしい。そこで現金と交換するのだそうだ。消えるメッセージアプリを使う理由は万が一売り手や買い手のどちらかが逮捕されても売買の証拠は消えているのでリスクを少しでも減らす為らしい。まじまじとスマホの画面を凝視する俺に斎藤が口を開いた。
「てかお前大麻に興味あるんやなぁ!よっしゃ分かった!」
何が分かったのか分からないが、斎藤は満面の笑みだった。…まぁ見透かされるくらい前のめりで話を聞いていたのは事実だ。苦笑いする俺に斎藤がまた驚きの言葉を放った。
「ほな今日極上の一品吸わせたるわ!お世話になっとるプッシャーがおるねん!」
これでもかというくらいのドヤ顔で右手の親指を突き出してくる斎藤には苛立ったがさすがに興味があるだけならまだしも、自分が大麻を吸うというのはありえない話なのである。
「いや、さすがに自分が吸うのはちょっと…さすがに勇気ないですね…。」
勇気があるとか無いとかの問題じゃないことくらい分かっているが、上手い返しが思いつかなかった。と、いうよりも斎藤の話す大麻の魅力に引き付けられている自分が居たことは事実だ。
「まぁ気持ちは分かるで。初めは皆そうや!ほな、吸うか吸わんかは今決めんでええやん!1回俺が吸っとるとこ見て決めたらええねん!」
悪い奴が薬物の道に誘う常套句だな。なんて思ったけど誰かが「それくらいならいいんじゃない?」と言っている気がした。多分俺の心の声だと思う。
「分かりました。」と答えてからは一日中足元がフワフワしていた。
「なぁー。俺昨日スロットで5000枚出したんやけどな」
横から話しかけてきた男は同じ会社で働く斎藤。俺の先輩に当たる人物だが、問題も多い。先日も煽ってきた車に対してビール瓶を投げつけていたと聞いた。あくまでも聞いた話ではあるがこの男にはこの手の話が尽きないので恐らく本当だろう。
「オイ、聞いてるか?スロットで…」
聞こえていないと思ったのかムッとした表情で同じ話を繰り返す斎藤。
「あ、すみません。5000枚って10万くらいですか?やっぱセンスありますねぇ!」
興味ない話だが無視をするわけにもいかないので適当に話を合わせてやり過ごそう。そんな風に考えていたが次に斎藤が口にした言葉は適当に合わせるにはまだ俺の人生経験が足りていなかった。
「そやろ?それでな、臨時収入も入ったから久しぶりに大麻買おうと思ってるねん。もう2か月吸うてないわ。」
さきほどの不機嫌な顔はどこにいったのか。もう歯を見せて幸せそうな顔をしている。だが、そんな事はどうでもいい。俺は動揺を隠して斎藤に聞いた。
「大麻ってあの大麻ですか?マリファナってやつ。違法でしょ?こんな田舎で売ってるとこあるんですか?」
確かにメディアでは、若者の間で流行っている。とかSNS上で売買されている。なんて言ってるのを耳にしたことはある。だがメディアから流れてくる情報なんて自分には非日常的で関係ないと思っていた。そもそもSNSはやっているが普通の人は大麻なんて調べようと思わない。
「お前、遅れてるなぁ!パソコン得意やったやん!今はネットで買う時代やぞ!ちょっと見てみろや。」
パソコンが得意なのと大麻事情に詳しい事はまったくもって関係がないでしょ。とは思ったが何も言わず俺の顔の前で揺らしている斎藤のスマホ画面を覗き込んだ。
「え?これ野菜って書いてますけど。しかも6000円って高くないですか?」
斎藤が見せてきた画面には野菜、ハイグレード、手押しなどの言葉が並んでいるだけで大麻という言葉はどこにも見当たらない。だが、''ただ''の野菜には釣り合わないこのぶっ飛んだ値段設定で「あぁこれが大麻か」と悟ることができた。
「この野菜ってのが大麻なわけよ!ハイグレードは上物ってことで、手押しってのはな、指定した場所で金とネタを交換すること。SNS上で気に入ったネタ見つけたらこのアプリでメッセージ飛ばしたらってきてくれるで。」
斎藤も話している内に興奮してきたのか鼻の穴を膨らませながらSNSでの売買について豪語している。どうやら、斎藤の話を整理するとSNS上で隠語で大麻を検索をする。検索で表示された売人に消えるメッセージアプリでメッセージを送る。そうすると指定した場所まで持ってきてくれるらしい。そこで現金と交換するのだそうだ。消えるメッセージアプリを使う理由は万が一売り手や買い手のどちらかが逮捕されても売買の証拠は消えているのでリスクを少しでも減らす為らしい。まじまじとスマホの画面を凝視する俺に斎藤が口を開いた。
「てかお前大麻に興味あるんやなぁ!よっしゃ分かった!」
何が分かったのか分からないが、斎藤は満面の笑みだった。…まぁ見透かされるくらい前のめりで話を聞いていたのは事実だ。苦笑いする俺に斎藤がまた驚きの言葉を放った。
「ほな今日極上の一品吸わせたるわ!お世話になっとるプッシャーがおるねん!」
これでもかというくらいのドヤ顔で右手の親指を突き出してくる斎藤には苛立ったがさすがに興味があるだけならまだしも、自分が大麻を吸うというのはありえない話なのである。
「いや、さすがに自分が吸うのはちょっと…さすがに勇気ないですね…。」
勇気があるとか無いとかの問題じゃないことくらい分かっているが、上手い返しが思いつかなかった。と、いうよりも斎藤の話す大麻の魅力に引き付けられている自分が居たことは事実だ。
「まぁ気持ちは分かるで。初めは皆そうや!ほな、吸うか吸わんかは今決めんでええやん!1回俺が吸っとるとこ見て決めたらええねん!」
悪い奴が薬物の道に誘う常套句だな。なんて思ったけど誰かが「それくらいならいいんじゃない?」と言っている気がした。多分俺の心の声だと思う。
「分かりました。」と答えてからは一日中足元がフワフワしていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる